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不意打ち
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案内されたのは、バーのVIPルームだった。個室となっている扉をスタッフが開け、美姫が先に中に通された。
暗い室内に紫のダウンライトが照らされており、落ち着かない。真ん中にテーブルが置かれ、そこにラブソファが置かれているだけのシンプルな部屋だった。
え......ラブソファが一つだけ、って。
向かい合わせに座るつもりだった美姫は、息を呑んだ。
秀一の甘い香りが美姫を擦り抜ける。
「何を突っ立っているのですか。
遠慮せず、どうぞリラックスして下さい」
秀一がソファの肘掛けに肘をつき、長い脚を持て余すようにして組み、美姫を見上げる。
リラックス出来るわけないよ......
一気に酔いが醒めた。
美姫は覚悟を決めた。
「し、失礼します」
秀一とは反対側の肘掛けの隣に腰掛け、不自然な空間が出来る。ふたりきりの密室という状況に、息苦しさを覚えずにはいられなかった。
「わざわざVIPルームにしなくても......」
そういった美姫に、秀一はサングラスを外し、妖艶な表情を浮かべた。美しいライトグレーの瞳が覗き、美姫の胸が締め付けられた。スクエア型の黒縁眼鏡に掛け替えた秀一は、シャープで知的な印象と共に若さも感じたが、そこから溢れ出る色気はどことなく背徳的な匂いを感じさせる。
「私はそれでも構いませんよ。今から、オープンバーにでも行きますか?
何人かの日本人客もいたようですが......」
「い、いえ! ここで、いいです!!」
愉快そうに微笑む秀一に、美姫は彼に会うべきではなかったと早くも後悔した。
「何を飲みますか?」
「私は、水でいいです」
恋しく思っていた秀一が目の前に現れ、熱に浮かされ、彼の後をついてきてしまった自分に冷水を浴びせたい気分だった。
美姫は肘掛けを握り締め、背筋を真っ直ぐに伸ばして座っていた。これ以上、一歩も近寄らせないオーラを醸し出している。
秀一はグラスを手に取ると、綺麗にカットされた氷の向こう側に映る美姫をレンズ越しに見つめた。その視線に耐えきれず、髪が乱れているのではとか、化粧が崩れているのではとか、にんにく臭いかもしれないとか、急に色々な事が気になり出した。それからすぐに、そんなことを気にしている自分に落ち込んだりした。
秀一はそんな美姫の様子をただ、愉しげに眺めているだけだった。
やっぱり、私だけが翻弄されてる......
突然、スマホの着信音が大きく響き渡った。美姫は躰をビクン、とさせた。
誰からの電話なのか、もう分かっている。
「電話を、取らないのですか」
秀一が美姫の顔を覗き込む。
どう、しよう......
取らなきゃいけないのに......取りたく、ない。
迷っているうちに秀一が美姫の鞄のストラップを引き寄せ、手早く中からスマホを取り出した。
「なっ!!」
「なんなら、私が代わりに出ましょうか」
美姫がスマホに手を伸ばす。
「や、やめてください!!」
秀一は困った表情の美姫を確認すると受信ボタンを押し、スマホを耳にあてた。
「せっかくの美姫との大切な時間を、邪魔しないで頂けますか」
秀一さんっっ!!
美姫は顔面蒼白だったが、秀一は涼しい顔でスピーカーボタンを押した。
『お、ま......来栖秀一か!?
なんであんたが韓国で美姫と一緒にいるんだ!! ふざけんな! 美姫をどうするつもりだ!!』
興奮した大和の声がスピーカーから部屋中に響き渡った。
暗い室内に紫のダウンライトが照らされており、落ち着かない。真ん中にテーブルが置かれ、そこにラブソファが置かれているだけのシンプルな部屋だった。
え......ラブソファが一つだけ、って。
向かい合わせに座るつもりだった美姫は、息を呑んだ。
秀一の甘い香りが美姫を擦り抜ける。
「何を突っ立っているのですか。
遠慮せず、どうぞリラックスして下さい」
秀一がソファの肘掛けに肘をつき、長い脚を持て余すようにして組み、美姫を見上げる。
リラックス出来るわけないよ......
一気に酔いが醒めた。
美姫は覚悟を決めた。
「し、失礼します」
秀一とは反対側の肘掛けの隣に腰掛け、不自然な空間が出来る。ふたりきりの密室という状況に、息苦しさを覚えずにはいられなかった。
「わざわざVIPルームにしなくても......」
そういった美姫に、秀一はサングラスを外し、妖艶な表情を浮かべた。美しいライトグレーの瞳が覗き、美姫の胸が締め付けられた。スクエア型の黒縁眼鏡に掛け替えた秀一は、シャープで知的な印象と共に若さも感じたが、そこから溢れ出る色気はどことなく背徳的な匂いを感じさせる。
「私はそれでも構いませんよ。今から、オープンバーにでも行きますか?
何人かの日本人客もいたようですが......」
「い、いえ! ここで、いいです!!」
愉快そうに微笑む秀一に、美姫は彼に会うべきではなかったと早くも後悔した。
「何を飲みますか?」
「私は、水でいいです」
恋しく思っていた秀一が目の前に現れ、熱に浮かされ、彼の後をついてきてしまった自分に冷水を浴びせたい気分だった。
美姫は肘掛けを握り締め、背筋を真っ直ぐに伸ばして座っていた。これ以上、一歩も近寄らせないオーラを醸し出している。
秀一はグラスを手に取ると、綺麗にカットされた氷の向こう側に映る美姫をレンズ越しに見つめた。その視線に耐えきれず、髪が乱れているのではとか、化粧が崩れているのではとか、にんにく臭いかもしれないとか、急に色々な事が気になり出した。それからすぐに、そんなことを気にしている自分に落ち込んだりした。
秀一はそんな美姫の様子をただ、愉しげに眺めているだけだった。
やっぱり、私だけが翻弄されてる......
突然、スマホの着信音が大きく響き渡った。美姫は躰をビクン、とさせた。
誰からの電話なのか、もう分かっている。
「電話を、取らないのですか」
秀一が美姫の顔を覗き込む。
どう、しよう......
取らなきゃいけないのに......取りたく、ない。
迷っているうちに秀一が美姫の鞄のストラップを引き寄せ、手早く中からスマホを取り出した。
「なっ!!」
「なんなら、私が代わりに出ましょうか」
美姫がスマホに手を伸ばす。
「や、やめてください!!」
秀一は困った表情の美姫を確認すると受信ボタンを押し、スマホを耳にあてた。
「せっかくの美姫との大切な時間を、邪魔しないで頂けますか」
秀一さんっっ!!
美姫は顔面蒼白だったが、秀一は涼しい顔でスピーカーボタンを押した。
『お、ま......来栖秀一か!?
なんであんたが韓国で美姫と一緒にいるんだ!! ふざけんな! 美姫をどうするつもりだ!!』
興奮した大和の声がスピーカーから部屋中に響き渡った。
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