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疑惑
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突然部屋の扉が開き、美姫は肩をビクッとさせた。
「あれ、美姫帰ってたのか」
背中から聞こえる大和の声に、思わず美姫は手にしていた千社札を胸ポケットに戻していた。
「う、ん。
仕事が予定よりも早く終わったから、それで......」
大和は美姫が手にしていた背広を、すっと取り上げた。
「ごめんな、脱ぎっぱなしで。昨日帰ってきてからなんか疲れてて、そのままスーツとか脱ぎ散らかして寝ちまった」
背広をハンガーに掛けながら背中を向ける大和に、寂しい気持ちが広がる。
今までだったらそのまま私にやらせてたのに、どうして自分で掛けようとするの?
それは......どこかに、疚しい気持ちがあるからなの?
「昨日は仕事、遅かったの?」
何気なさを装って、美姫が尋ねる。
大和は背中を向けたまま答えた。
「あぁ、昨日は横山さんに誘われて飲みに行ってて......つい、飲みすぎちまって」
「そうなんだ。どこに、行ったの?」
美姫はいつもならそこまで聞くことはないのに、今日は聞かずにはいられなかった。
どうか、安心させて。
何も心配することはないんだって、確信させて欲しい。
大和は僅かに肩を強張らせた。
「横山さんの行きつけのスポーツバーだよ。そこで、一緒にサッカー観ながら飲んでた」
嘘......
スポーツバーには、香の匂いをさせてる女ひとなんかいない。心がチリチリと焼け付き、胃がムカムカした。心臓が激しくドクドクと鼓動を刻む。
「そう、なんだ。よかったね、仕事の息抜きが出来て」
それなのに大和に何も聞くことが出来ず、薄っぺらい笑みを浮かべていた。
「あ、あぁ......悪いな。美姫は、出張で忙しくしてたのに......」
ようやく大和は振り返り、申し訳なさそうな表情を見せた。
それは、何に対しての『悪いな』なの?
私が仕事で忙しくしてたのに、浮気してたからってこと?
心が暴走しそうだった。ズキンと鋭く突き刺す胸の痛みを抱え、美姫は眉を下げ、口を尖らせた。
「ほんとだよ。
今度は、私も誘ってよね?」
大和もまた眉を下げ、口角を引き上げた。
「あぁ、今度は一緒に行こう」
瞳の奥が熱くなったのを感じて、美姫は慌てて早口で大和に告げた。
「ごめん、夕飯の支度まだだった。今日は久しぶりに大和の好きな豚の生姜焼き作ろうと思って、買い物してきたの。準備するから、先にお風呂入ってきてもらっていいかな?」
「あぁ、分かった。出張から帰ってきて疲れてるのに、悪いな」
「ううん。私が作りたいって思って勝手に買ってきただけだから」
つい、捻くれた言葉遣いになってしまって、美姫は「じゃあ」と逃げるように大和の部屋から出た。
信じ、たくない。
あの大和が、浮気するなんて......
そんなこと、信じられない。
料理をしながらも、先ほどの香の匂いがまだ鼻の先についているような気がして、美姫は思わず頭を振った。
きっと、何か理由があるんだ。私には言えない、理由が。
私は大和の奥さんなんだから。大和を信じてあげなくてどうするの。
大丈夫、こんなことで私たちの夫婦関係が崩れることなんてない。
崩れさせるわけには、いかない。
美姫は涙を堪え、必死に先ほどの記憶を掻き消し、料理に集中することにした。
「あれ、美姫帰ってたのか」
背中から聞こえる大和の声に、思わず美姫は手にしていた千社札を胸ポケットに戻していた。
「う、ん。
仕事が予定よりも早く終わったから、それで......」
大和は美姫が手にしていた背広を、すっと取り上げた。
「ごめんな、脱ぎっぱなしで。昨日帰ってきてからなんか疲れてて、そのままスーツとか脱ぎ散らかして寝ちまった」
背広をハンガーに掛けながら背中を向ける大和に、寂しい気持ちが広がる。
今までだったらそのまま私にやらせてたのに、どうして自分で掛けようとするの?
それは......どこかに、疚しい気持ちがあるからなの?
「昨日は仕事、遅かったの?」
何気なさを装って、美姫が尋ねる。
大和は背中を向けたまま答えた。
「あぁ、昨日は横山さんに誘われて飲みに行ってて......つい、飲みすぎちまって」
「そうなんだ。どこに、行ったの?」
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どうか、安心させて。
何も心配することはないんだって、確信させて欲しい。
大和は僅かに肩を強張らせた。
「横山さんの行きつけのスポーツバーだよ。そこで、一緒にサッカー観ながら飲んでた」
嘘......
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「そう、なんだ。よかったね、仕事の息抜きが出来て」
それなのに大和に何も聞くことが出来ず、薄っぺらい笑みを浮かべていた。
「あ、あぁ......悪いな。美姫は、出張で忙しくしてたのに......」
ようやく大和は振り返り、申し訳なさそうな表情を見せた。
それは、何に対しての『悪いな』なの?
私が仕事で忙しくしてたのに、浮気してたからってこと?
心が暴走しそうだった。ズキンと鋭く突き刺す胸の痛みを抱え、美姫は眉を下げ、口を尖らせた。
「ほんとだよ。
今度は、私も誘ってよね?」
大和もまた眉を下げ、口角を引き上げた。
「あぁ、今度は一緒に行こう」
瞳の奥が熱くなったのを感じて、美姫は慌てて早口で大和に告げた。
「ごめん、夕飯の支度まだだった。今日は久しぶりに大和の好きな豚の生姜焼き作ろうと思って、買い物してきたの。準備するから、先にお風呂入ってきてもらっていいかな?」
「あぁ、分かった。出張から帰ってきて疲れてるのに、悪いな」
「ううん。私が作りたいって思って勝手に買ってきただけだから」
つい、捻くれた言葉遣いになってしまって、美姫は「じゃあ」と逃げるように大和の部屋から出た。
信じ、たくない。
あの大和が、浮気するなんて......
そんなこと、信じられない。
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きっと、何か理由があるんだ。私には言えない、理由が。
私は大和の奥さんなんだから。大和を信じてあげなくてどうするの。
大丈夫、こんなことで私たちの夫婦関係が崩れることなんてない。
崩れさせるわけには、いかない。
美姫は涙を堪え、必死に先ほどの記憶を掻き消し、料理に集中することにした。
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