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降臨
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え......今、なんて言ったの。
美姫が絶句して大和を見つめていると、薫子が興奮したように表情を輝かせた。
「子供作ろうって考えてるんだ! 年が近いといいなぁ。そしたら家族ぐるみでお付き合いできるし、絶対楽しいよ!」
薫子の頭の中には既に、お互いの子供を連れて家族で集まっている絵が浮かんでいた。
子供同士を遊ばせ、親同士はそれを微笑みながら眺めている幸せな光景。それは、薫子がいつかそうなったらいいなとずっと思い描いていたものだった。
悠が薫子を諌めるように口を挟んだ。
「でも、こればっかりは......タイミングだから。二人の意思で、どうこう出来ることじゃないだろ?」
「あ、そっか。そうだよね......みんながみんな、タイミングよく子供が出来るわけじゃないもんね」
薫子も悠の言葉に素直に頷いた。
大和も笑顔で頷く。
「授かりものだから、いつって確約はできないけどさ。悠と薫子見てるとすげぇ羨ましいなって思うし、子供がいたらもっと楽しいだろうなって最近よく思うんだ。
なぁ、美姫?」
私の気持ちを知ってるのに......
どうして、そんなこと聞くの?
美姫は予想もしていなかった大和の言葉に混乱し、困惑し、恐ろしさすら感じた。
だがそんな思いを必死に押し込め、誠一郎と凛子に笑顔を向ける。
「仕事の責任もありますから今すぐにとはいきませんが、仕事の折がつく頃を見計らって、授かれればいいなと思っています」
初めて聞く娘の子供を持ちたいという意思を聞き、誠一郎の目尻が緩み、その端にキラリと光るものが見えた。
「あぁ......楽しみだ」
大和は詩織を下ろすと、美姫の肩に手を置いた。固い表情で見上げた美姫を、優しく見つめる。美姫は、逃げ場のない行き止まりに追い詰められ、息苦しくなった。
今すぐにでも、どういうつもりなのか大和に問い詰めたかったが出来るはずなどなかった。
躰を重ねることなど全くしていない。この頃では、大和から誘うこともなくなっていた。
だから、断る必要もなくなって、安堵していたというのに。
罪悪感を背負いつつも、なんとか平穏な関係をずっと保ち続けていけられたらいいと思っていたのに。
理解ある大和に、感謝すらしていたのに。
裏切られた、気分だった。
大和はまだ、美姫と躰を重ねることを諦めてはいなかったのだ。
そして、両親を目の前にして反旗を翻した。
両親が孫の誕生を願っていることを美姫に見せつけ、断れないことを承知で、あんな風に言ったのだ。
美姫だって、両親に孫を見せてあげたいという気持ちはある。
それに、いつか子供を持ちたいという夢もある。
今は若くても、子供を産むのにはタイムリミットがあるし、高齢出産はリスクが大きいだけではなく、産んでからの育児こそが大変だとも聞く。
大和との子供を産めば、誰もが幸せになるだろう。大和だけでなく、美姫の両親も、羽鳥家や友人、財閥を支えてくれる人たち、世間も、祝福してくれるに違いない。
自分、だけが......大和との子供を産むことを躊躇っているのだ。
大和と躰を重ねることに抵抗してるのだ。
私は、皆の幸せのために、自分の気持ちを押し殺すべきなの?
大和との子供をもうけるべきなの?
美姫はこの場にいることが耐えられなくなった。
「ちょっと、失礼します......」
美姫は逃げるようにして、会場を後にした。
凛子はそんな娘を気遣わしげに目線で追ったが、来賓客に話しかけられ、にこやかに笑みを向けた。
美姫が絶句して大和を見つめていると、薫子が興奮したように表情を輝かせた。
「子供作ろうって考えてるんだ! 年が近いといいなぁ。そしたら家族ぐるみでお付き合いできるし、絶対楽しいよ!」
薫子の頭の中には既に、お互いの子供を連れて家族で集まっている絵が浮かんでいた。
子供同士を遊ばせ、親同士はそれを微笑みながら眺めている幸せな光景。それは、薫子がいつかそうなったらいいなとずっと思い描いていたものだった。
悠が薫子を諌めるように口を挟んだ。
「でも、こればっかりは......タイミングだから。二人の意思で、どうこう出来ることじゃないだろ?」
「あ、そっか。そうだよね......みんながみんな、タイミングよく子供が出来るわけじゃないもんね」
薫子も悠の言葉に素直に頷いた。
大和も笑顔で頷く。
「授かりものだから、いつって確約はできないけどさ。悠と薫子見てるとすげぇ羨ましいなって思うし、子供がいたらもっと楽しいだろうなって最近よく思うんだ。
なぁ、美姫?」
私の気持ちを知ってるのに......
どうして、そんなこと聞くの?
美姫は予想もしていなかった大和の言葉に混乱し、困惑し、恐ろしさすら感じた。
だがそんな思いを必死に押し込め、誠一郎と凛子に笑顔を向ける。
「仕事の責任もありますから今すぐにとはいきませんが、仕事の折がつく頃を見計らって、授かれればいいなと思っています」
初めて聞く娘の子供を持ちたいという意思を聞き、誠一郎の目尻が緩み、その端にキラリと光るものが見えた。
「あぁ......楽しみだ」
大和は詩織を下ろすと、美姫の肩に手を置いた。固い表情で見上げた美姫を、優しく見つめる。美姫は、逃げ場のない行き止まりに追い詰められ、息苦しくなった。
今すぐにでも、どういうつもりなのか大和に問い詰めたかったが出来るはずなどなかった。
躰を重ねることなど全くしていない。この頃では、大和から誘うこともなくなっていた。
だから、断る必要もなくなって、安堵していたというのに。
罪悪感を背負いつつも、なんとか平穏な関係をずっと保ち続けていけられたらいいと思っていたのに。
理解ある大和に、感謝すらしていたのに。
裏切られた、気分だった。
大和はまだ、美姫と躰を重ねることを諦めてはいなかったのだ。
そして、両親を目の前にして反旗を翻した。
両親が孫の誕生を願っていることを美姫に見せつけ、断れないことを承知で、あんな風に言ったのだ。
美姫だって、両親に孫を見せてあげたいという気持ちはある。
それに、いつか子供を持ちたいという夢もある。
今は若くても、子供を産むのにはタイムリミットがあるし、高齢出産はリスクが大きいだけではなく、産んでからの育児こそが大変だとも聞く。
大和との子供を産めば、誰もが幸せになるだろう。大和だけでなく、美姫の両親も、羽鳥家や友人、財閥を支えてくれる人たち、世間も、祝福してくれるに違いない。
自分、だけが......大和との子供を産むことを躊躇っているのだ。
大和と躰を重ねることに抵抗してるのだ。
私は、皆の幸せのために、自分の気持ちを押し殺すべきなの?
大和との子供をもうけるべきなの?
美姫はこの場にいることが耐えられなくなった。
「ちょっと、失礼します......」
美姫は逃げるようにして、会場を後にした。
凛子はそんな娘を気遣わしげに目線で追ったが、来賓客に話しかけられ、にこやかに笑みを向けた。
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