34 / 1,014
男の性 ー秀一過去編ー
2
しおりを挟む
ウィーンに留学し、モルテッソーニのもとで生活する日々は、とても充実したものだった。
朝起きてから夜寝るまでピアノ漬けの日々。それは、美姫を忘れ、諦めたいと思っていた私には好都合の生活だった。『ピアノ界の巨匠』モルテッソーニに直接師事し、才能溢れた若き兄弟弟子の刺激を受け、切磋琢磨する......今までの日本での温い生活が一変し、ピアニストであることの意味や姿勢についても深く考えさせられた。
ピアノに対しては妥協を許さない、だがプライベートではまるで昔からの友人のように接してくれるモルテッソーニ。兄弟弟子の他にも彼の友人や知り合いをたくさん紹介してくれ、オーストリアでの貴重な人脈も作ることができた。
ただ......いつも心のある空間には美姫がいて、多忙な生活の中のほんの僅かなフッとした時に彼女の笑顔や泣き顔や恥ずかしがっている顔、切ない顔が脳裏に何度も蘇った。
美姫に会いたい……
幾度も恋しく思う度手紙やメールを書き出すものの、美姫に何と言っていいか分からず、結局、安否を尋ねる事務的な内容になってしまっていた。モルテッソーニから学ぶことは多く、また、彼の所属していたオーケストラにも熱心に誘われて所属した為、演奏会も重なり、とても帰国できるような状況ではなかった。
ようやく大きい公演が終わり、帰国の目処をたてているところに日本で私のピアノリサイタルを開く話が持ち上がった。今度新しく始まるドラマのテーマソングで使用する曲を私に弾いてもらいたい、というスポンサー側の要望もあった。
結局、帰国しても仕事に謀殺されそうですね……会えるかどうかも分からないのに、余計な期待をかけて失望させるかもしれない。
そう思い、美姫には帰国のことは話さずにいた。
オーストリアから成田空港へと着くと、マネージャーの上條 智子が迎えに来ていた。
「帰国して早々申し訳ないのですが、これから打ち合わせに出られますか?」
ドラマの制作発表で、スポンサーは私のことを大々的に取り上げたい意志があったので、ドラマの制作発表に参加するメンバーと共に打ち合わせをしたいとのことだった。
スーツケースは上條に後でホテルに運んでもらうように頼み、彼女の車で現場へと向かった。自宅のマンションは売らずにそのままにしてあったが、家政婦との契約は解除していたためホテルに滞在することにしたのだった。
美姫……こんなに近くに来ているというのに……
後部座席に深く腰掛けた私は、溜息をついた。
テレビ局には何度か訪れたことがあったが、ドラマの制作発表の打ち合わせの現場に入ることは初めてだった。マネージャーからスポンサーの代表やドラマのプロデューサー、脚本家など次々と紹介される。
その中にいたのが、若手女優の加賀美 梨華だ。主人公の妹役を務めることになっている。
「あなたが噂の『ピアノの貴公子』ね。そこらへんの俳優なんかよりもずっといい男……一緒にお仕事できて、嬉しいわ」
最近注目されている若手女優と聞いていましたが…たいしたことはなさそうですね。ですが、親密にしておけば仕事がスムーズに進みそうな相手ではある、か……
梨華は積極的にアプローチをかけてきて、肉体関係をもつのに時間はかからなかった。ただの性欲処理…ドラマの制作発表が終わり、リサイタルが成功し、モルテッソーニの元へ戻ればまた普段通りの生活。その、筈だった。
分刻みのスケジュールに謀殺される中、それでも...一目でも美姫に会いたくて、僅かな休憩時間にリサイタルの招待状を2枚封筒に入れ、マネージャーにポストに投函するよう頼んでおいた。
美姫ならきっと、楽屋に挨拶に来るはず……
連日のように楽屋に押しかけてきていた梨華に、美姫を招待した日だけは来ないようにと伝えておいた。
朝起きてから夜寝るまでピアノ漬けの日々。それは、美姫を忘れ、諦めたいと思っていた私には好都合の生活だった。『ピアノ界の巨匠』モルテッソーニに直接師事し、才能溢れた若き兄弟弟子の刺激を受け、切磋琢磨する......今までの日本での温い生活が一変し、ピアニストであることの意味や姿勢についても深く考えさせられた。
ピアノに対しては妥協を許さない、だがプライベートではまるで昔からの友人のように接してくれるモルテッソーニ。兄弟弟子の他にも彼の友人や知り合いをたくさん紹介してくれ、オーストリアでの貴重な人脈も作ることができた。
ただ......いつも心のある空間には美姫がいて、多忙な生活の中のほんの僅かなフッとした時に彼女の笑顔や泣き顔や恥ずかしがっている顔、切ない顔が脳裏に何度も蘇った。
美姫に会いたい……
幾度も恋しく思う度手紙やメールを書き出すものの、美姫に何と言っていいか分からず、結局、安否を尋ねる事務的な内容になってしまっていた。モルテッソーニから学ぶことは多く、また、彼の所属していたオーケストラにも熱心に誘われて所属した為、演奏会も重なり、とても帰国できるような状況ではなかった。
ようやく大きい公演が終わり、帰国の目処をたてているところに日本で私のピアノリサイタルを開く話が持ち上がった。今度新しく始まるドラマのテーマソングで使用する曲を私に弾いてもらいたい、というスポンサー側の要望もあった。
結局、帰国しても仕事に謀殺されそうですね……会えるかどうかも分からないのに、余計な期待をかけて失望させるかもしれない。
そう思い、美姫には帰国のことは話さずにいた。
オーストリアから成田空港へと着くと、マネージャーの上條 智子が迎えに来ていた。
「帰国して早々申し訳ないのですが、これから打ち合わせに出られますか?」
ドラマの制作発表で、スポンサーは私のことを大々的に取り上げたい意志があったので、ドラマの制作発表に参加するメンバーと共に打ち合わせをしたいとのことだった。
スーツケースは上條に後でホテルに運んでもらうように頼み、彼女の車で現場へと向かった。自宅のマンションは売らずにそのままにしてあったが、家政婦との契約は解除していたためホテルに滞在することにしたのだった。
美姫……こんなに近くに来ているというのに……
後部座席に深く腰掛けた私は、溜息をついた。
テレビ局には何度か訪れたことがあったが、ドラマの制作発表の打ち合わせの現場に入ることは初めてだった。マネージャーからスポンサーの代表やドラマのプロデューサー、脚本家など次々と紹介される。
その中にいたのが、若手女優の加賀美 梨華だ。主人公の妹役を務めることになっている。
「あなたが噂の『ピアノの貴公子』ね。そこらへんの俳優なんかよりもずっといい男……一緒にお仕事できて、嬉しいわ」
最近注目されている若手女優と聞いていましたが…たいしたことはなさそうですね。ですが、親密にしておけば仕事がスムーズに進みそうな相手ではある、か……
梨華は積極的にアプローチをかけてきて、肉体関係をもつのに時間はかからなかった。ただの性欲処理…ドラマの制作発表が終わり、リサイタルが成功し、モルテッソーニの元へ戻ればまた普段通りの生活。その、筈だった。
分刻みのスケジュールに謀殺される中、それでも...一目でも美姫に会いたくて、僅かな休憩時間にリサイタルの招待状を2枚封筒に入れ、マネージャーにポストに投函するよう頼んでおいた。
美姫ならきっと、楽屋に挨拶に来るはず……
連日のように楽屋に押しかけてきていた梨華に、美姫を招待した日だけは来ないようにと伝えておいた。
1
お気に入りに追加
343
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる