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爆発
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「ぇ。
な、んで......そう、思うんだ」
大和は視線を泳がせた。
いつも誠実で正直だった大和が嘘をつくなんて、美姫には信じられなかった。それほど美姫との関係を必死に守ろうとしていたのだとしても、美姫にはもう大和の言うことに信憑性を感じられない。
「......浮気調査の、依頼をしたの」
「!!」
今度は大和が驚く番だった。
本当なら、言いたくなかった......
美姫は、自分たちの関係にどんどん亀裂が入っていくのを感じた。
「出張が早く終わって帰ってきた日があったの覚えてる? あの日、大和のシャツに香の匂いが染み付いてて、背広の胸ポケットに千社札が入っているのを見つけたの。
本当は、疑いたくなんてなかった......
大和が浮気なんてしないことを信じて、調査を頼んだの。それで、1ヶ月経って何もなければそれで終わりにしよう、って......」
なのに......という言葉を、美姫は飲み込んだ。その続きは、大和自身が分かっているだろうから。
大和が腰を深く折り、ガクンと項垂れた。
「俺、は......美姫が、大切、だから......ふたりの関係を守りたかった、から......」
上擦った震える声を聞いて胸が痛むけれど、そこに大和への愛情を見出すことは出来ない。
「それ、ほど大切に思ってたん、なら......どうして、壊し、たの?
もし、一度だったとしても......関係、ない。
『たった一度』だなんて、軽く言わないで。裏切られたことは変わらない。
私はもう、大和を以前のような気持ちで接することは......出来ない、よ......グッ」
大和は縋り付くように美姫を見つめた。
「ちが......違うん、だ。
俺は、あの女ひとを抱きながらも、美姫のことだけ思ってた。お前の名前を呼びながら、抱いてた...」
「いやっ!! やめてっっ!!
そんな話、聞きたくないっ!!!」
美姫は両耳を塞いだ。自分のことを思いながら、自分の名前を呼びながら他の女を抱いていたと聞いても、美姫の心が晴れる筈ない。それどころか、更に嫌悪感を募らせただけだった。
「だったら!!」
大和が息巻いた。それは両耳を塞いでいても響いてくるほどの剣幕だった。美姫は思わずビクッと震え、手を外した。
「だったら、心の浮気はいいのかよ!?
お前はずっと、来栖秀一のこと忘れてねぇじゃねーか!! ずっとあいつの影を、引き摺ったままじゃねーか!!!」
美姫は息を詰まらせた。それから、苦しそうに表情を歪め、蚊の鳴くような声で呟いた。
「......秀一さんを忘れられない私もひっくるめて、愛してやるって言ったじゃない。
俺が、支えてやるから、って......」
卑怯なことは分かってる。結局秀一を忘れられず、大和を苦しませ続けた自分が悪いのだということも。
それでも美姫は、大和を傷つけずにはいられなかった。
大和が、テーブルを拳で殴りつけた。TVのリモコンが勢い良く跳ね、ラグの上に落ちた。
「あぁ......その、つもりだった。
たとえ美姫が来栖秀一を忘れられなくても、好きだったとしても、それでもいい。俺の傍にいてくれるなら、それだけで十分だって......あの時は本当に思ってたんだ。
けど、美姫と一緒にいればいるほど、好きになればなるほど、そんなことは無理だって気付かされた。
お前を俺だけのものにしたい、独占したいって気持ちが大きくなって......来栖秀一の影を超え、それを踏みつけ、あいつを忘れさせるんだって躍起になってた」
切なく眉を寄せた大和の表情は苦しげで......
美姫を好きだという思いは未だに変わっていない。
それどころか、更に募っていくからこそ、辛い思いを抱えていたのだと訴えていた。
な、んで......そう、思うんだ」
大和は視線を泳がせた。
いつも誠実で正直だった大和が嘘をつくなんて、美姫には信じられなかった。それほど美姫との関係を必死に守ろうとしていたのだとしても、美姫にはもう大和の言うことに信憑性を感じられない。
「......浮気調査の、依頼をしたの」
「!!」
今度は大和が驚く番だった。
本当なら、言いたくなかった......
美姫は、自分たちの関係にどんどん亀裂が入っていくのを感じた。
「出張が早く終わって帰ってきた日があったの覚えてる? あの日、大和のシャツに香の匂いが染み付いてて、背広の胸ポケットに千社札が入っているのを見つけたの。
本当は、疑いたくなんてなかった......
大和が浮気なんてしないことを信じて、調査を頼んだの。それで、1ヶ月経って何もなければそれで終わりにしよう、って......」
なのに......という言葉を、美姫は飲み込んだ。その続きは、大和自身が分かっているだろうから。
大和が腰を深く折り、ガクンと項垂れた。
「俺、は......美姫が、大切、だから......ふたりの関係を守りたかった、から......」
上擦った震える声を聞いて胸が痛むけれど、そこに大和への愛情を見出すことは出来ない。
「それ、ほど大切に思ってたん、なら......どうして、壊し、たの?
もし、一度だったとしても......関係、ない。
『たった一度』だなんて、軽く言わないで。裏切られたことは変わらない。
私はもう、大和を以前のような気持ちで接することは......出来ない、よ......グッ」
大和は縋り付くように美姫を見つめた。
「ちが......違うん、だ。
俺は、あの女ひとを抱きながらも、美姫のことだけ思ってた。お前の名前を呼びながら、抱いてた...」
「いやっ!! やめてっっ!!
そんな話、聞きたくないっ!!!」
美姫は両耳を塞いだ。自分のことを思いながら、自分の名前を呼びながら他の女を抱いていたと聞いても、美姫の心が晴れる筈ない。それどころか、更に嫌悪感を募らせただけだった。
「だったら!!」
大和が息巻いた。それは両耳を塞いでいても響いてくるほどの剣幕だった。美姫は思わずビクッと震え、手を外した。
「だったら、心の浮気はいいのかよ!?
お前はずっと、来栖秀一のこと忘れてねぇじゃねーか!! ずっとあいつの影を、引き摺ったままじゃねーか!!!」
美姫は息を詰まらせた。それから、苦しそうに表情を歪め、蚊の鳴くような声で呟いた。
「......秀一さんを忘れられない私もひっくるめて、愛してやるって言ったじゃない。
俺が、支えてやるから、って......」
卑怯なことは分かってる。結局秀一を忘れられず、大和を苦しませ続けた自分が悪いのだということも。
それでも美姫は、大和を傷つけずにはいられなかった。
大和が、テーブルを拳で殴りつけた。TVのリモコンが勢い良く跳ね、ラグの上に落ちた。
「あぁ......その、つもりだった。
たとえ美姫が来栖秀一を忘れられなくても、好きだったとしても、それでもいい。俺の傍にいてくれるなら、それだけで十分だって......あの時は本当に思ってたんだ。
けど、美姫と一緒にいればいるほど、好きになればなるほど、そんなことは無理だって気付かされた。
お前を俺だけのものにしたい、独占したいって気持ちが大きくなって......来栖秀一の影を超え、それを踏みつけ、あいつを忘れさせるんだって躍起になってた」
切なく眉を寄せた大和の表情は苦しげで......
美姫を好きだという思いは未だに変わっていない。
それどころか、更に募っていくからこそ、辛い思いを抱えていたのだと訴えていた。
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