794 / 1,014
歪み
1
しおりを挟む
3月を迎え、大和と美姫は青海学園大学を卒業することとなり、学位授与式に出席した。
美姫は大正浪漫を感じさせるような前髪を七・三分けにして曲線をきかせたフィンガーウェーブで耳を隠して一方に寄せ、もう片側には大きな白い牡丹の髪飾りをつけている。紅色に白の牡丹が咲き乱れる振袖は、『レトロ・モダン』をテーマとして、美姫がデザインしたものだ。袴と同じ濃緑の半襟が覗き、袴の下には黒い革のブーツを履いている。
大学には3年次からの編入で、しかも4年次になってからは殆ど来られていなかったが、それでも構内に溢れる卒業式の雰囲気を感じ取り、美姫の気持ちも盛り上がっていた。
式には、誠一郎と凛子が出席してくれると言っていたが、大和は四十九日法要以降、羽鳥家とは連絡を絶っていた。
大蔵の後援会が主宰する新年会に呼ばれ、大和も出席するように説得したが、頑なに拒否された。
『羽鳥家とは縁を切ったんだ! 俺たちがあいつの新年会に行く義理なんてねぇだろ!』
大和にそう言われたものの、結婚して親族関係にある以上、美姫には割り切ることは出来なかった。世間の目だってある。
結局、美姫は大和が欠席する中、一人で新年会に参加したのだった。心細かったし、親戚からの視線も痛く、居た堪れない思いをした。
5日後の大地の1周忌には大和は参列するが、そこでまた家族で揉め事が起こるのではないかと、今から不安だった。
大和はたくさんの友人や後輩から声をかけられていた。来栖財閥での仕事が忙しくなってからも美姫よりも大学に通っていたし、友人との交流も続いていたようだった。大和は花束や色紙、プレゼントなどを抱えきれないぐらいもらっていた。
大和ってやっぱり人徳があるな。
優しいし、面倒見がいいから、みんなから慕われてるんだよね。
大和がいい人だってことはよく分かってるはずなのに......どうして私は、大和を受け入れてあげられないんだろう。
苦しい気持ちで大和の笑顔を見つめていると、後ろから声をかけられた。
『美姫先輩、大学卒業おめでとうございます!!』
振り向くと、朱里、愛、菫の3人が花束を抱えて立っていた。入学式の日に彼女たちに声をかけてもらい、不安な思いをせずに済んだことを思い出す。あれから2年間大学に通っていたにもかかわらず、結局彼女たちと話ができたのは数えるほどしかなかった。
渡されたのは、レインボーローズとかすみ草の花束だった。レインボーローズはオランダで生産加工されている特殊な薔薇で、花弁1枚1枚の色が全て異なる生花だ。花言葉は「奇跡」「無限の可能性」で、近年卒業祝いや就職祝いの贈り物として人気の花だ。
「わぁ、綺麗! すごく嬉しい、ありがとう」
「美姫先輩、KURUSUブランド、私たちも愛用してるんですよ。これからも私たちの憧れの女性でいてくださいね」
3人に憧憬の眼差しで見つめられ、美姫は複雑な心情を胸に抱えつつも笑顔で受け止めた。
「ごめんな、1人にしちまって」
大和が戻ってくると、美姫は笑顔で首を振った。本当は、二人でいる方が辛かった。
美姫のスマホが鳴った。
「もしもし?」
『もしもし、美姫? どこにいる?』
薫子からだった。今日は悠の卒業式に出席する為に、久しぶりに青海学園大学に来たのだった。
美姫は大正浪漫を感じさせるような前髪を七・三分けにして曲線をきかせたフィンガーウェーブで耳を隠して一方に寄せ、もう片側には大きな白い牡丹の髪飾りをつけている。紅色に白の牡丹が咲き乱れる振袖は、『レトロ・モダン』をテーマとして、美姫がデザインしたものだ。袴と同じ濃緑の半襟が覗き、袴の下には黒い革のブーツを履いている。
大学には3年次からの編入で、しかも4年次になってからは殆ど来られていなかったが、それでも構内に溢れる卒業式の雰囲気を感じ取り、美姫の気持ちも盛り上がっていた。
式には、誠一郎と凛子が出席してくれると言っていたが、大和は四十九日法要以降、羽鳥家とは連絡を絶っていた。
大蔵の後援会が主宰する新年会に呼ばれ、大和も出席するように説得したが、頑なに拒否された。
『羽鳥家とは縁を切ったんだ! 俺たちがあいつの新年会に行く義理なんてねぇだろ!』
大和にそう言われたものの、結婚して親族関係にある以上、美姫には割り切ることは出来なかった。世間の目だってある。
結局、美姫は大和が欠席する中、一人で新年会に参加したのだった。心細かったし、親戚からの視線も痛く、居た堪れない思いをした。
5日後の大地の1周忌には大和は参列するが、そこでまた家族で揉め事が起こるのではないかと、今から不安だった。
大和はたくさんの友人や後輩から声をかけられていた。来栖財閥での仕事が忙しくなってからも美姫よりも大学に通っていたし、友人との交流も続いていたようだった。大和は花束や色紙、プレゼントなどを抱えきれないぐらいもらっていた。
大和ってやっぱり人徳があるな。
優しいし、面倒見がいいから、みんなから慕われてるんだよね。
大和がいい人だってことはよく分かってるはずなのに......どうして私は、大和を受け入れてあげられないんだろう。
苦しい気持ちで大和の笑顔を見つめていると、後ろから声をかけられた。
『美姫先輩、大学卒業おめでとうございます!!』
振り向くと、朱里、愛、菫の3人が花束を抱えて立っていた。入学式の日に彼女たちに声をかけてもらい、不安な思いをせずに済んだことを思い出す。あれから2年間大学に通っていたにもかかわらず、結局彼女たちと話ができたのは数えるほどしかなかった。
渡されたのは、レインボーローズとかすみ草の花束だった。レインボーローズはオランダで生産加工されている特殊な薔薇で、花弁1枚1枚の色が全て異なる生花だ。花言葉は「奇跡」「無限の可能性」で、近年卒業祝いや就職祝いの贈り物として人気の花だ。
「わぁ、綺麗! すごく嬉しい、ありがとう」
「美姫先輩、KURUSUブランド、私たちも愛用してるんですよ。これからも私たちの憧れの女性でいてくださいね」
3人に憧憬の眼差しで見つめられ、美姫は複雑な心情を胸に抱えつつも笑顔で受け止めた。
「ごめんな、1人にしちまって」
大和が戻ってくると、美姫は笑顔で首を振った。本当は、二人でいる方が辛かった。
美姫のスマホが鳴った。
「もしもし?」
『もしもし、美姫? どこにいる?』
薫子からだった。今日は悠の卒業式に出席する為に、久しぶりに青海学園大学に来たのだった。
0
お気に入りに追加
343
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
義妹のミルク
笹椰かな
恋愛
※男性向けの内容です。女性が読むと不快になる可能性がありますのでご注意ください。
母乳フェチの男が義妹のミルクを飲むだけの話。
普段から母乳が出て、さらには性的に興奮すると母乳を噴き出す女の子がヒロインです。
本番はありません。両片想い設定です。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる