上 下
22 / 1,014
初めてを捧げた人 ー美姫過去編ー

しおりを挟む
 夏休みを2週間後に控えた7月の日曜日。
 私たちは久し振りに4人で集まって映画を観に行くことになっていた。

 中等部まではどこに行くにも運転手さんに甘えていたけれど、高等部に入ってからは両親の方針と私の希望により、運転手さんはつけず電車で通学するようになった。その為、いくらか東京の公共交通機関にも慣れてきた。

 とはいえ慣れない場所に一人で行くことに不安を感じ、結局大和に迎えに来てもらい、そこから二人で待ち合わせ場所へと向かうことにした。

 モノレールに乗るのは初めてで、ゆりかもめに乗るだけで興奮気味の私を中等部から電車通学し、どこにでも一人で行ける大和がからかい、じゃれるようにふざけ合いながら台場駅で降りた。笑顔が自然に溢れてくる。

 そこから待ち合わせ場所であり、目的地でもある映画館の入っている薄いコーラルピンクとオレンジを混ぜ合わせたような色の建物の大型複合ショッピングセンターへと続く遊歩道を歩いた。

 185cmと秀一さんよりも背が高く、小等部から中等部まで野球で鍛えたがっしりとした体格の大和はかなり目立つ。黒いTシャツに革紐チョーカー、白と水色のチェックのリネンシャツを羽織り、ユーズドデニムのハーフパンツにローカットスニーカーというカジュアルな中にも少し大人っぽさを併せ持つスタイル。
 それは、短髪で精悍な顔つきに明るく優しい雰囲気を持った大和に合っていた。

 女の子たちの視線が、大和を見つめては流れていくのを感じる。けれど私はそれよりも、テレビ局が入っている球体がはめ込まれた近代的な印象の建物や、お台場のシンボルでもある自由の女神像を爽やかな海風を感じながら眺め歩くことに夢中だった。

 まるでこのエリア一帯がテーマパークのようで、歩いているだけでワクワクした。

「美姫ぃ、お前都心に住んでるくせに、おのぼりさんみたいになってるぞ」

 大和が、悪態をつきながらも優しく笑いかける。

「いいでしょ、ウキウキしたって。ここに来るの、すごく久し振りなんだもん!」

 肩と胸元にレースが入った白いワンピースの裾をひらめかせながら答えた。

 大和といると、私は15歳の普通の女子高生でいられる。

ーー叔父に密かに想いを抱く、苦しさや辛さを忘れることが出来た。


 専属の運転手さんが送迎してくれる薫子と悠は、電車に乗ることは殆どなかった。都心に建つ学園は少し歩けば何でもあったから、授業が終わってから遊びに行く時にはいつも歩いて出掛けていた。だが、二人は車の迎えが来る時間が決まっている為、あまり長く遊ぶことは出来なかった。まさに、深窓の令嬢と子息だ。
 こんな時、私は理解ある両親に感謝していた。

「まだ、二人とも来てないね」

 周りを見渡して確認した後、私たちは今日観る予定の映画について語り合った。

 超大作ファンタジーと言われるこの映画は二人とも大ファンで、映画だけでなくDVDでも何度も繰り返し観たり、もちろん原作も読んだし、ファンブックも手に入れる程熱が入っていた。前作から1年半後の待ちにまった第二弾ということで、私と大和は映画が始まる前から既に気持ちが昂ぶっていた。

「お待たせ」

 最高に話が盛り上がっている中、薫子と悠が現れた。

 二人はどこかで事前に待ち合わせしてからここに来たらしく、当然のようにしっかりと指を絡ませ手を繋いでいて、すっかり恋人同士の雰囲気を感じさせていた。

 上品で清楚なネイビーブルーの半袖のシフォンワンピースを着た薫子と上質な無地の白Tシャツの上に七分袖のネイブーブルーのカーデを着こなす悠は、申し合わせたかのように服装までお似合いだった。もう今までの友達関係ではないことを、強く私に視覚で訴えてくる。

 途端に、私の中にあった熱がスッと引いていくのを感じた。 

 高等部に入ってから薫子とクラスが離れてしまい、以前のようにいつでも一緒に過ごすことができなくなった。薫子と同じクラスの悠はいつでも薫子を独占していた。唯一4人で過ごせるお昼ご飯の時間でも二人きりの甘い雰囲気を醸し出し、私と大和はなんだかそこにいてはいけないような空気を感じていた。

 高等部に入ってからというものの、ますます秀一さんとの距離が離れたのを感じていろいろと聞いて欲しいことがあるのに、薫子と過ごすことができず、寂しかった。メールや電話をしても、薫子からは常に悠の話ばかり。

 幸せそうな二人を祝福したいのに……妬ましい気持ちが、嫉妬が、沸き起こるのを感じる。秀一さんとなかなか会えず、会っても他人行儀な態度をとられ、その寂しくて悲しい気持ちを打ち明けたいのに……出来なかった。

 勝負じゃないのに、なんだか負けた気がして……薫子に、昔のように何でも話せなくなっていた。

 でも今日はせっかく久しぶりに4人で過ごすんだもの、楽しく過ごしたい。

「じゃ、行こっか」

 ぎこちない笑顔を見せ、足早に二人を追い越して映画館へと向かった。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...