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After Story2 ー夢のようなプロポーズー

祝福の旋律−6

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 それから薫子と目線が合うと、お互いに駆け寄り、抱き締め合う。



 「ごめ……ごめんね、薫子……」



 美姫から出た薫子への第一声は、謝罪の言葉だった。

 ウィーンへと旅立ったあの日、別れが辛くて、美姫は薫子に何も言わないまま出てきてしまった。

 あれからもう、5年。

 美姫は薫子のことを気にかけつつも、お互い連絡を取り合わないまま時が経っていた。

「私こそ、ごめんね。美姫がウィーンにいて秀一さんと一緒に演奏会やコンサートに来ている姿をニュースや雑誌で見てたし、気にかけていたんだけど、私から連絡するのは躊躇われて……
 こんなに長い時間が、かかっちゃったね」

 美姫は無言で首を振った。

 互いの空白の時間を埋め合うようにしてギュッと抱き締め合った後、美姫は薫子から離れ、悠を見上げた。

「来てくれてありがとう、悠」
「元気そうで、よかった」

 互いに交わす言葉は少ないけれど、ホッとする穏やかな空気が流れていた。

 それから美姫は腰を屈めると、悠の前に立っている詩織と悠斗かなとに笑顔を向けた。

 最後に彼らに会ったのは、来栖財閥150周年記念パーティーの時になる。

 あの時赤ん坊だった悠斗はすっかり大きくなり、少年らしさまで垣間みえるほどだ。詩織は良家の子女らしく手を緩く重ね、背筋を伸ばしている。顔つきは、悠が女性になったらこんな風になるんだ……と思わせるほど、父親そっくりだった。

「しーちゃんもかーくんも、大きくなったねぇ。
 もう、幾つになったの?」

 悠斗には警戒されてしまったのか、薫子の後ろに隠れてしまった。

「ごめんねぇ……悠斗は私に似て、人見知りで」

 申し訳なさそうに、薫子が謝った。
 
「私は8歳で、悠斗は6歳です」

 わぁ……しーちゃん、しっかりしてる。

 幼い頃の天真爛漫ぶりをみていた美姫は、詩織の成長ぶりに目を瞠り、月日の流れを感じた。

「しーちゃん、私のこと覚えてる?」

 詩織は真っ黒な瞳を美姫に真剣に向けて暫く考え込んでから、黙って首を振った。

「そうだよね、あの時2歳だったんだから覚えてるわけないよね……」

 少し寂しさを感じつつ、美姫は詩織の頭を撫でた。

 秀一は、艶やかな笑みを薫子と悠に向けた。

「本日は私たちのために遠方から足を運んで下さり、ありがとうございました」
「こちらこそ、お招き下さりありがとうございました。
 来栖さんのお陰でこうして美姫と再会出来て、私達夫婦も喜んでおります」

 学生時代無表情だった彼からは想像出来ないくらい、悠は穏やかな笑みを湛えていた。
 
 詩織はまじまじと秀一を見上げた後、ハッとしたように叫んだ。

「あ!この人知ってる……
 TVでピアノ弾いてた人だ!」

 詩織の声に秀一はにこりと微笑み、跪いた。

「よくご存知ですね。
 では後で、詩織さんの好きな曲を特別に弾いて差し上げましょう」

 一流の淑女レディーに接するように恭しく微笑んで見せた秀一に、先ほどまで涼しげだった詩織の表情がポッと赤らんだ。

「よかったわね、詩織」

 薫子は穏やかな眼差しで娘を見つめ、秀一に笑顔でお辞儀をした。

 秀一と詩織のやり取りを目の前にして、美姫は幼き日の自分を重ねた。

 私は幼い頃から、秀一さんにいつも淑女として扱ってもらってた。
 慈しまれ、甘やかされ、溺愛されて……そんな風にされてきたら、好きにならないわけがない。



 ーー私が秀一さんを好きになったのは、必然だったんだ。



 美姫の視線に気づいた秀一が、振り返る。

 愛しさに溢れた眼差しで見つめられ、美姫の胸がキュンと切なく疼いた。
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