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不意打ち
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美姫は改めて、グラスを傾ける秀一を見つめた。
本当に、なんて美しい人なんだろう......
明るくないのではっきりと細部まで見えるわけではないが、暗い中に紫のダウンライトの下で見るからこそ、余計に秀一の美麗な顔立ちと匂い立つような色香が増して見えた。
以前会った時は燕尾服だったので気がつかなかったが、Tシャツから伸びた腕は筋肉が付いて太く、逞しくなった気がした。今日着ているTシャツは躰に密着しているため線が浮き上がり、嫌でもその下に隠れた彼の裸体を想像させられる。ジレから覗くTシャツ越しの胸筋の陰影に思わず目線が釘付けになり、美姫は慌てて視線を上げた。
ソファに腰掛け、お酒を飲んでいるだけで絵になる。グラスを持つ長く細い指先を見つめているだけで躰が熱くなると、眼鏡越しにライトグレーの切れ長の瞳が熱を持って美姫を見つめ、彼女の欲を見透かしているかのようだった。心臓が跳ね、トクトクと煩く鳴り響く。
その瞳を覗き込んで見たところで、美姫には秀一の本心など読み解くことは出来ない。
「......秀一さんは、私のことを恨んでいると思っていました。
あんな形で裏切り、ひとりウィーンへと送ってしまった私を......」
言いながら、美姫の胸が震えた。
そう、許されるはずなんてない。
秀一さんは私と一緒にウィーンに行くことを望んでいた。そんな彼の気持ちを裏切り、私は大和と婚約し、彼を一人だけでウィーンに行かせたんだ。
『行かせません。あの、男のところになど、決して......
貴女は私のもの、私のものなのです......』
あの時の秀一さんの瞳には、憎しみが籠っていた......
秀一がカランと氷の音を響かせ、グラスを置いた。
「あなたを恨んでいますよ、美姫」
秀一の言葉が、胸の奥深くまで突き刺さる。けれど、そう言われたって仕方のないことをしたのだ。
「私がウィーンに着いた時、どんな気持ちだったか貴女に分かりますか。全身全霊をかけて愛した女性に裏切られた、私の気持ちが。
どうして、私を捨てたのですか。どうして羽鳥大和を選び、結婚したのですか。どうしてそんなことをしておきながら、『愛しているから』などという残酷な言葉を言えるですか。
どうして、自暴自棄になった私を迎えに来なかったのですか.....」
秀一は苦しげに眉を寄せ、美姫を見つめた。
「どうして、私と一緒に......堕ちてくれなかったのですか」
胸が、きつくきつく絞られる。視界が、霞んでいく。
「ッ、ごめ......ごめ、なさい......ごめんなさい、秀一さ......ッグ」
美姫は俯き、肩を震わせた。
秀一は美姫の元へとにじり寄り、彼女の顎を親指と人差し指で挟むとクイと持ち上げた。
「あなたは、私にそう言って欲しかったのでしょう?」
美姫の目が見開かれる。
「ぇ......」
「貴女は私をひとりウィーンに送ったことに、Desire Islandに迎えにいけなかったことに、罪悪感を抱いていた。そして、その罪の荷を謝罪することにより少しでも下ろして楽になりたかった。
そうではありませんか?」
秀一は、美姫の顎から指を外した。
「私がウィーンにひとり辿り着いたと知った時、私の胸に何が渦巻いていたか知っていますか?」
美姫は喉を鳴らした。
「裏切った私、への......憎しみ、ですか」
おそるおそる答えた美姫に、秀一は小さく首を振った。
「自分への、絶望ですよ」
本当に、なんて美しい人なんだろう......
明るくないのではっきりと細部まで見えるわけではないが、暗い中に紫のダウンライトの下で見るからこそ、余計に秀一の美麗な顔立ちと匂い立つような色香が増して見えた。
以前会った時は燕尾服だったので気がつかなかったが、Tシャツから伸びた腕は筋肉が付いて太く、逞しくなった気がした。今日着ているTシャツは躰に密着しているため線が浮き上がり、嫌でもその下に隠れた彼の裸体を想像させられる。ジレから覗くTシャツ越しの胸筋の陰影に思わず目線が釘付けになり、美姫は慌てて視線を上げた。
ソファに腰掛け、お酒を飲んでいるだけで絵になる。グラスを持つ長く細い指先を見つめているだけで躰が熱くなると、眼鏡越しにライトグレーの切れ長の瞳が熱を持って美姫を見つめ、彼女の欲を見透かしているかのようだった。心臓が跳ね、トクトクと煩く鳴り響く。
その瞳を覗き込んで見たところで、美姫には秀一の本心など読み解くことは出来ない。
「......秀一さんは、私のことを恨んでいると思っていました。
あんな形で裏切り、ひとりウィーンへと送ってしまった私を......」
言いながら、美姫の胸が震えた。
そう、許されるはずなんてない。
秀一さんは私と一緒にウィーンに行くことを望んでいた。そんな彼の気持ちを裏切り、私は大和と婚約し、彼を一人だけでウィーンに行かせたんだ。
『行かせません。あの、男のところになど、決して......
貴女は私のもの、私のものなのです......』
あの時の秀一さんの瞳には、憎しみが籠っていた......
秀一がカランと氷の音を響かせ、グラスを置いた。
「あなたを恨んでいますよ、美姫」
秀一の言葉が、胸の奥深くまで突き刺さる。けれど、そう言われたって仕方のないことをしたのだ。
「私がウィーンに着いた時、どんな気持ちだったか貴女に分かりますか。全身全霊をかけて愛した女性に裏切られた、私の気持ちが。
どうして、私を捨てたのですか。どうして羽鳥大和を選び、結婚したのですか。どうしてそんなことをしておきながら、『愛しているから』などという残酷な言葉を言えるですか。
どうして、自暴自棄になった私を迎えに来なかったのですか.....」
秀一は苦しげに眉を寄せ、美姫を見つめた。
「どうして、私と一緒に......堕ちてくれなかったのですか」
胸が、きつくきつく絞られる。視界が、霞んでいく。
「ッ、ごめ......ごめ、なさい......ごめんなさい、秀一さ......ッグ」
美姫は俯き、肩を震わせた。
秀一は美姫の元へとにじり寄り、彼女の顎を親指と人差し指で挟むとクイと持ち上げた。
「あなたは、私にそう言って欲しかったのでしょう?」
美姫の目が見開かれる。
「ぇ......」
「貴女は私をひとりウィーンに送ったことに、Desire Islandに迎えにいけなかったことに、罪悪感を抱いていた。そして、その罪の荷を謝罪することにより少しでも下ろして楽になりたかった。
そうではありませんか?」
秀一は、美姫の顎から指を外した。
「私がウィーンにひとり辿り着いたと知った時、私の胸に何が渦巻いていたか知っていますか?」
美姫は喉を鳴らした。
「裏切った私、への......憎しみ、ですか」
おそるおそる答えた美姫に、秀一は小さく首を振った。
「自分への、絶望ですよ」
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