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告白
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見られてるわけじゃないのに……誰かに見られているようで、後ろめたさを感じてしまう。
秀一は美姫の口内から指を外すと、濡れた指先を舐め取った。
「出ても、よろしいのですよ? ただし、会話はこちらでして下さいね」
秀一のどこか威圧的な響きに従い、美姫は無言で頷くとゆっくりとベッドから下りた。
リビングルームへと戻り、革のシルバーにダイヤモンドが留め金部分に嵌め込まれたクラッチバックを手にすると、パールピンクのスマホを取り出した。途端に音が止み、留守電に切り替わる。
よかった。これで、秀一さんの目の前で会話をしなくて済む……
安堵し、スマホをバックへと戻そうとした途端、再びスマホの電子音が響き渡った。
逃げられない……
そう覚悟してスマホを握り締めた美姫はベッドルームへと足早に戻り、ベッドの端に腰掛けると番号表示のないスマホの通話ボタンを押した。
「もし、もし…?」
恐る恐る電話に出る声が、不安で僅かに震える。
『美姫ちゃん?誕生日、おめでとう!』
明るい言葉と共に、後ろからも、『おめでとぉーーーっっっ!!』と、たくさんの声が聞こえてくる。
「礼音!?」
『ビックリした? ははっ、驚かせたくて番号非通知にしたんだけど、一回目掛けた時に留守電になったからもしかして無視されてるかと思って焦ったぁ。今さぁ、サークルのみんなで飲んでるんだけどよかったらこっち来ない?ほら、この前彼氏いなくて、当日は叔父さんと食事行くだけって言ってたでしょ。寂しい思いしてるんじゃないかと思ってさ』
その言葉にジワリ…と額から冷たい汗が落ちる。
「あ、りがとう。でも、今日はもう遅いしやめとくね」
『えっ! そうなの?大丈夫!? 寂しいなら、俺が今からそっちに行ってあげようか?』
な、なんでっっ!?
焦る気持ちと共に美姫が秀一をチラリと伺うと、表情の読めない笑みを浮かべている。
なんか……すごい誤解をされてそうで恐い……
「いいっ、いいっ!! もう、寝てたとこだから。じゃあ、またサークルでね」
『それじゃ、寂しくなったらいつでも電話して。まだこいつらとしばらく飲んでるからさ』
お願いだから、これ以上誤解されるようなこと言わないでっ…!!!
「分かった、ありがとう。それじゃ、おやすみ……」
最後の言葉と同時にスマホを切り、秀一の顔が見られず……美姫は顔を俯かせた。
秀一さん……怒ってるかな?
不安に陥る美姫の手首を秀一が掴んで引き寄せると、もう一方の手で美姫の手元にまだあったスマホを取り、サイドテーブルにコトン、と置いた。
「随分、仲の良いお友達のようですね」
秀一の言葉に、美姫はピクリと肩を震わせた。冷たい汗が背中を伝って流れ落ちる。
「礼音っ…彼、はっ…ただの大学のサークル仲間の一人でっ…」
本当のことを言ってるにも関わらず、なぜか声が上擦ってしまう。
「そうですか、同じサークルの……名前を呼び捨てにする程の、仲なのですね」
秀一の美しい顔が美姫に近づき、その迫力に美姫は後退った。
「そ、れはっ…サークルのみんながそう呼んでるから……」
後退る美姫に更に迫ると、秀一の長く細い指が美姫の頬を撫でる。
「こっちに来い、だとか...家に行く、だとか話していたようでしたが?」
ま、まずい。そんな言い方……本当に誤解されちゃうよね。
感情の籠もらない淡々と告げる秀一の声が、余計に恐ろしさを増長させる。なぜならそれは、秀一がとても怒った時に見せるものだと美姫は知っているからだ。
なんだか、嫌な予感が、する……
「礼音はっ!私だけじゃなく、誰に対してもいつもあんな感じなんですっ!!!」
お願いっ! 秀一さんっ……信じてっ……!!
潤んだ瞳で秀一を見上げた美姫に、無感情の声が畳み掛ける。
「彼氏はいない、とか......そんな話もするんですね」
「それはっ。サークル仲間の飲み会でみんなで話してた時にたまたま話題になって……」
大学生であれば当然話題に上がる普通のことであるのに、今の美姫は重大な秘密を知られてしまったかのような気持ちになっていた。
美姫の耳朶を秀一の指先が摘み、低い声が吐息と共に囁かれた。
「誕生日は、『ただ叔父さんと食事に行くだけ』……」
あ……
「そ、それ、はっ。ま、さか……秀一さんとこんな風になれると思ってなかったの、でっ…」
秀一への想いを断とうとしてわざとそんな風に言ってしまった過去の自分を、美姫は恨めしく思った。
秀一が美しい指先を揃えた手で美姫の頬を包み込むと、完璧な笑みをにっこりと浮かべた。
えっ……
「分かりました」
信じて、くれた…の?
