上 下
954 / 1,014
After Story2 ー夢のようなプロポーズー

祝福の旋律−9

しおりを挟む
 あっという間に時間が過ぎ去り、ザックの声がけによりパーティーはお開きとなった。

『本当に今日は、私たちのために皆さんお集まり下さり、ありがとうございました』

 秀一は心から礼を述べた後、

『特にザックには、色々と手を尽くしていただき、ありがとうございました』

 とザックに笑みを見せた。

『ワォ! シューイチからお礼を言われるなんて、明日は嵐がきちゃうかも!!』

 ザックは大きく尻尾を振って喜びを表現した。ただ、暑くなってジャケットを脱いで『巨根』Tシャツを着ていたのが非常に残念だったが。

 薫子は顔を真っ赤にし、ザックが子供達の視界に入らないよう気を配った。

 これから仕事に向かうというミシェルとレナードが、先に会場を出て行く。

『フフッ、今日は楽しかったわ。シューイチもたまには社交界に顔を出しなさいな。貴方がいないと、つまらないわ』

 フランススタイルでの挨拶であるビズは通常頬と頬を合わせるものだが、ミシェルはそれを知りながらも秀一の頬に3度も口づけた。美姫はこのやり取りを何度も見ているものの、やはり慣れることはない。

『ミキ、悔しいけど今日の貴女、すっごく輝いてたわ』

 ミシェルが美姫を抱き寄せ、きつい煙草と香水の匂いに包まれる。チュッ、チュッとリップ音を立てながら、頬と頬を3度重ねてから、目を合わせる。

『今度会う時にはホッペーにチューだから、覚悟しといてよ』

 少し怖ろしい気持ちがありつつも、ミシェルとの心の距離が縮まっているのだと感じ、美姫は笑って頷いた。

 隣に立っていたレナードはその間ずっと目を合わそうとしなかったが、ミシェルとのやり取りを終えたのを見届けて顔を上げた。

 美しいアクアマリンの瞳が真っ直ぐに秀一を見つめると、ポケットからチケットを取り出し、彼に渡した。

『今度、リサイタルするんだ。良かったら観に来て』
『ありがとうございます』

 秀一が微笑んで受け取ると、レナードは少し顔を赤らめた。

 やっぱりレナードは、秀一さんのことを未だに好きなのかな……

 隣に佇む美姫は、複雑な心情で二人を見つめた。

 レナードはもう一度ポケットに手を突っ込み、今度は美姫にチケットを突き出した。

『あんたも……来いよ』



 私、に……?



 美姫は一瞬口を開けてチケットを見つめてから、手を差し出して受け取った。

『ありがとう……ぜひ、行かせてもらうね』

 レナードは美姫の言葉に答えることなく、美しいプラチナブロンドの髪を掻き上げると出て行った。

 それでも彼の気持ちが嬉しくて、美姫の胸が風船のように膨らみ、熱い涙が込み上げてきた。そんな美姫の肩を、秀一が優しく抱いた。

 バレエレッスンを控えている加代子とシモンを先に見送り、モルテッソーニとカミルが続く。

『先生、無理しすぎちゃったみたいだから、ちょっと病院に寄ってくるよ』
『大丈夫だと言っておるだろうが!あいたたたた……』

 美姫と秀一は顔を見合わせ、微笑んだ。まるで長年連れ添った夫婦のようだとふたりとも感じたからだ。

『無理、しないでくださいね。本当に今日はありがとうございました』

 美姫は深々とお辞儀をした。

 そこへ、ザックが慌てて駆けてきた。

『僕、友達を置いてきちゃってたの思い出した! 二人を家まで送りたかったけど、タクシーで帰ってくれる?』

 秀一が意地悪な笑みを浮かべる。

『逆にその方が助かります』
『えっ、何それヒド! さっきはあんなにお礼言ってたのにさー、またいつものシューイチに戻っちゃったよ』 

 美姫は秀一の隣でクスクス笑った。

『ザック、今日は素敵なパーティーを秀一さんと企画してくれて、本当にありがとう。また家にも遊びにきてね』
『美姫。そんなこと言ったらザックはそのまま受け取り、本当に来てしまいますからやめてください』

 嫌悪感を露わにする秀一に見せつけるように、ザックはわざと美姫をギュッと抱き締めた。

『ありがとー、ミキ! また遊びに行くね!!』
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

義妹のミルク

笹椰かな
恋愛
※男性向けの内容です。女性が読むと不快になる可能性がありますのでご注意ください。 母乳フェチの男が義妹のミルクを飲むだけの話。 普段から母乳が出て、さらには性的に興奮すると母乳を噴き出す女の子がヒロインです。 本番はありません。両片想い設定です。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...