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誰にとっての幸福
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「私、に……会うために、ウィーンから来て下さったんですか?」
「えぇ。貴女が『会いたい』と言ったでしょう?
面会時間が終わったら、再びウィーンに発ちます。明日までここにいたら、モルテッソーニにまた破門を言われかねませんから」
「そう、ですか……」
ど、どうしよう。
確かに『会いたい』とは言ったけど、まさか本当に現れるなんて思ってなかったし。
もう、二人きりでは会わないって決めてたのに。
でも、私の事を心配してわざわざウィーンから会いに来て、しかも面会時間があと2時間しかないって言ってるし、断るのも……
頭が色々な考えでぐちゃぐちゃになり、混乱する中、秀一は美姫の膝の上にあったパソコンをサイドテーブルにそっと置いた。ベッドの隣に置いてある丸椅子を寄せ、腰掛ける。
膝の上に両肘を乗せて手を組むと顎を置き、深いライトグレーの瞳で秀一が美姫をじっと見つめている。
落ち、着かない……
真っ直ぐに向けられる秀一の美しい瞳に美姫は耐えられなくなり、フイと目を逸らすと俯いた。
すると、秀一が静かに声を落とした。
「美姫……あの時は、申し訳ありませんでした」
突然秀一に謝られ、美姫は驚いて秀一を見つめ返した。
秀一が表情を歪め、苦しそうに眉を寄せる。
「美姫が気分を悪くして倒れた時、無理にでも病院に連れて行けばよかったですね。
私が傍についていながら、気付かなかったとは……」
後悔の滲む声音を聞き、美姫は儚く微笑んだ。
「いえ。もう多分、あの頃には手遅れだったと思いますから……」
美姫が唇を噛み締めると秀一のライトグレーの瞳が揺れ、更に眉を寄せた。
「そんな状態にあったというのに……私は羽鳥大和への嫉妬と貴女への独占欲から、無理やりエレベーターで迫ってしまった。
私は、美姫がどんなに私を求めているのか、その躰に思い知らせてやりたかったのです。それが貴女をどれだけ苦しませることになるか、分かっていたというのに……」
秀一の言葉を聞き、美姫の瞳の奥が熱くなった。彼がこんな風に謝ってくるなど、考えていなかった。
あの時、秀一は自分の躰だけが手に入ればそれでいいのかと一瞬でも考えてしまった。それが、とても悲しかったし、惨めだった。だからこそ、美姫は大和の提案を受け入れ、秀一とはもう関わらない方がいいと決断したのに。
あんな想いの込められたメールを送られたり、苦しげに謝られたりすれば、美姫の心が強く揺さぶられてしまう。
外はかなり暗く、病室もフットライトの弱々しい灯りが照らされているだけだ。電気をつけた方がいいのかもしれない。
そんなことをぼんやり考えながら、美姫は秀一を見つめた。
「私……子供が産めないかもしれないんです」
秀一に、どんな言葉を期待しているのか美姫にも分からなかった。
暗い病室に、秀一の吐く息の音がひっそりと聞こえた。
「貴女は、妊娠したいのですか? 子供を産みたいと考えているのですか?
あの、男の」
『あの男』に、力が籠っていた。
「えぇ。貴女が『会いたい』と言ったでしょう?
面会時間が終わったら、再びウィーンに発ちます。明日までここにいたら、モルテッソーニにまた破門を言われかねませんから」
「そう、ですか……」
ど、どうしよう。
確かに『会いたい』とは言ったけど、まさか本当に現れるなんて思ってなかったし。
もう、二人きりでは会わないって決めてたのに。
でも、私の事を心配してわざわざウィーンから会いに来て、しかも面会時間があと2時間しかないって言ってるし、断るのも……
頭が色々な考えでぐちゃぐちゃになり、混乱する中、秀一は美姫の膝の上にあったパソコンをサイドテーブルにそっと置いた。ベッドの隣に置いてある丸椅子を寄せ、腰掛ける。
膝の上に両肘を乗せて手を組むと顎を置き、深いライトグレーの瞳で秀一が美姫をじっと見つめている。
落ち、着かない……
真っ直ぐに向けられる秀一の美しい瞳に美姫は耐えられなくなり、フイと目を逸らすと俯いた。
すると、秀一が静かに声を落とした。
「美姫……あの時は、申し訳ありませんでした」
突然秀一に謝られ、美姫は驚いて秀一を見つめ返した。
秀一が表情を歪め、苦しそうに眉を寄せる。
「美姫が気分を悪くして倒れた時、無理にでも病院に連れて行けばよかったですね。
私が傍についていながら、気付かなかったとは……」
後悔の滲む声音を聞き、美姫は儚く微笑んだ。
「いえ。もう多分、あの頃には手遅れだったと思いますから……」
美姫が唇を噛み締めると秀一のライトグレーの瞳が揺れ、更に眉を寄せた。
「そんな状態にあったというのに……私は羽鳥大和への嫉妬と貴女への独占欲から、無理やりエレベーターで迫ってしまった。
私は、美姫がどんなに私を求めているのか、その躰に思い知らせてやりたかったのです。それが貴女をどれだけ苦しませることになるか、分かっていたというのに……」
秀一の言葉を聞き、美姫の瞳の奥が熱くなった。彼がこんな風に謝ってくるなど、考えていなかった。
あの時、秀一は自分の躰だけが手に入ればそれでいいのかと一瞬でも考えてしまった。それが、とても悲しかったし、惨めだった。だからこそ、美姫は大和の提案を受け入れ、秀一とはもう関わらない方がいいと決断したのに。
あんな想いの込められたメールを送られたり、苦しげに謝られたりすれば、美姫の心が強く揺さぶられてしまう。
外はかなり暗く、病室もフットライトの弱々しい灯りが照らされているだけだ。電気をつけた方がいいのかもしれない。
そんなことをぼんやり考えながら、美姫は秀一を見つめた。
「私……子供が産めないかもしれないんです」
秀一に、どんな言葉を期待しているのか美姫にも分からなかった。
暗い病室に、秀一の吐く息の音がひっそりと聞こえた。
「貴女は、妊娠したいのですか? 子供を産みたいと考えているのですか?
あの、男の」
『あの男』に、力が籠っていた。
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