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決心
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大和は唇を震わせ、俯いた。
「離婚すれば、お父さんやお母さんを悲しませることになるんだぞ」
「分かってる……理解はしてもらえないかもしれないけど、誠意をつくして謝るつもり」
「今までおしどり夫婦として世間に認められてたのに、財閥も『KURUSU』の信用まで失うかもしれないんだぞ」「申し訳ないって、思ってる。でも、できる限りのことはしていくつもりだし、なんとしても従業員を守るつもり」
「マスコミからまたネタにされて、毎日のように追いかけ回されるんだぞ」
「うん……覚悟、してる」
重い沈黙が、二人を包み込んだ。
大和が声を荒げ、テーブルに拳を打ち付けた。
「お父さんは!! お父さんは、もう長くないかもしれないんだぞ!?
そんなお父さんに、お前はそんな残酷なこと言えんのか!?」
美姫の胸がグサリとナイフで突き刺された。
「ッ……それ、でも……ウッ……もう……無理、だよ。
大和の、優しさが……痛いの。どれだけ愛されても、愛してあげられない。
ごめん……ッなさ……ッグ」
美姫は大きく肩を震わせた。
大和はガックリと肩を落としながらも呟いた。
「離婚は、しない」
「大和……」
美姫は縋るような声を上げた。
「離婚はしない。絶対にしない。
お前は俺のものだ。お前が愛してなくても、必要としてなくてもいい。
嫌だ! 絶対に、嫌だ……」
「やま、とぉ……ッグ」
美姫は嗚咽を漏らし、肩を震わせた。
美姫は幼い子供に言い聞かせるように、話しかけた。
「お願い……もう、これ以上お互い苦しむのはやめよう?
私も大和も、このままじゃ前に進めない」
「前に進まなくたっていい! 俺は、このままでいいんだ!!」
大和は頭を抱え、首を振った。
美姫は、深い溜息を吐いた。このままでは、平行線のままだ。
睫毛を伏せてから、大和の顔を見上げた。
「だったら、私はこの家を今すぐ出て行きます」
大和が頭を抱えていた手を解き、瞳孔を大きくして美姫を見つめた。
「本気で……言ってんのか」
美姫は頷いた。
「今から荷物を纏めて、ホテルに泊まる。それから、アパートを探すから」
アパートが見つからなければ、事務所に泊まってもいい。そう美姫は考えていた。
とにかく、この家を出なければ何も始まらないと思った。
大和が焦ったような声を上げた。
「待てよ! こんな台風の中、外に飛び出すつもりか!?」
「今、行かないと……ずっと、出て行くことは出来ないと思うから」
美姫の決意は固かった。
荷物を纏める為にソファから立ち上がり、部屋に向かおうとした美姫を大和の声が追いかける。
「もし、お前がここを出て行くって言うんなら……
お前と来栖秀一が恋人だったことを暴露する」
美姫は驚いて大和を振り返った。全身の血の気が引いていくのを感じた。
「う、そ……そんな、こと……大和は、しない。
出来るはず、ない」
大和は震える拳をもう片方の手で包み込んだ。
「嘘なんかじゃない。お前を失わないためなら、なんだってする。
たとえ、お前に嫌われようと……俺は、本気だ」
美姫は唇をわなわなと震わせた。
「嘘!! 大和はそんなことしない!!
大和は、人を傷つけることなんて出来ない!! お父様やお母様、財閥の人達がどうなるか分かってる大和が、そんなこと出来るはずない!!
大和は、私みたいに自分勝手で狡くない!!」
大和が唇を強く噛み締め、美姫の手首を掴んで引き寄せる。胸の上に崩れ落ちた美姫を、大和は強く抱き締めた。
「狡いよ、俺は狡い……狡くて、自分勝手な人間だ。
お前があいつを想っていることを知りながらも、お前を解放してやることが出来ないんだ。俺と一緒にいても幸せじゃないって分かってても、手放したくない。
何を犠牲にしても、お前を手放したくないんだ」
両腕で、美姫の華奢な躰を更にきつく抱き締めた。
「俺を、ひとりにするのか? もう俺には、お前しかいないのに……
お願い、だ。俺を……見放さないで、くれ」
悲しみと孤独を帯びた響きが、心臓をグッと捉え、掴まれる。
「ッ……ッグ……ウゥッ……」
秀一さんを、巻き込みたくない。
大和を……どうしても、突き放せない。
また、暗闇に引き戻されてしまった。
大和に、幸せになって欲しいのに。
私のことを忘れて欲しいのに。
ーーどうしたら、この暗闇を抜けることが出来るの?
雨足は、更に強くなっていた。強風と共にガラス戸をザーザーと打ち付けながら、時折思い出したようにザザーッ、ザザーッと強く体当たりし、ガタガタと揺らす。
台風の中、ひとり立ち尽くしているような気持ちになった。
「離婚すれば、お父さんやお母さんを悲しませることになるんだぞ」
「分かってる……理解はしてもらえないかもしれないけど、誠意をつくして謝るつもり」
「今までおしどり夫婦として世間に認められてたのに、財閥も『KURUSU』の信用まで失うかもしれないんだぞ」「申し訳ないって、思ってる。でも、できる限りのことはしていくつもりだし、なんとしても従業員を守るつもり」
「マスコミからまたネタにされて、毎日のように追いかけ回されるんだぞ」
「うん……覚悟、してる」
重い沈黙が、二人を包み込んだ。
大和が声を荒げ、テーブルに拳を打ち付けた。
「お父さんは!! お父さんは、もう長くないかもしれないんだぞ!?
そんなお父さんに、お前はそんな残酷なこと言えんのか!?」
美姫の胸がグサリとナイフで突き刺された。
「ッ……それ、でも……ウッ……もう……無理、だよ。
大和の、優しさが……痛いの。どれだけ愛されても、愛してあげられない。
ごめん……ッなさ……ッグ」
美姫は大きく肩を震わせた。
大和はガックリと肩を落としながらも呟いた。
「離婚は、しない」
「大和……」
美姫は縋るような声を上げた。
「離婚はしない。絶対にしない。
お前は俺のものだ。お前が愛してなくても、必要としてなくてもいい。
嫌だ! 絶対に、嫌だ……」
「やま、とぉ……ッグ」
美姫は嗚咽を漏らし、肩を震わせた。
美姫は幼い子供に言い聞かせるように、話しかけた。
「お願い……もう、これ以上お互い苦しむのはやめよう?
私も大和も、このままじゃ前に進めない」
「前に進まなくたっていい! 俺は、このままでいいんだ!!」
大和は頭を抱え、首を振った。
美姫は、深い溜息を吐いた。このままでは、平行線のままだ。
睫毛を伏せてから、大和の顔を見上げた。
「だったら、私はこの家を今すぐ出て行きます」
大和が頭を抱えていた手を解き、瞳孔を大きくして美姫を見つめた。
「本気で……言ってんのか」
美姫は頷いた。
「今から荷物を纏めて、ホテルに泊まる。それから、アパートを探すから」
アパートが見つからなければ、事務所に泊まってもいい。そう美姫は考えていた。
とにかく、この家を出なければ何も始まらないと思った。
大和が焦ったような声を上げた。
「待てよ! こんな台風の中、外に飛び出すつもりか!?」
「今、行かないと……ずっと、出て行くことは出来ないと思うから」
美姫の決意は固かった。
荷物を纏める為にソファから立ち上がり、部屋に向かおうとした美姫を大和の声が追いかける。
「もし、お前がここを出て行くって言うんなら……
お前と来栖秀一が恋人だったことを暴露する」
美姫は驚いて大和を振り返った。全身の血の気が引いていくのを感じた。
「う、そ……そんな、こと……大和は、しない。
出来るはず、ない」
大和は震える拳をもう片方の手で包み込んだ。
「嘘なんかじゃない。お前を失わないためなら、なんだってする。
たとえ、お前に嫌われようと……俺は、本気だ」
美姫は唇をわなわなと震わせた。
「嘘!! 大和はそんなことしない!!
大和は、人を傷つけることなんて出来ない!! お父様やお母様、財閥の人達がどうなるか分かってる大和が、そんなこと出来るはずない!!
大和は、私みたいに自分勝手で狡くない!!」
大和が唇を強く噛み締め、美姫の手首を掴んで引き寄せる。胸の上に崩れ落ちた美姫を、大和は強く抱き締めた。
「狡いよ、俺は狡い……狡くて、自分勝手な人間だ。
お前があいつを想っていることを知りながらも、お前を解放してやることが出来ないんだ。俺と一緒にいても幸せじゃないって分かってても、手放したくない。
何を犠牲にしても、お前を手放したくないんだ」
両腕で、美姫の華奢な躰を更にきつく抱き締めた。
「俺を、ひとりにするのか? もう俺には、お前しかいないのに……
お願い、だ。俺を……見放さないで、くれ」
悲しみと孤独を帯びた響きが、心臓をグッと捉え、掴まれる。
「ッ……ッグ……ウゥッ……」
秀一さんを、巻き込みたくない。
大和を……どうしても、突き放せない。
また、暗闇に引き戻されてしまった。
大和に、幸せになって欲しいのに。
私のことを忘れて欲しいのに。
ーーどうしたら、この暗闇を抜けることが出来るの?
雨足は、更に強くなっていた。強風と共にガラス戸をザーザーと打ち付けながら、時折思い出したようにザザーッ、ザザーッと強く体当たりし、ガタガタと揺らす。
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