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After Story3 ー怖いぐらいに幸せな……溺愛蜜月旅行❤️ー

DAY1ー2

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 甲板を上がり、船内に入ると列は大蛇のようにぐねぐねと果てしなく続いていたが、秀一はそれを視界に入れることすらなく、真っ直ぐにVIP専用受付入口へと美姫をエスコートした。

「ようこそ、わが社が誇る豪華客船『シンフォニー・オブ・ザ・シーズン』へ
!!」

 受付で満面の笑みで挨拶され、アメリカ人的な陽気さに心が綻ぶ。

「どうぞ、よろしくお願いします」

 軽くお辞儀をした美姫に秀一が振り返り、細く長い指が印象的な掌を向けた。

「美姫、パスポートを」

 受付ではパスポートとSEA PASSを印刷した用紙を見せる。

 このクルーズではアメリカを除いて3カ国を周ることになるため、パスポートの所持が必須なのだ。また、ビザが必要な国ではもちろんビザの所持も必須となる。

 慣れた手つきでスタッフの男性がパソコンに入力し、小型カメラを向けられて写真を撮影すると、すぐにカードが吐き出された。

「クルスシュウイチ様、ミキ様ですね。こちらがおふたりのSEA PASSになります。これが船内のIDであり、ルームキーであり、クレジットカードでもありますので、どうか失くさないよう気をつけてください。もし紛失された場合、再発行費用として50ドルいただきます」

 SEA PASSは背景が黒でゴールドで文字が印字されており、名前や部屋番号だけでなく、予約したレストランの名前、テーブル番号、予約時間、避難時の集合場所の番号まで記載されていた。

 PASSはランクによって色が分かれており、美姫たちが受け取ったカードは最高ランクのものだった。

 秀一が悪戯っぽい視線を投げかける。

「子供には、なくさないよう首からかけるカードホルダーがもらえるそうですよ。美姫ももらっておきましょうか」
「け、結構です!」

 もうっ、秀一さんったら……すぐに揶揄うんだから。

 怒った仕草を見せようとしても、幸せの方が強すぎて、うまく睨むことが出来ない。そんな美姫を秀一は愛しげな目線で包み込み、微笑んだ。

「では、こちらに移動して、健康チェックカードのご記入をお願いします。その間に、担当のコンシェルジェを呼んで参りますので」

 案内されたソファに隣り合って座り、カードに記入していく。渡されたのは英語のものだったが、デスクの上にはポルトガル語やスペイン語、フランス語で書かれたカードも用意されていた。

 カードの記入が終わると同時に、奥から背の高い金髪碧眼の男性が現れた。

「トーマス・マクレガーと申します。このクルーズツアーの間、コンシェルジェとして担当いたしますので、レストランやツアー、エンターテイメントの手配だけでなく、なんでも気軽にご相談ください」

 秀一と美姫が立ち上がると、トーマスは一瞬秀一を見てハッとした顔をしたが、そこは流石プロの表情に戻り、にこやかに握手した。

 トーマスは部屋の最終チェックと荷物が届いているか確認すると告げ、去って行った。
 
 再び受付の男性へと交代する。

「健康チェックカードの記入が終わりましたので、荷物検査に入ります。そちらのベルトコンベヤーに荷物を置き、靴を脱いでから歩いてきてください」

 空港同様の検査が、船内でも行われた。

 セキュリティチェックを抜けた先は船内のDeck4になっていた。船内はFloorではなく、Deckとしてカウントされる。

 この船はDeck3からDeck18まであり、秀一と美姫が宿泊する部屋は、最上階のDeck18にあった。

「先に船内を見て回ってから、部屋へ行きたいですか」

 秀一に問われ、美姫は逡巡した。確かに大きくて広い船内を見て回りたい気持ちもあるが、7泊もするのだから船内はいつでも見て回れるだろう。それよりも、これからふたりが泊まる部屋を早く見てみたかった。

「いえ、まずは部屋へお願いします」

 美姫の言葉を受け、秀一はエレベーターへと向かい、ボタンを押した。すぐに扉が開き、Deck18を押す。エレベーターはガラス張りとなっているため、ここから船内がどのようになっているのかよく見える。

「うわぁ……」

 美姫は小さく声を上げた。

 さまざまなレストラン、バーやブティックが立ち並ぶショッピング街、ホテルの外観の建物、大きなプールにウォータースライダー、屋外シアター……次々に現れる景色に魅せられ、扉に手をついたまま視界が釘付けとなる。

 大きな船内の外殻が見え、真っ青な海が広がりを見せていく。

「This is Deck18」

 案内音声が流れ、美姫はハッとした。

「フフッ……お楽しみはこれからですよ」

 秀一が笑みを浮かべ、美姫に手を差し伸べた。
 
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