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After Story3 ー怖いぐらいに幸せな……溺愛蜜月旅行❤️ー
DAY1ー4
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「ちょっと、失礼」
秀一は肩で柔らかく畝っていた髪をひとつにまとめ、ピアノ椅子の高さを調節した。屋根を突き上げ棒で高く固定し、椅子に座るとペダルに足を乗せ、椅子を少し後ろへ動かす。
そのひとつひとつの優艶な動きを、美姫は横に立って見つめていた。普段接するときには見られないピアニストの表情へと変わる瞬間は、何度見ても胸が高鳴る。
「高尾のボンが、ちゃんと仕事をしたかみてみましょうか」
高尾のボンとは、秀一専任のピアノ調律師のことだ。元々は彼の父親が秀一の専任調律師だったのだが、引退を宣言し、それから10年掛けて息子に仕事を引き継いだ。
というのも、高尾は秀一の性格を熟知しており、彼が突然引退して息子に引き継いだところで到底受け入れないことを分かっていた。そこで、早めに引退宣言をし、10年かけて徹底的に息子に秀一の音を耳で、体で覚えさせたのだった。
高尾は現役バリバリの調律師でも、いつかは寄る年波に勝てず、耳が遠くなり、腕が衰えることを理解していた。特に、耳は調律師の命でもある。耳が遠くなってから引退では遅い。そうなる前に、自分のすべてを息子に託したかったのだ。
その間、秀一がスキャンダルを起こし失踪したことも、行方不明となったこともあった。だが、高尾の父は来栖秀一がピアニストとして復帰する日が必ずくることを信じ、息子を説得し、専属調律師として待ち続けた。
プロピアニストと調律師は、レーサーと整備士の関係に例えられることがある。命をかけるほどに強い結びつきがあるということだ。
秀一は手を揉み込むように合わせ、手のマッサージをした。普通、手を広げると顔の大きさとほぼ同じになる。だが、秀一の手は明らかに顔の大きさよりも広く、長く細く節くれだったところが見られない指はピアニストに成るべくして与えられたとしか思えないほど美しく、完璧だった。
秀一の指が鍵盤に触れ、最低音から半音ずつ上がっていき、再び半音ずつ下がっていく。単調な音やリズムが続くのを美姫が見つめていると、秀一が彼女に振り返った。
「つまらないでしょう?」
「い、いえ……そんなこと」
実際、美姫は秀一に目を奪われていて、退屈だなんて少しも感じていなかった。
「……まぁ、これはいつものピアノとは違いますし、及第点といったところですね」
秀一が呟いた。
及第点……相変わらず、秀一さん厳しいな。
そう思いつつも、美姫は秀一が少しずつ高尾の息子にも少しずつ信頼が高まっていることを知っている。だからこそ、彼はわざわざオーストリアから自分のピアノを運ばせることをせず、ニューヨークのベーゼンドルファーを手配して調律させたのだ。
嬉しい気持ちでいると、秀一が美姫の顔を覗き込んだ。
「試しに軽く弾きますが、リクエストはありますか?」
秀一は肩で柔らかく畝っていた髪をひとつにまとめ、ピアノ椅子の高さを調節した。屋根を突き上げ棒で高く固定し、椅子に座るとペダルに足を乗せ、椅子を少し後ろへ動かす。
そのひとつひとつの優艶な動きを、美姫は横に立って見つめていた。普段接するときには見られないピアニストの表情へと変わる瞬間は、何度見ても胸が高鳴る。
「高尾のボンが、ちゃんと仕事をしたかみてみましょうか」
高尾のボンとは、秀一専任のピアノ調律師のことだ。元々は彼の父親が秀一の専任調律師だったのだが、引退を宣言し、それから10年掛けて息子に仕事を引き継いだ。
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その間、秀一がスキャンダルを起こし失踪したことも、行方不明となったこともあった。だが、高尾の父は来栖秀一がピアニストとして復帰する日が必ずくることを信じ、息子を説得し、専属調律師として待ち続けた。
プロピアニストと調律師は、レーサーと整備士の関係に例えられることがある。命をかけるほどに強い結びつきがあるということだ。
秀一は手を揉み込むように合わせ、手のマッサージをした。普通、手を広げると顔の大きさとほぼ同じになる。だが、秀一の手は明らかに顔の大きさよりも広く、長く細く節くれだったところが見られない指はピアニストに成るべくして与えられたとしか思えないほど美しく、完璧だった。
秀一の指が鍵盤に触れ、最低音から半音ずつ上がっていき、再び半音ずつ下がっていく。単調な音やリズムが続くのを美姫が見つめていると、秀一が彼女に振り返った。
「つまらないでしょう?」
「い、いえ……そんなこと」
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「……まぁ、これはいつものピアノとは違いますし、及第点といったところですね」
秀一が呟いた。
及第点……相変わらず、秀一さん厳しいな。
そう思いつつも、美姫は秀一が少しずつ高尾の息子にも少しずつ信頼が高まっていることを知っている。だからこそ、彼はわざわざオーストリアから自分のピアノを運ばせることをせず、ニューヨークのベーゼンドルファーを手配して調律させたのだ。
嬉しい気持ちでいると、秀一が美姫の顔を覗き込んだ。
「試しに軽く弾きますが、リクエストはありますか?」
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