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空白の時間

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 連れてきてもらったのはオーストリア料理のレストランだった。オーストリアといえば、秀一が2年間モルテッソーニの元で暮らしていた国だ。

「ここは、オーストリア国家公認キュッヘン(料理)マイスターのいるレストランなんですよ」

 秀一が扉を開け、優雅に美姫をエスコートした。

 受付の天井からは豪華なシャンデリアが吊るされ、天井まで届く飾り棚の木目には細かい彫刻が施してあり、その中央には飾り棚と同じ素材の受付机があった。

「来栖様、お待ちしておりました……」

 四人掛けのテーブルの個室へと通された。そこにも細かい彫刻の入った飾り棚が置かれ、中には美しいガラス細工の置き物が並んでいた。天井から吊るされた豪華なシャンデリアが二人を眩く照らし出す。

「ここなら、人目を気にせずゆっくりと美姫と食事が出来ると思いまして」

 そんな秀一の気遣いがとても嬉しくて、美姫は微笑んだ。

 遅めの朝食を摂っただけだったので、フルコースで頼むことにした。

「美姫は細い割によく食べますからね」

 からかうように言われて、美姫は少し拗ねたように唇を尖らせた。

「それって、褒め言葉って受け止めていいんですか?」
「えぇ、もちろんですよ。豊かな食事は豊かな人生を彩るものですから」

 美姫は、返す言葉をなくす。

 秀一さんは、ズルい…いつもそうやって私に反論する余地を与えてくれない……

 アミューズやオードブル、魚料理や肉料理などそれぞれの料理に合わせたグラスワインを持って来てもらうことができるのもこの店の魅力だった。

「ハァ…美味しい…」

 思わず溜息混じりに呟く美姫に、秀一が笑みを溢す。

「美姫は本当に美味しそうに食べますね。見ていると私も幸せになりますよ」

 秀一の慈しむような眼差しに、美姫の胸が騒ぎ出して落ち着かない。

「だって、本当に美味しいから…あ、特にこのオードブルの海老にかかったソースがとても美味しかったです」
「では、もっと味わいますか?」
「え…?」

 秀一が蠱惑的な表情を浮かべる。

「口を開けて下さい…」

 秀一の指がソースを絡め取ると、美姫の口の中へと挿し込まれる。濃厚なクリームソースの絡んだ秀一の指が口内で淫靡に掻き回される。

「んんっ…ハァッ…」

 や、だ…厭らしい気分にさせられる……

 秀一の指が口から抜かれると、美姫の目の前に指先を見せつけられ、促されるように舌で残りのソースを舐め取った。秀一の視姦にゾクゾクし、甘い蜜が中心から溢れてくるのを感じる。

「どうですか、お味は?」

 秀一は指を離すと何事もなかったかのように微笑んだ。

 味なんて……そんな余裕…ないよ……
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