924 / 1,014
愛するがゆえの罪
1
しおりを挟む
「美姫、着きましたよ」
秀一に声を掛けられ、美姫は目を覚ました。まだぼんやりとした頭で視界を見回し、ここが機内であることが分かると、途端に記憶が蘇った。
慌てて下を見下ろすと、ワンピースを着て髪も綺麗に整えられている。寝ている間、あられもない格好をしていたのではないかとか、色々な不安が押し寄せ、顔を赤らめたり青褪めたりする美姫に、秀一が笑みを零す。
「もう美姫の全てを見ていますから、今更慌てることはありませんよ。
さぁ、行きましょうか」
秀一の言葉に、美姫は小さくなりながら頷いた。
「はい……」
ウィーン・シュヴェヒャート空港に着いた時には、もう夜の10時を過ぎていた。
「よく眠れましたか?」
「……みたいですね、すみません」
美姫は申し訳なく答えた。気づいた時には意識がなくなっていた。どのくらい寝ていたのかも分からない。
秀一は腕時計に視線を落とすと、美姫に告げた。
「ちょうど、CAT(シティ・エアポート・トレイン)を逃してしまいました。次の電車まで30分あるので、タクシーに乗りましょう」
到着ロビーからすぐにタクシー乗り場へと向かった。
空港から外に出ると、躰が芯から冷える寒波が吹き付ける。マフラーに顔を埋め、秀一の腕に自分の腕を回すと優しく微笑まれ、胸がキュッと縮まった。
秀一が窓越しにタクシーの運転手に目で合図をしてから、扉を開けて美姫をエスコートする。寒さから逃れるように、素早く乗り込んだ。
「疲れていませんか。
少し寄りたいところがあるのですが」
美姫はにこっと笑みを返した。
「私は大丈夫ですよ」
それを受けて秀一は運転手にメモを渡し、車が発進した。
どこへ行くのだろう……
美姫の心に、少しの不安と緊張が広がった。
車はウィーン市内のダウンタウンへと向けて走っていた。懐かしい景色に目を奪われていると、秀一の手が美姫の手を取り、繋いだ。
なんだか嫉妬しているようにも見えて、美姫は思わず秀一を見つめて微笑んだ。すると、美姫の肩に甘えるように秀一が頭を寄せた。
「機内ではあまり眠れませんでした。少し、こうしていていいですか」
「はい」
瞳を閉じた秀一の綺麗に整った睫毛を見つめ、魅入られる。秀一の匂いが自分の服にも沁み込んで、同じ匂いになればいいのにと思った。
この人とずっとこの先もこうしていられるのかと思うと、涙が出るほど幸せな気持ちになり、胸が熱くなる。
どうしようもないくらい……本当に、好き。
タクシーが停車すると、秀一は瞳を開け、ゆっくりと躰を起こした。運転手にお金を支払って礼を言うと、扉を開ける。
手を差し伸べられ、甘く疼く胸と共に手を重ねる。
タクシーを降りた右手には、シュテファン大聖堂があった。
「秀一さんが来たかった場所って、ここですか」
「えぇ、そうです」
秀一はギリギリまで美姫に目的地を隠しておくため、わざと運転手にメモを渡したのだ。
だが、シュテファン大聖堂の周りは誰もおらず、扉も固く閉ざされていた。
そういえば、確か大聖堂へ入れるのは10時までだったはず……
美姫は、せっかく来たのにと残念な気持ちになった。
だが秀一は気にすることなく、小さな扉の方に向かってノックした。
暫くして扉が開き、教会関係者と思われる者と秀一が会話を交わす。
秀一が扉を支えた。
「美姫、どうぞ入って下さい」
「え、いいんですか!?」
驚いて見上げる美姫に、秀一がにっこりと微笑んだ。
「えぇ。貸し切ってますから」
秀一に声を掛けられ、美姫は目を覚ました。まだぼんやりとした頭で視界を見回し、ここが機内であることが分かると、途端に記憶が蘇った。
