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幸せの基準
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「でも、それでも構わないって、思ってた。俺があいつを忘れさせてやるって思ってたんだ。
......ま、結局無理だったけどな」
大和は寂しげな瞳になり、フッと自嘲するように笑った。
「苦しんでるお前をずっと見てた。......けど、いつかはきっと来栖秀一のことは諦めるんだって、そう願ってた......」
大和の周りを苛立ちを含む空気が纏い、棘を含んだような声が突き刺さる。
「分かってるのか?お前とあいつは…」
「分かってる!!!」
美姫はその言葉を最後まで聞きたくなくて、声を荒げた。
「……」
「……」
ふたりの間に剣呑な空気が流れる。
ハァ……と大和が深い溜息をついた。
「俺は...美姫が幸せになって欲しくて美姫と別れたし、友達でいようって決めた。俺じゃなくても、美姫が好きな相手ならそれでいいって思ってた。
でも……あいつ...あの人は……お前を、幸せにはできない……」
「……」
何も言わない美姫に、大和はまるで幼い子供を宥めるかのように優しく言い含める。
「俺は……美姫が不幸になるのを黙って見てられない。分かってるのか?……これは、許される関係じゃないんだ……」
私が、不幸になる……? 許される関係じゃ、ない……?
その言葉に、急に美姫の躰の内側から強い怒りが湧き上がってきた。
「そんなの......言われなくても数えきれないぐらい考えたし、何度も諦めようともした……でも、駄目なの……秀一さんじゃなきゃ、駄目……私には…秀一さんしか、いないの!!!」
何度も罪悪感に呑み込まれ、自分自身に何度も問いかけたことを大和に言われ、それを必死に否定しようと、美姫は猛獣に牙を向けた小動物のように怒りを露わにした。
それは、大和に向けてではなく、寧ろ自分に言い聞かせているかのようでもあった。
美姫はそれが大和にとって残酷な言葉だと分かっていながらも、制御することが出来なかった。
唇をキュッと結ぶと精一杯大和を睨みつけ、噛み付くような勢いで叫ぶ。だが、その躰は小刻みに震え、胸の内から溢れ出した感情で涙ぐんでいた。
「不幸になるって、なに?幸せの基準は自分がどう感じるかでしょ?世間のいう幸せとか、関係ない!!
私は…私にとっての幸せは、秀一さんと一緒にいることなの!!好きな人を好きって思って何がいけないの?叔父とか姪とか関係ない!! 大和に…私の幸せの基準を押し付ける権利なんて、ない!!!」
そこまで一気に捲し立てた後、美姫は自分が言い過ぎたことに気付き、ハッとして口を押さえた。居た堪れず席を立ち上がり、扉へと向かおうとする美姫の手首を大和が再び掴む。
「離してっ!」
振り払おうとする美姫に、大和は今度は力を入れて手首を握った。
「......おじさんやおばさんのことは、考えたのか?」
低く重く響くその言葉に、美姫の心臓に杭を打たれたような痛みが走る。
お父様、お母様……
先週、食事をした時のことが脳裏に浮かび上がる。自分を慈しみ、深い愛情で包み込んでくれる、両親の姿が。
美姫の怒りが急速に引いていき、代わりに悲しみや罪悪感......様々な感情が渦を巻いて襲いかかる。
「美姫のことを愛しているのは一人だけじゃない。大切な家族を裏切ることになるんだぞ」
力が込められていた美姫の手がその瞬間、ふっと弱まり力をなくした。美姫の美しい顔が切なく苦しげに歪められ、大和を見上げる。
美姫……
こんな時ですら、美姫のことを愛おしく思ってしまう自分に呆れながら、これで自分は完全に美姫に嫌われた、と絶望する気持ちが大和の中に入り混じる。
「……お、ねがい。はな、して……」
弱々しく掠れるような声なのに、その芯には抵抗できないような強さがあった。
掴んだ手首を離すと、美姫が扉へとフラフラと歩き出す。その華奢な背中を抱き締め、どこにも行かせたくない衝動を大和は抑え、グッと拳を握り、美姫が出て行くのを目で追った……
