上 下
859 / 1,014
板挟み

しおりを挟む
「先日の経膣超音波検査にて、腫瘍が見つかりました」
「腫瘍……」

 突然の内藤からの言葉に、美姫はただ繰り返すことしか出来ず、呆然とした。

 内藤は、前回撮った超音波写真を見せた。

「これが卵巣で、ここに塊があるのが分かりますか?」

 そう言われると、なんとなく黒っぽい塊に中心が白くなっているものが見えるが、それが腫瘍だと言われても美姫にはピンとこなかった。

「うちではそれ以上の検査や治療、手術は出来ませんので、専門の病院を紹介します」

 紹介状を書く内藤に、美姫は恐る恐る尋ねた。

「これって……癌ってことですか?」
「良性か悪性か、私では判断出来ませんので、今から紹介する病院で精査してもらってください」

 内藤は申し訳なさそうに、頭を振った。

 週明けの月曜日、美姫は大和と共に紹介された総合病院の待合室に座っていた。ここは産婦人科のため、待合室にはお腹の大きい妊婦や子供連れもいた。

 内藤から『腫瘍がある』と告げられてから、美姫はネットで卵巣や子宮に関する病気を色々と検索したが、検索すればするほど、ネガティブな考えに支配されていった。

 もし、卵巣癌だったら……卵巣だけでなく、子宮も摘出することになってしまったら……
 私は一生妊娠できず、子供も授かることはないのかもしれない。

 そう思うとここにいるのが辛く、視界に子供や妊婦が入り、彼らの声が聞こえてくると涙が滲みそうになる。

「大丈夫か?」
 
 俯いた美姫を心配そうに大和が見つめる。

『大丈夫か?』と聞かれて、『大丈夫じゃない』なんて答えられない。

 それに、子供を誰よりも望んでいるのは大和の方だ。大和もまた、不安な思いを抱えているに違いない。

「うん……」

 美姫は、力なく笑みを返した。 

 二人とも帽子を深く被り、眼鏡を掛けているものの、周囲からはチラチラと視線が寄せられていた。美姫は、早く診察室へと行きたい気持ちに駆られた。

「来栖さーん。
 来栖美姫さーん、診察室へお入りください」

 看護師に呼ばれ、美姫はビクッと躰を震わせた。受付の際に番号で呼ぶか名前で呼ぶか選ぶ項目があり、番号を選択していたのに、看護師が間違えたのだ。

 その途端、周囲は『やっぱり……』というように、二人を見つめた。針の筵に座るような美姫の肩を大和が抱き寄せ、診察室へと向かう。

「おめでとうございます」

 1人の妊婦が、美姫ににこやかに声を掛けた。

 好意で、言ってくれてるんだ……

「どう、も……」

 美姫はお辞儀をし、通り過ぎた。眩暈と吐き気で倒れそうだった。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

義妹のミルク

笹椰かな
恋愛
※男性向けの内容です。女性が読むと不快になる可能性がありますのでご注意ください。 母乳フェチの男が義妹のミルクを飲むだけの話。 普段から母乳が出て、さらには性的に興奮すると母乳を噴き出す女の子がヒロインです。 本番はありません。両片想い設定です。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...