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幸せな女と幸せを演じる女
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「そう言えば、ばあやさんはどうしてる?」
美姫は、思い出したように気軽に尋ねた。以前に腰を痛めて入院中とは聞いていたが、あれから1年近く経つし、もう元気だろうと勝手に思っていた。
途端に、薫子の表情が曇った。
「まだ、入院中なの。週に二度、私が生け花教室がある時にばあやの様子を見に行ってるし、時々悠と詩織も一緒に会ったりしてる。意識も口調もしっかりしてるんだけど、老齢で骨が弱ってるから治るのに時間が掛かるみたいで......」
「そっか......早く退院出来るといいね」
まさか未だばあやが入院しているとは思っていなかったので、美姫は気まずく思いながら、ばあやのことが心配になった。
今度、お見舞いに伺おうかな。
ばあやのことがきっかけだったのか、薫子が突然思い出したように立ち上がった。
「あ! そうだ、二人に渡したいものがあったの」
薫子はそれを取りに行くため、部屋を出て行った。美姫は詩織が騒ぎ出すんじゃないかとヒヤヒヤしたが、詩織はアニメに夢中で母親がいなくなったことに気がついていないようだった。
「急なお誘いでごめんね。
4月だから都合つくか分からないけど、出来たらぜひ二人に来て欲しいの」
渡されたのは、結婚式の招待状だった。
「結婚式、挙げることにしたんだ!」
声を上げた美姫に、薫子も頬を緩めた。
「大学卒業したら正式に風間財閥の元で働くことになるから、その前に式を挙げようって悠が言ってくれて。
親しい人たちだけ呼んで、結婚式の後は近くのレストランで皆で食事するつもりなの。しーちゃんがいるから、長くは無理だし」
「わぁー、楽しみだね! 大切な二人の結婚式だもん、絶対行くから!」
薫子は目を細めた。
「じゃあ、大和と一緒に会えるの楽しみにしてるね」
「あ、あの......大和の、こと......なんだけど......」
美姫が思い切って大和の相談を薫子に持ちかけようとした時、
「ママ! ママ! ママぁーーー!!!」
詩織がけたたましく騒ぎ立てた。お気に入りのアニメが終わってしまったのだ。
薫子はリモコンを手に取るとTVを消した。詩織が火がついたように泣き出し、畳の上で手足をバタバタさせる。
「アンマー! アンマー!!」
「しーちゃん、アンマはもうバイバイよ? もう、ねんねの時間だって」
「アンマー! アンマー!!」
薫子は困ったように詩織を見つめる。こんな時は無理に抱き上げると余計に暴れるので、落ち着くまで待つしかない。
薫子は、『いいこと思いついた!』といった様子で、詩織がこちらを窺ったタイミングで声を掛けた。
「しーちゃん! 美姫お姉さんが、おいしいマンマ持ってきてくれたよ!」
「マンマ?」
「そう! ほら、見てごらん」
アニメに夢中で手付かずだったボウルに入った赤ちゃんクッキーを見せる。詩織の瞳がみるみるうちに輝いた。
「マンマ! マンマ!」
「うん、食べようね」
機嫌を直し、クッキーを頬張る詩織を抱っこし、薫子は美姫の元に戻ってきた。
「ごめんねぇ、いつも誰か来てくれても話が中断しちゃって、なかなか進まないの。
それで、なんの話だった?」
美姫は、口角を上げた。
「ううん、なんでもないの。
しーちゃん、クッキーおいしい?」
結局、美姫は大和のことを話すことができないまま、薫子の家を出ることになった。
「なんのおもてなしも出来なくてごめんね」
「こちらこそ、忙しい時にお邪魔しちゃってごめんね」
お互い、今日は何度謝ったのだろう。すぐに謝ってしまうのは、日本人の癖なのかもしれない。
そう美姫が考えていると、薫子が心配そうに見つめてきた。
「ねぇ、美姫......本当は、私に何か相談したいことがあったんじゃないの?
美姫、痩せたし、なんか元気ないし......もし何かあれば、いつでも言ってね?」
薫子、気づいてたんだ。
それだけで、美姫は十分だと思った。
「仕事が忙しくて、不規則な生活してるから。
でも、薫子としーちゃんに会えて元気もらったよ、ありがとね」
美姫は、思い出したように気軽に尋ねた。以前に腰を痛めて入院中とは聞いていたが、あれから1年近く経つし、もう元気だろうと勝手に思っていた。
途端に、薫子の表情が曇った。
「まだ、入院中なの。週に二度、私が生け花教室がある時にばあやの様子を見に行ってるし、時々悠と詩織も一緒に会ったりしてる。意識も口調もしっかりしてるんだけど、老齢で骨が弱ってるから治るのに時間が掛かるみたいで......」
「そっか......早く退院出来るといいね」
まさか未だばあやが入院しているとは思っていなかったので、美姫は気まずく思いながら、ばあやのことが心配になった。
今度、お見舞いに伺おうかな。
ばあやのことがきっかけだったのか、薫子が突然思い出したように立ち上がった。
「あ! そうだ、二人に渡したいものがあったの」
薫子はそれを取りに行くため、部屋を出て行った。美姫は詩織が騒ぎ出すんじゃないかとヒヤヒヤしたが、詩織はアニメに夢中で母親がいなくなったことに気がついていないようだった。
「急なお誘いでごめんね。
4月だから都合つくか分からないけど、出来たらぜひ二人に来て欲しいの」
渡されたのは、結婚式の招待状だった。
「結婚式、挙げることにしたんだ!」
声を上げた美姫に、薫子も頬を緩めた。
「大学卒業したら正式に風間財閥の元で働くことになるから、その前に式を挙げようって悠が言ってくれて。
親しい人たちだけ呼んで、結婚式の後は近くのレストランで皆で食事するつもりなの。しーちゃんがいるから、長くは無理だし」
「わぁー、楽しみだね! 大切な二人の結婚式だもん、絶対行くから!」
薫子は目を細めた。
「じゃあ、大和と一緒に会えるの楽しみにしてるね」
「あ、あの......大和の、こと......なんだけど......」
美姫が思い切って大和の相談を薫子に持ちかけようとした時、
「ママ! ママ! ママぁーーー!!!」
詩織がけたたましく騒ぎ立てた。お気に入りのアニメが終わってしまったのだ。
薫子はリモコンを手に取るとTVを消した。詩織が火がついたように泣き出し、畳の上で手足をバタバタさせる。
「アンマー! アンマー!!」
「しーちゃん、アンマはもうバイバイよ? もう、ねんねの時間だって」
「アンマー! アンマー!!」
薫子は困ったように詩織を見つめる。こんな時は無理に抱き上げると余計に暴れるので、落ち着くまで待つしかない。
薫子は、『いいこと思いついた!』といった様子で、詩織がこちらを窺ったタイミングで声を掛けた。
「しーちゃん! 美姫お姉さんが、おいしいマンマ持ってきてくれたよ!」
「マンマ?」
「そう! ほら、見てごらん」
アニメに夢中で手付かずだったボウルに入った赤ちゃんクッキーを見せる。詩織の瞳がみるみるうちに輝いた。
「マンマ! マンマ!」
「うん、食べようね」
機嫌を直し、クッキーを頬張る詩織を抱っこし、薫子は美姫の元に戻ってきた。
「ごめんねぇ、いつも誰か来てくれても話が中断しちゃって、なかなか進まないの。
それで、なんの話だった?」
美姫は、口角を上げた。
「ううん、なんでもないの。
しーちゃん、クッキーおいしい?」
結局、美姫は大和のことを話すことができないまま、薫子の家を出ることになった。
「なんのおもてなしも出来なくてごめんね」
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お互い、今日は何度謝ったのだろう。すぐに謝ってしまうのは、日本人の癖なのかもしれない。
そう美姫が考えていると、薫子が心配そうに見つめてきた。
「ねぇ、美姫......本当は、私に何か相談したいことがあったんじゃないの?
美姫、痩せたし、なんか元気ないし......もし何かあれば、いつでも言ってね?」
薫子、気づいてたんだ。
それだけで、美姫は十分だと思った。
「仕事が忙しくて、不規則な生活してるから。
でも、薫子としーちゃんに会えて元気もらったよ、ありがとね」
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