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疑惑

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 お風呂から上がった大和が、対面カウンターから顔を出した。

「すげぇー旨そうな匂い! やっぱこうして出来立てのご飯食べられるのっていいな」

 美姫は心苦しくなり、俯いた。

「ごめんね、大和。最近忙しくて全然食事作ってあげられなくて......」
「い、いやっ! 別に、責めてるつもりはねぇから!
 美姫が仕事で忙しくて大変なのは分かってるし、すげぇ頑張ってるのは分かるから。てか、ほんと無理しなくていいからな」

 優しい言葉を掛けられて美姫が顔を上げると、大和が包み込むような眼差しで見つめていた。

 これが本当の大和の気持ちだって、そう受け取っていいんだよね?

 久しぶりに夕食を共にすることに違和感を感じてしまい、なんとなく落ち着かない美姫に、大和が思い出したように話しかけてきた。

「今日さ、久々に大学行ったら悠に会った」
「そうなんだ! なんか言ってた?」

 同じ大学に通いながら、悠とは全然顔を合わせていなかった。

「詩織、昨日初めて歩いたらしいぞ」
「え、嘘!? この前薫子からLINEで、掴まり立ちが出来るようになったって聞いたばっかりだと思ってたのに。
 子供の成長ってほんと早いねー」
「だよな。俺なんて、ついこの間産まれたような気がしてたのにさー」
「フフッ、それはいくら何でもないでしょー。だって、しーちゃんもう15ヶ月だよ」
「マジか!? なんか俺、急に年取った気がすんな」

 詩織の話をきっかけにして、そこから互いの卒論の進行状況や仕事の話などが出て、気がつけば自然とまた以前のような会話になっていた。それと共に、ささくれだっていた美姫の心も少しずつ柔らかくなってきた。

 食事が終わり、席を立とうとすると、大和がそれを制す。

「後片付けは俺がするから、美姫は座ってろよ」

 美姫は笑みを見せ、茶碗を重ねて立ち上がった。

「二人でやったら、すぐ終わるでしょ?」

 ほら、今までと変わらないいつもの私たちだ。
 心配することなんて、何もない。

「ねぇ、今日映画でも観よっか?」

 美姫はスポンジで洗った皿を大和に渡しながら、提案した。

 美姫がお風呂から上がると、二人の大好きなファンタジー映画の第三弾を観ることにした。映画館で観ようと話していたのに二人のスケジュールがなかなか合わず、結局見逃してしまったものだった。

 大和が美姫に告白したあの日観ていた映画が第二弾で、この第四弾が完結編となっていた。あれから5年の月日が流れ、今は夫婦となってリビングで並んで映画を観ていることを思うと、運命の不思議さを感じた。

「ポップコーン、食べる?」
「おぉ、いいな!」

 即答した大和に、美姫は歯を見せた。軽い足取りでキッチンへ向かうと、食品棚からポップコーンの箱を取り出した。

 映画を観終わっても、二人の興奮は冷めやらなかった。

「普通映画の続編って質がだんだん落ちていくものが多いけど、ほんっとこの映画は凄いよな。やっぱ原作がしっかりしてるからってのがあるんだろうな」
「初めて原作読んだ時はあの世界観に引き込まれて、すっごい嵌まり込んだの覚えてる。それが映画化するって聞いた時は絶対に表現しきれるわけないって思ってたけど、あそこまで再現出来るなんてほんと感激したもん!
 今回の完結編では益々迫力が増してて、それぞれのキャラが立ってて、心情描写が重なっていく部分とかそこからの場面展開とかもぉーっ!! あぁー、映画館で観たかったなぁー」
「なぁ、俺また第一弾から観たくなった!」
「私も!! それで、最後まで一気観したい!!」
「だよなー!!」

 こうしていると、自分たちが学生の時のテンションが蘇る。なんでも言い合えていた頃の気さくな雰囲気になり、美姫は心から嬉しく感じていた。

 今なら、言えるかもしれない。

 以前、大和を誘ったときに断られたことがトラウマとなり、それをずっと引き摺っていたが、このままではいけないと思った。大和との関係を、取り戻したい。

 美姫は、精一杯の勇気を掻き集め、心の中で祈りながら大和に問いかけた。


「今夜は......大和と、同じベッドで寝たい......」

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