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家族としての愛情

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 会食の準備と言っても既にお弁当は手配されてテーブルに配られており、お茶を出すにしても羽鳥家の家政婦たちがてきぱきとこなしていた。美姫は手伝いに呼ばれたにもかかわらず、やることもなく、ただ自分のために用意された弁当を目の前に置かれ座らされただけだった。

 いったい自分は何のためにここにいなくてはならないのだろうと虚しくなったが、表に出て大瀧の相手をしなくてはならない大和のことを思えば、文句は言えない。

 京香は家政婦に指示して美姫の向かいのテーブルに自分の弁当を持ってこさせ、お茶を用意させると座った。

「まずは美姫さんを引き止めないことには、大和が残ってくれないから。
 ここにいたって退屈でしょ? ごめんなさいね」

 珍しく京香から謝罪の言葉を聞き、美姫は恐縮した。

「いえ......こちらこそ、お役に立てず申し訳ありません」
「ったく四十九日法要も途中で帰っちゃうし、新年会には出ないし、まったく困ったもんねぇ」
「申し訳ありません......」

 形だけになってしまったとはいえ、大和の妻である美姫は責任を感じずにはいられなかった。

 京香は弁当に少しだけ手をつけるとパタンと蓋を閉じ、タバコを咥えた。そばにいた家政婦が慌てて灰皿を持ってくる。

「気にしなくていいのよ、美姫さんは。
 大和はお父さんに似て、頑固だから」

 久しぶりに嗅ぐタバコの匂いに気持ち悪さを覚え、なるべくそれから逃れるように美姫は躰を離した。

 京香がここに呼び出して、自分の目の前に座っているということは、何か話があるからだ。自宅とて落ち着く場所ではなかったが、今は一刻も自宅の自分の部屋に身を落ち着けたくて仕方なかった。

「そうそう、大学卒業おめでとう」
「こちらこそ、お祝いを頂きありがとうございました」

 京香は卒業式には出席しなかったものの、その日にお祝いの花束と大和とペアのブランドの腕時計を贈ってくれた。大和はすぐにゴミ箱に捨てようとしたが、美姫が預かり、持っている。

「大学卒業したから、これでやっと集中できるわね」

 京香の言葉に、美姫は頷いた。

「えぇ。ようやくこれからは仕事一本で集中出来そうです」

 すると、京香は脚を大きく組み、眉を顰めた。

「何言ってるの。
 あなたには、仕事の前にやらなくちゃいけないことがあるでしょ」
「ぇ......」

 理解できない美姫に、畳み掛けるような京香の言葉が続く。

「もちろん仕事は続けてもらうけど、これからは来栖財閥の後継者となる子供を産むことも考えないとだめよ。せっかく大和が来栖財閥の後継者となったって、その後が続かないんじゃ困るでしょ。
 私はね、羽鳥家を守っていくために男を3人も産んだのよ。美姫さんも、それぐらいの気合いで頑張らないと。

 羽鳥家はね、由緒正しき家系なの。羽鳥の血を絶やさないでちょうだい」
「で、でも......私たちはまだ若いですし、今はお互い仕事が忙しいのでそんな余裕がないんです。
 もち、ろん......いつか子供は欲しいとは、思ってますけど......」

 京香に自分たちの内情を話すことなどできない。せめて、穏便に話を終わらせたかった。
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