安堵しかけた美姫の頬に秀一の口づけが落とされ、絶望的な秀一の言葉が投げ掛けられる。
「どうやら、美姫には……お仕置きが必要なようですね?」
お仕置き、って……
美姫は、背筋に寒いものが走るのを感じた。
秀一は美姫の口内から指を外すと、濡れた指先を舐め取った。
「出ても、よろしいのですよ? ただし、会話はこちらでして下さいね」
秀一のどこか威圧的な響きに従い、美姫は無言で頷くとゆっくりとベッドから下りた。
リビングルームへと戻り、革のシルバーにダイヤモンドが留め金部分に嵌め込まれたクラッチバックを手にすると、パールピンクのスマホを取り出した。途端に音が止み、留守電に切り替わる。
よかった。これで、秀一さんの目の前で会話をしなくて済む……
安堵し、スマホをバックへと戻そうとした途端、再びスマホの電子音が響き渡った。
逃げられない……
そう覚悟してスマホを握り締めた美姫はベッドルームへと足早に戻り、ベッドの端に腰掛けると番号表示のないスマホの通話ボタンを押した。
「もし、もし…?」
恐る恐る電話に出る声が、不安で僅かに震える。
『美姫ちゃん?誕生日、おめでとう!』
明るい言葉と共に、後ろからも、『おめでとぉーーーっっっ!!』と、たくさんの声が聞こえてくる。
「礼音!?」
『ビックリした? ははっ、驚かせたくて番号非通知にしたんだけど、一回目掛けた時に留守電になったからもしかして無視されてるかと思って焦ったぁ。今さぁ、サークルのみんなで飲んでるんだけどよかったらこっち来ない?ほら、この前彼氏いなくて、当日は叔父さんと食事行くだけって言ってたでしょ。寂しい思いしてるんじゃないかと思ってさ』
その言葉にジワリ…と額から冷たい汗が落ちる。
「あ、りがとう。でも、今日はもう遅いしやめとくね」
『えっ! そうなの?大丈夫!? 寂しいなら、俺が今からそっちに行ってあげようか?』
な、なんでっっ!?
焦る気持ちと共に美姫が秀一をチラリと伺うと、表情の読めない笑みを浮かべている。
なんか……すごい誤解をされてそうで恐い……
「いいっ、いいっ!! もう、寝てたとこだから。じゃあ、またサークルでね」
『それじゃ、寂しくなったらいつでも電話して。まだこいつらとしばらく飲んでるからさ』
お願いだから、これ以上誤解されるようなこと言わないでっ…!!!
「分かった、ありがとう。それじゃ、おやすみ……」
最後の言葉と同時にスマホを切り、秀一の顔が見られず……美姫は顔を俯かせた。
秀一さん……怒ってるかな?
不安に陥る美姫の手首を秀一が掴んで引き寄せると、もう一方の手で美姫の手元にまだあったスマホを取り、サイドテーブルにコトン、と置いた。
「随分、仲の良いお友達のようですね」
秀一の言葉に、美姫はピクリと肩を震わせた。冷たい汗が背中を伝って流れ落ちる。
「礼音っ…彼、はっ…ただの大学のサークル仲間の一人でっ…」
本当のことを言ってるにも関わらず、なぜか声が上擦ってしまう。
「そうですか、同じサークルの……名前を呼び捨てにする程の、仲なのですね」
秀一の美しい顔が美姫に近づき、その迫力に美姫は後退った。
「そ、れはっ…サークルのみんながそう呼んでるから……」
後退る美姫に更に迫ると、秀一の長く細い指が美姫の頬を撫でる。
「こっちに来い、だとか...家に行く、だとか話していたようでしたが?」
ま、まずい。そんな言い方……本当に誤解されちゃうよね。
感情の籠もらない淡々と告げる秀一の声が、余計に恐ろしさを増長させる。なぜならそれは、秀一がとても怒った時に見せるものだと美姫は知っているからだ。
なんだか、嫌な予感が、する……
「礼音はっ!私だけじゃなく、誰に対してもいつもあんな感じなんですっ!!!」
お願いっ! 秀一さんっ……信じてっ……!!
潤んだ瞳で秀一を見上げた美姫に、無感情の声が畳み掛ける。
「彼氏はいない、とか......そんな話もするんですね」
「それはっ。サークル仲間の飲み会でみんなで話してた時にたまたま話題になって……」
大学生であれば当然話題に上がる普通のことであるのに、今の美姫は重大な秘密を知られてしまったかのような気持ちになっていた。
美姫の耳朶を秀一の指先が摘み、低い声が吐息と共に囁かれた。
「誕生日は、『ただ叔父さんと食事に行くだけ』……」
あ……
「そ、それ、はっ。ま、さか……秀一さんとこんな風になれると思ってなかったの、でっ…」
秀一への想いを断とうとしてわざとそんな風に言ってしまった過去の自分を、美姫は恨めしく思った。
秀一が美しい指先を揃えた手で美姫の頬を包み込むと、完璧な笑みをにっこりと浮かべた。
えっ……
「分かりました」
信じて、くれた…の?
安堵しかけた美姫の頬に秀一の口づけが落とされ、絶望的な秀一の言葉が投げ掛けられる。
「どうやら、美姫には……お仕置きが必要なようですね?」
お仕置き、って……
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