美姫はドアノブに手を掛けると一瞬肩を震わせ、そのまま大和と目を合わす事なく、扉を開けると部屋を出て行った。
......ま、結局無理だったけどな」
大和は寂しげな瞳になり、フッと自嘲するように笑った。
「苦しんでるお前をずっと見てた。......けど、いつかはきっと来栖秀一のことは諦めるんだって、そう願ってた......」
大和の周りを苛立ちを含む空気が纏い、棘を含んだような声が突き刺さる。
「分かってるのか?お前とあいつは…」
「分かってる!!!」
美姫はその言葉を最後まで聞きたくなくて、声を荒げた。
「……」
「……」
ふたりの間に剣呑な空気が流れる。
ハァ……と大和が深い溜息をついた。
「俺は...美姫が幸せになって欲しくて美姫と別れたし、友達でいようって決めた。俺じゃなくても、美姫が好きな相手ならそれでいいって思ってた。
でも……あいつ...あの人は……お前を、幸せにはできない……」
「……」
何も言わない美姫に、大和はまるで幼い子供を宥めるかのように優しく言い含める。
「俺は……美姫が不幸になるのを黙って見てられない。分かってるのか?……これは、許される関係じゃないんだ……」
私が、不幸になる……? 許される関係じゃ、ない……?
その言葉に、急に美姫の躰の内側から強い怒りが湧き上がってきた。
「そんなの......言われなくても数えきれないぐらい考えたし、何度も諦めようともした……でも、駄目なの……秀一さんじゃなきゃ、駄目……私には…秀一さんしか、いないの!!!」
何度も罪悪感に呑み込まれ、自分自身に何度も問いかけたことを大和に言われ、それを必死に否定しようと、美姫は猛獣に牙を向けた小動物のように怒りを露わにした。
それは、大和に向けてではなく、寧ろ自分に言い聞かせているかのようでもあった。
美姫はそれが大和にとって残酷な言葉だと分かっていながらも、制御することが出来なかった。
唇をキュッと結ぶと精一杯大和を睨みつけ、噛み付くような勢いで叫ぶ。だが、その躰は小刻みに震え、胸の内から溢れ出した感情で涙ぐんでいた。
「不幸になるって、なに?幸せの基準は自分がどう感じるかでしょ?世間のいう幸せとか、関係ない!!
私は…私にとっての幸せは、秀一さんと一緒にいることなの!!好きな人を好きって思って何がいけないの?叔父とか姪とか関係ない!! 大和に…私の幸せの基準を押し付ける権利なんて、ない!!!」
そこまで一気に捲し立てた後、美姫は自分が言い過ぎたことに気付き、ハッとして口を押さえた。居た堪れず席を立ち上がり、扉へと向かおうとする美姫の手首を大和が再び掴む。
「離してっ!」
振り払おうとする美姫に、大和は今度は力を入れて手首を握った。
「......おじさんやおばさんのことは、考えたのか?」
低く重く響くその言葉に、美姫の心臓に杭を打たれたような痛みが走る。
お父様、お母様……
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美姫の怒りが急速に引いていき、代わりに悲しみや罪悪感......様々な感情が渦を巻いて襲いかかる。
「美姫のことを愛しているのは一人だけじゃない。大切な家族を裏切ることになるんだぞ」
力が込められていた美姫の手がその瞬間、ふっと弱まり力をなくした。美姫の美しい顔が切なく苦しげに歪められ、大和を見上げる。
美姫……
こんな時ですら、美姫のことを愛おしく思ってしまう自分に呆れながら、これで自分は完全に美姫に嫌われた、と絶望する気持ちが大和の中に入り混じる。
「……お、ねがい。はな、して……」
弱々しく掠れるような声なのに、その芯には抵抗できないような強さがあった。
掴んだ手首を離すと、美姫が扉へとフラフラと歩き出す。その華奢な背中を抱き締め、どこにも行かせたくない衝動を大和は抑え、グッと拳を握り、美姫が出て行くのを目で追った……
美姫はドアノブに手を掛けると一瞬肩を震わせ、そのまま大和と目を合わす事なく、扉を開けると部屋を出て行った。
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