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調査

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「取締役と千代菊さんがプライベートでもお会いしているのは存じておりますが、どういった関係なのかまでは、私には分かりません。
 ですが、取締役が千代菊さんに恋心とかそういった感情がないのは事実です。取締役は常にお嬢様のことを気にかけておられますし、大切にされていることは、私の目からも分かります」

 それじゃ、躰だけの関係ってこと?

 だが、たとえ心がなくて躰だけの関係だとしても、美姫にはなんの慰めにもならなかった。自分には指一本触れない大和がどこかで別の女性を抱いているのだと思うと、涙が瞳の奥から滲み出て熱くなった。それは悔しさからなのか、怒りなのか、悲しいからなのか、惨めだからなのか、自分でもよく分からなかった。

 全てがぐちゃぐちゃに混ざり合った感情が限界を超えて溢れ出した、そんな感じだった。

 どれだけ女性の尊厳を踏みにじられても、大和は未だ大地の死から立ち直れないから性的にそんな気になれないのだと納得させ、大和の気持ちに寄り添ってあげなければいけないと自分に言い聞かせていたのに......裏切られた気分だった。

 私に、女としての魅力を何も感じないの?
 触れることすら、嫌なの?

 もう、好きじゃないの?

 認めたくない、という気持ちが大きかった。

「村田さん、今後の大和のスケジュールを教えてもらえませんか」
「えっ......」

 動揺する村田に、美姫は安心させるように笑みを見せた。

「興信所に依頼して、大和の浮気を調査してもらいます。まだ大和が浮気したって決まったわけじゃないですし、何もなければそれで安心出来ますから」

 それでも村田はまだ、浮かない表情だった。

「でももし、取締役が黒だったら......その時は、お嬢様はどうされるおつもりですか」

 大和が浮気してたら......

 考えたくは、ない。まだ、自分がどうするのか、どうしたいのか、どうするべきなのか、何も分からない。

 一つだけ言える事、それは......

「大和と離婚することは、ないから」

 秀一と決別した後、財閥を救いたいという思いを汲み、突然の自分勝手な申し出にも関わらず大和は美姫と結婚してくれた。それから来栖財閥は危機を脱したばかりか、急成長を遂げている。

 危篤だった父の病状が回復し、今では大和に財閥を継がせるための準備をさせている。大和がいなければ、父も財閥も今頃どうなっていたか分からない。

 大和は、美姫にとっても、両親にとっても、財閥にとっても恩人だ。

 秀一への想いを振り切ってまで、彼との生活を選んだのだ。
 絶対に、この夫婦関係は守っていかなければならない。

 たとえ、何があろうとも......

 美姫は、ただこの状況をはっきりさせたいだけだった。このまま、もやもやした気持ちのままではいられない。

「どうか、このことは絶対にお父様とお母様には言わないで」

 ふたりを、心配させたくない......

 縋るように美姫が村田を見つめると、力強く頷いた。

「もちろんです」

 村田とて、長年支えてきた社長夫婦を悲しませたくない。

 だが、一番の心配は美姫のことだった。どうか大和が愛すべき妻を裏切っていることなどないよう、祈らずにはいられなかった。
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