上 下
83 / 1,014
幸せの基準

しおりを挟む
 美姫達は週末限定のブランチコースを頼んだ。ここのブランチはとても人気なので、何ヶ月も前から予約が必要な程だ。店内は優雅なブランチを楽しむ有閑マダムのグループや上品な老夫婦等、客の年齢層が高く、見た限り美姫達4人が唯一の若いグループのようだった。

 白い長方形の皿に色鮮やかに並べられたアペタイザーの4種盛りが並べられ、その彩りの華やかさと飾り付けの美しさに美姫と薫子はひとしきり盛り上がった。それぞれのグラスにシャンパンを注いでもらうと皆のテンションが一気に上がる。美姫以外は既に20歳になっているので、公共の場で初めて全員でお酒を飲むこととなった。

 大和がシャンパングラスを手にもつ。

「では、美姫の20歳の誕生日を祝って……」
『かんぱーい!!!』

 グラスの合わさる高い音が重なった後、それぞれグラスからシャンパンを口に含み、微笑みが溢れる。

「美姫、誕生日おめでとう! これ、私達から」

 『私達』と言った後で悠と目配せをして、薫子はゴージャスな薔薇柄のラッピングバッグを渡した。

 それは、パリに本店があり、今年東京に海外1号店がオープンする予定になっている、有名なバスグッズを扱う店のバッグだった。ここで扱う品は全てこの店の管理下にある薔薇園で育てられた特別な薔薇から作られており、薔薇の種類ごとに出されたバスグッズのラインはパリのマダムだけでなく、世界中のセレブに愛されている。

 相変わらず、仲いいなぁ……

 言葉を交わさなくても通じ合う二人に、美姫は微笑ましさと少しの羨望を感じた。

「ありがとう。開けていい?」
「もちろん!」

 ラッピングバッグからティッシュを抜き出し、手に取る。ティッシュからも薔薇の上品な香りが漂ってきた。

「わぁ、素敵!」

 そこには白地にピンクのラインでデザインされた「Princesse de Monaco」ラインのバスソルト、ボディーシャンプーとボディークリーム、アロマオイル、そして白にピンクの縁取りの入った本物と身紛うくらい精巧に作られた薔薇のキャンドルが入っていた。

「美姫の名前に因んで『プリンセス』のつく薔薇の中から、グレース・ケリーに捧げられたこの「Princesse de Monaco」を美姫のイメージにピッタリだと思って選んでみたの……」

 さすが、薫子のセンスだけあって素敵……

 今まで薫子からは色々なプレゼントをもらってきたが、どれも上品で気品があってお洒落なものばかりだった。

 キャンドルに鼻を近づけて匂いを嗅いでみると、上品で甘い香りが鼻をくすぐった。

「美しくて気品溢れるグレース・ケリーに相応しい香り......すごく優雅な気分になれそう。
 薫子、悠、ありがとう。今夜にでも早速使ってみるね!」
「気に入ってくれてよかったぁ」
「うん」

 薫子と悠は顔を見合わせて微笑み合った。

「これは、俺から……」

 大和が少し照れくさそうに、小さなバッグを美姫の目の前のテーブルにポン、と置いた。

 エメラルドグリーンのそれに既視感を覚え、ドキン...と鼓動が跳ねた。

 でも、まさか中身まで同じなわけないしね……

「ありがとう」

 大和に微笑み、白いリボンでラッピングされた小さい同色の箱を手に取る。リボンを解く美姫の指を大和が、緊張した面持ちで見つめている。

「……っ!!!」

 う、そ......

 そこには、秀一から贈られたものと全く同じ真っ白な薔薇をモチーフにして小さなダイヤモンドが真ん中に埋め込まれたピアスが入っていた。

「ほら美姫、20歳になったらピアス開けたいって話してただろ? どんなんがいいかぜんっぜん分かんなくて、店員さんに一番人気のデザインでって頼んだんだけど……」

 まさか、二人が同じプレゼントを選ぶなんて……今日、秀一さんからもらったピアス、つけてこなくてよかった……

 予想以上に驚いた顔を見せた美姫に対し、心配になった大和が顔を覗き込んだ。 

「あ…もしかして、気に入らなかったか?」
「う、ううん、そんなことない。すごく、可愛い。大和、ありがとう。
 昔に話したこと、覚えててくれてたんだね。でも、大和が買ってるとこ想像すると笑っちゃう」

 フフッと笑いを溢した美姫に、大和の顔が赤くなった。

「あぁ、もぉっ! 想像すんなって! めちゃめちゃ恥ずかしかったんだからな!」
「大和、顔が真っ赤になってる」
「あぁ、悠! いちいち言うなって!!」
『アハハハ……』

 ほら、大丈夫。また私たちは、昔みたいに戻れる。あんな心配、することなかったんだ。

 美姫は心にあった不安を押しのけ、皆と笑顔を交わした。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...