慌てて下を見下ろすと、ワンピースを着て髪も綺麗に整えられている。寝ている間、あられもない格好をしていたのではないかとか、色々な不安が押し寄せ、顔を赤らめたり青褪めたりする美姫に、秀一が笑みを零す。
「もう美姫の全てを見ていますから、今更慌てることはありませんよ。
さぁ、行きましょうか」
秀一の言葉に、美姫は小さくなりながら頷いた。
「はい……」
ウィーン・シュヴェヒャート空港に着いた時には、もう夜の10時を過ぎていた。
「よく眠れましたか?」
「……みたいですね、すみません」
美姫は申し訳なく答えた。気づいた時には意識がなくなっていた。どのくらい寝ていたのかも分からない。
秀一は腕時計に視線を落とすと、美姫に告げた。
「ちょうど、CAT(シティ・エアポート・トレイン)を逃してしまいました。次の電車まで30分あるので、タクシーに乗りましょう」
到着ロビーからすぐにタクシー乗り場へと向かった。
空港から外に出ると、躰が芯から冷える寒波が吹き付ける。マフラーに顔を埋め、秀一の腕に自分の腕を回すと優しく微笑まれ、胸がキュッと縮まった。
秀一が窓越しにタクシーの運転手に目で合図をしてから、扉を開けて美姫をエスコートする。寒さから逃れるように、素早く乗り込んだ。
「疲れていませんか。
少し寄りたいところがあるのですが」
美姫はにこっと笑みを返した。
「私は大丈夫ですよ」
それを受けて秀一は運転手にメモを渡し、車が発進した。
どこへ行くのだろう……
美姫の心に、少しの不安と緊張が広がった。
車はウィーン市内のダウンタウンへと向けて走っていた。懐かしい景色に目を奪われていると、秀一の手が美姫の手を取り、繋いだ。
なんだか嫉妬しているようにも見えて、美姫は思わず秀一を見つめて微笑んだ。すると、美姫の肩に甘えるように秀一が頭を寄せた。
「機内ではあまり眠れませんでした。少し、こうしていていいですか」
「はい」
瞳を閉じた秀一の綺麗に整った睫毛を見つめ、魅入られる。秀一の匂いが自分の服にも沁み込んで、同じ匂いになればいいのにと思った。
この人とずっとこの先もこうしていられるのかと思うと、涙が出るほど幸せな気持ちになり、胸が熱くなる。
どうしようもないくらい……本当に、好き。
タクシーが停車すると、秀一は瞳を開け、ゆっくりと躰を起こした。運転手にお金を支払って礼を言うと、扉を開ける。
手を差し伸べられ、甘く疼く胸と共に手を重ねる。
タクシーを降りた右手には、シュテファン大聖堂があった。
「秀一さんが来たかった場所って、ここですか」
「えぇ、そうです」
秀一はギリギリまで美姫に目的地を隠しておくため、わざと運転手にメモを渡したのだ。
だが、シュテファン大聖堂の周りは誰もおらず、扉も固く閉ざされていた。
そういえば、確か大聖堂へ入れるのは10時までだったはず……
美姫は、せっかく来たのにと残念な気持ちになった。
だが秀一は気にすることなく、小さな扉の方に向かってノックした。
暫くして扉が開き、教会関係者と思われる者と秀一が会話を交わす。
秀一が扉を支えた。
「美姫、どうぞ入って下さい」
「え、いいんですか!?」
驚いて見上げる美姫に、秀一がにっこりと微笑んだ。
「えぇ。貸し切ってますから」
0
お気に入りに追加
345
あなたにおすすめの小説


義妹のミルク
笹椰かな
恋愛
※男性向けの内容です。女性が読むと不快になる可能性がありますのでご注意ください。
母乳フェチの男が義妹のミルクを飲むだけの話。
普段から母乳が出て、さらには性的に興奮すると母乳を噴き出す女の子がヒロインです。
本番はありません。両片想い設定です。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる