<本編完結!AS開始>【R18】愛するがゆえの罪 ー溜息が出るほど美しくて淫らな叔父と姪の禁断愛ストーリーー

奏音 美都

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誰にとっての幸福

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 朝、目覚めた美姫はそこに秀一がいないのを確認し、分かっていたにも関わらず失望せずにはいられなかった。

 看護師が手術前に点滴をつけていると、大和が病室にやってきた。

「昨日は来られなくて、ごめん」
「ううん、大丈夫」

 美姫は顔を俯かせた。

 朝、看護師が何も言わなかったということは秀一がここを訪れたことは誰にも知られていないか、秘密裏に処理されたのだろう。昨日の出来事は、自分の胸の内にしまっておくことにした。

 躰を綺麗に拭いてから手術着に着替えると、看護師が点滴の針を入れた。

 いよいよ手術時間になり、ストレッチャーに乗せられる。大和が美姫の手を握り、不安そうに顔を覗いた。

「頑張れよ。終わるまで、待ってるから」
「ありがとう」

 ゴロゴロと鳴る車の音を聞きながら、不安と緊張が高まっていくのを感じる。

 看護師は美姫に笑いかけた。

「寝て、起きたら終わってるから大丈夫ですよ」

 ストレッチャーが手術室に入ると次亜塩素酸ナトリウムの軽い刺激臭が鼻につき、いよいよこれから手術なのだと緊張で躰が強張った。

 事前説明の時に会った麻酔科医が美姫の傍に立ち、顔を覗き込む。

「すぐ眠くなりますから、リラックスしてて大丈夫ですよ。今から、薬入れますからね」

 優しい笑みに少し安堵して息を吐き、美姫は麻酔医に頷いた。

 暫くすると天井がゆらゆらと揺れるような気持ちになったところで、美姫の意識はもうなくなっていた。


 泥を纏っているかのように重い意識が少しずつ目覚めていく。手術室とは異なる空気を感じ、自分が病室に戻ったのだと分かった。だが、意識はあるのに瞼が開かない。眠くて眠くて仕方なくて、瞼が重くなって開かないような状況に似ている。

 瞼をピクピクさせる美姫に気づき、側にいた看護師が声を掛けた。

「来栖さーん。一度、両目を開けてもらえますか」

 なんとか片目だけ開け、ようやくの思いでこじ開けるようにして両目を開く。けれど、重いシャッターのように支えられるのに耐え切れず、閉じてしまう。

 再び、美姫は意識を失った。その日はずっと眠り続け、結局起きたのは夕方になってからだった。

 酸素マスクが外され、ようやく意識がはっきりしてきた美姫は、途端に喉の渇きに襲われた。だが翌朝まで飲み物は禁じられているので、渇きに耐えるしかない。

「あ、の……手術の結果は……」

 恐る恐る尋ねた美姫に、看護師はてきぱきと答えた。

「詳しい話は担当の先生からお話がありますが、左卵巣を全摘しています」
「子宮、は?」
「子宮は残っていますよ、大丈夫です」

 片方の卵巣がないと聞き失望しながらも、子宮は残っていると聞き、まだ望みはあるかもしれないと救われた。

 切り傷からジクジクした痛みと下腹部に重い鈍痛が広がっている。もうここに、卵巣はないのかと思うと胸が疼いた。

「じゃあ、俺帰るから。ゆっくりしろよ」
「今日は、ありがとう。ごめんね、仕事忙しいのに……」

 申し訳なさそうな美姫に、大和は明るく彼女の肩を軽く叩いた。

「何言ってんだ、当たり前だろ。明日は夜になるけど、また見に来るから」
「うん……」

 面会時間ギリギリまでいてくれた大和を見送ると、美姫は涙が滲んできた。

 どう、したらいいの……
 私は、どうしたら。

 大和は、子供が出来なくてもいいと言ってくれた。
 傍にいてくれれば、と。

 それは彼の本心なのかもしれないけど、子供が欲しいというのもまた、大和の本心だ。

 私はあの時、『離婚も、大和が望むなら……受け入れるから』そう言った。
 それは、そんな言い方をすれば、大和が離婚をしないと知っていたからだ。

 私は、狡い。

 大和と離婚したら、どうなるのか……

 大和を、どんなに傷つけるか。
 両親を、どんなに悲しませるか。

 財閥や『KURUSU』が私のせいで経営困難に陥ったら、どう責任をとればいいのか。
 私を信頼し、支えてくれた人たちを全て裏切ってしまうことになる。

 また、スキャンダルのネタにされ、世間から後ろ指を指されることになる。

 そう考えたらすごく怖くて、立ち止まってしまう。
 今の状況に、しがみついてしまう。

 踏み出すことが出来ない。 
 覚悟、出来ない。

 夜は、なかなか明けてくれなかった。喉を焼き付くす程の強烈な渇きと、これからの不安が押し寄せる。

 秀一さん……どうして、あなたは現れたんですか。

 私は。
 私は……どうしたら、いいんですか。

『貴女は、余計なことを考えすぎるのです。
 自分にとってどうするのが一番幸せになれるのか、それを考えればいい』

 秀一の言葉が脳裏に蘇り、美姫は深い溜息と共に出口のない迷路を彷徨い歩いた。
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