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After Story3 ー怖いぐらいに幸せな……溺愛蜜月旅行❤️ー
DAY1ー5
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秀一に弾いて欲しい曲ならたくさんある。ふたりが思いを通じ合わせることになった「エリーゼのために」、初めて一夜を過ごした翌朝に聴いた「愛の夢 第三番」、圧倒的な「ピアノ協奏曲 第二番」、「悲愴」、そして秀一が美姫への愛を表現するため自ら作曲した「プリンセス・ビューティー」。
けれど、せっかくなら、今この瞬間にしか聴くことの出来ない曲。新たな思い出の1ページとなるような曲を、秀一に弾いて欲しかった。
こうして新婚旅行として、クルーズに来てるから……
「海、とか……船のイメージの曲なんて、どうですか?」
「海、ですか。ドビュッシー作曲の『海』がありますが……全体の曲調が暗い旋律が多く、激しい感じがありますね」
「暗いのは、ちょっと……」
嵐や遭難をイメージさせられるような曲は、嫌だなぁ。
美姫は人差し指を口元に持って行き、思案した。
「もっと華やかで……穏やかでありながらキラキラした感じの曲って、ないですか?」
うまく説明が出来ずもどかしい思いで伝えると、秀一はフッと口元を緩めた。
「では、これはいかがですか?」
秀一の指がピアノを奏で始める。美姫は「ぁっ……」と小さく声を上げた。
これ、お正月によく流れる曲だ。
お正月に琴と尺八で演奏される、宮城道雄作曲の「春の海」。だが、こうしてピアノ演奏で聴くと、別の趣があった。
リズムから「春の海」であることは分かったけど……全然、違う。
私の知っている、あの「春の海」とは別の曲だ。
美姫は、秀一の奏でる「春の海」の旋律に耳を傾けた。
秀一は音を溜めることなく、流れるように弾いている。優しく、穏やかな旋律だ。ピアノを奏でる秀一もまた、柔らかい表情を見せていた。
閑かな海の光景が、脳裏に広がっていく。太陽の光を受けてキラキラと輝き、ゆっくりと揺蕩う波が美しい。風が優しく凪ぎ、空の青さが目に染みる。
波が細かく泡立ちながら、踊っている。何十もの層が重なり、また離れていく。海と風が戯れているかのようだ。
なんて愉しくて、軽快なリズムだろう。
美姫の表情が自然と綻んでくる。
外国のクラシック音楽を演奏するかと思っていたのに、秀一が選んだのは
日本の伝統的なお正月の曲である「春の海」であったことに驚くとともに、彼の引き出しの多さ、感性の豊かさに感心した。
また、「春の海」という曲から別の世界を見せてくれたことに感激し、胸が熱くなる。
秀一の指がピアノから離れ、美姫は夢から醒めたようにほぉ……と、溜息を吐いた。
「お気に召していただけましたか、私のお姫様?」
秀一が優美に立ち上がり、軽く右手を曲げてお辞儀して見せた。
「はいっ! とても!
とても、素敵な『春の海』でした!!」
感情の堰を止められず、息急き切って喋り出す勢いの美姫に、フフッと秀一が笑う。
「しゅっ、秀一さんっ! ほんっとに感動したんですっっ!! あんな『春の海』、思ってもいなくて。ピアノ演奏がこれほどまでにお正月のイメージを覆して、生まれ変わるなんて……私、私、もっともっと伝えたいことがたくさんあって!!」
「クスクス……えぇ、あなたの思いは十分に届きましたよ。
こんなに喜んでいただけて、私も本望です」
「もうっ、私は真剣なのに……」
むくれた美姫の頰に、秀一の唇が優しく触れた。彼の色香に包まれ、柔らかい唇の感触に一気に躰が火照らされる。
「すみません、貴女の反応が可愛すぎて……これ以上言われたら、ここでやめてあげられなくなります。
他の部屋も見たいのでしょう?」
美姫は黙りこくったまま、秀一を恨めしそうに見上げた。
そんなこと言われたら、怒れなくなっちゃうよ。私はいつまでも、こうして秀一さんに翻弄され続けるんだろうな。
けれど、せっかくなら、今この瞬間にしか聴くことの出来ない曲。新たな思い出の1ページとなるような曲を、秀一に弾いて欲しかった。
こうして新婚旅行として、クルーズに来てるから……
「海、とか……船のイメージの曲なんて、どうですか?」
「海、ですか。ドビュッシー作曲の『海』がありますが……全体の曲調が暗い旋律が多く、激しい感じがありますね」
「暗いのは、ちょっと……」
嵐や遭難をイメージさせられるような曲は、嫌だなぁ。
美姫は人差し指を口元に持って行き、思案した。
「もっと華やかで……穏やかでありながらキラキラした感じの曲って、ないですか?」
うまく説明が出来ずもどかしい思いで伝えると、秀一はフッと口元を緩めた。
「では、これはいかがですか?」
秀一の指がピアノを奏で始める。美姫は「ぁっ……」と小さく声を上げた。
これ、お正月によく流れる曲だ。
お正月に琴と尺八で演奏される、宮城道雄作曲の「春の海」。だが、こうしてピアノ演奏で聴くと、別の趣があった。
リズムから「春の海」であることは分かったけど……全然、違う。
私の知っている、あの「春の海」とは別の曲だ。
美姫は、秀一の奏でる「春の海」の旋律に耳を傾けた。
秀一は音を溜めることなく、流れるように弾いている。優しく、穏やかな旋律だ。ピアノを奏でる秀一もまた、柔らかい表情を見せていた。
閑かな海の光景が、脳裏に広がっていく。太陽の光を受けてキラキラと輝き、ゆっくりと揺蕩う波が美しい。風が優しく凪ぎ、空の青さが目に染みる。
波が細かく泡立ちながら、踊っている。何十もの層が重なり、また離れていく。海と風が戯れているかのようだ。
なんて愉しくて、軽快なリズムだろう。
美姫の表情が自然と綻んでくる。
外国のクラシック音楽を演奏するかと思っていたのに、秀一が選んだのは
日本の伝統的なお正月の曲である「春の海」であったことに驚くとともに、彼の引き出しの多さ、感性の豊かさに感心した。
また、「春の海」という曲から別の世界を見せてくれたことに感激し、胸が熱くなる。
秀一の指がピアノから離れ、美姫は夢から醒めたようにほぉ……と、溜息を吐いた。
「お気に召していただけましたか、私のお姫様?」
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「はいっ! とても!
とても、素敵な『春の海』でした!!」
感情の堰を止められず、息急き切って喋り出す勢いの美姫に、フフッと秀一が笑う。
「しゅっ、秀一さんっ! ほんっとに感動したんですっっ!! あんな『春の海』、思ってもいなくて。ピアノ演奏がこれほどまでにお正月のイメージを覆して、生まれ変わるなんて……私、私、もっともっと伝えたいことがたくさんあって!!」
「クスクス……えぇ、あなたの思いは十分に届きましたよ。
こんなに喜んでいただけて、私も本望です」
「もうっ、私は真剣なのに……」
むくれた美姫の頰に、秀一の唇が優しく触れた。彼の色香に包まれ、柔らかい唇の感触に一気に躰が火照らされる。
「すみません、貴女の反応が可愛すぎて……これ以上言われたら、ここでやめてあげられなくなります。
他の部屋も見たいのでしょう?」
美姫は黙りこくったまま、秀一を恨めしそうに見上げた。
そんなこと言われたら、怒れなくなっちゃうよ。私はいつまでも、こうして秀一さんに翻弄され続けるんだろうな。
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