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 この夫婦は……ずっと赤ちゃんが欲しいと思って、もう6年も不妊治療を続けてるんだ。

 今までに相当努力をしてきたのであろうことが、女性の落胆した声から窺えた。

 高齢出産が増えたとはいえ、年齢が高ければ高いほどリスクが大きくなることに変わりはない。ゴールがあるのか分からぬ道をひた走り、焦り、追い詰められる中、次こそは子供を授かるかもしれないと一縷の望みを託して治療を行う。赤ん坊を切望しながらも恵まれず、不妊治療を続けていく中で何度も挫折を味わうことはどんなに精神的に辛いだろう。

 一方、自分たちは自然妊娠を望めるかもしれないのに、肉体関係をもつことを拒否して人工授精を望んでいる。

『愛する人との子供が欲しいから』と切実に願って、不妊治療しているのではない。
 夫の為、父の為、母の為、財閥の未来の為、世間体の為。

 私は……凄く自分勝手な思いで、子供を授かろうとしている。
 怖い。凄く、怖い……

 本当に、このまま子供を授かってもいいの?
 私は産まれた子供を、愛していけるの?

 怖い……逃げ出して、しまいたい……!

 美姫の下腹部がキリキリと締めつけられるように痛んだ。

 扉がノックされ、「は、い……」と掠れた声で返事をした。喉が緊張で乾燥しているのか、上手く声が出せない。

 先ほどの看護師と内藤が入ってきた。

 今、ここから逃げ出すことなんて出来るはずない……

 美姫は、睫毛を伏せた。

 看護師に台に仰向けになるように言われ、タオルを下半身に被せてくれた。内診台と診察する場所の間にはカーテンが引かれているので、内藤や看護師の姿は美姫から見えることはない。

「脚を広げて、それぞれの台にのせてもらえますか」

 両足を置いている台が左右に開くと同時にお尻の位置が上にあがっていき、下半身だけがカーテンの外側に出るような形になる。自分の視界には見えていなくても、内藤には全部見られているのだと思うと、医療行為だと分かっていても堪らなく恥ずかしかった。

 緊張の為、美姫の躰に自然に力が入る。それを感じ、内藤が声を掛けた。

「大丈夫ですから、力を抜いて下さいね」

 その声に、リラックスしなくてはと大きく息を吐き出した。

 長細い経膣プローブにコンドームを被せた上にジェルを塗ったものが、美姫の膣内に挿入される。膣にプローブが入ってくると、重苦しい痛みを感じた。

 10分ほどで検査が終わるとプローブが抜かれ、看護師が洗浄と消毒をしてくれた。ようやく検査が終わり、美姫はホッと息を吐いた。

 先程の診察室に戻ると、まだ大和は戻っていなかった。

「美姫さんは基礎体温は計測していますか」
「いえ、していません」
「では、これから排卵日を計測する為に基礎体温を計測して下さい。理想としては毎朝起きたらまず基礎体温を計測するのがいいでしょう。睡眠時間は出来るだけ4時間以上取ってください。
 基礎体温は気温や少し躰を動かしただけで左右されますから、いつも同じ状況で同じ状態で計測できるよう心がけてください」

 説明が終わったところで、大和が戻ってきた。

「大丈夫、だった?」

 美姫の質問に、「あぁ」と大和が曖昧な表情で答える。どうしてそんなこと聞いてしまったんだろうと、美姫は後悔した。

「では、今日のところはこれで終わりにしましょう。
 美姫さんは基礎体温、忘れずにつけるようにして下さいね」
「はい」

 ふたりでお辞儀し、診察室を後にした。

「なんか、いよいよって感じだな」

 大和は興奮を抑えきれないといった様子で、美姫に話しかけた。

「うん……」

 これから妊娠に向けて動き出してしまったことに、美姫は不安を覚えずにいられなかった。
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