762 / 1,014
乾いていく蜜
7
しおりを挟む
7月に入り、参議院選挙が行われた。
大瀧はそれまでの引退宣言を翻して任期続行を決めて参院選に出馬し、当選を果たした。のうのうと政界に居座り続ける大瀧の姿に、大和は歯軋りした。
大地を救うことが出来なかったという無念の思いは、いつまでも大和の心を支配続け、苦しめ続けた。
羽鳥家とも絶縁した今、大和には来栖家の養父母、そして美姫だけが家族だった。大和は自分を救ってくれた来栖家に恩返ししたいと、今まで以上に仕事に打ち込むようになった。
だがそれは、美姫と過ごす時間が少なくなることを意味し、皮肉な事に美姫との距離がさらに深まる原因ともなっていった。
大和は同じベッドで寝ても、美姫に愛撫することすらなくなった。美姫が触れようとするとビクッと躰を震わせ、避けるような仕草を見せたりする。その度に、美姫の心はナイフで抉られるように痛んだ。
美姫はそれを必死に隠し、気づかないふりをし、笑顔で大和に接した。
大和の心の痛みを少しでも和らげてあげたい。
癒したい。
役に立ちたい。
いつかまた大和が心から笑い、また以前のような夫婦関係になれることを願っていた。
けれどその一方で、美姫の心は悲しみで曇り、冷たい雨に濡れていた。
考えたくなくても、どうしても考えてしまう。
私の、何がいけないの?
もう大和は私のことは好きじゃないの?
たとえお兄さんの死から立ち直れていないとしても、どうして私に、触れることさえしないの?
なぜそこまで避けようとするの?
そう思う度に、美姫は唇を噛み締めて涙を堪えた。
もう自分には魅力がない。
女として見られていない。
そんな風にどうしても感じてしまう。
美姫は、女性としての自信を失いかけていた。
ある晩、美姫は勇気を振り絞り、寝ている大和の背中を抱き締めた。大和の背中がビクッと震える。
「やまと......」
声が、震える。
お願い。
こっちを見て。
私を、見て。
---私を、愛して......
大和が美姫の方へと向き直ると、頭を撫でた。
「ごめんな、疲れてんだ......
今日は、自分の部屋で寝る」
大和が躰を起こし、立ち上がって部屋を出て行く。
もう......
もう、ダメ......
美姫は大和の出て行った部屋で、布団に顔を押し付けて泣いた。
それから、大和は自分の部屋で寝るようになり、美姫の寝室で眠ることはなくなった。以前も別々の寝室で寝ることはあったが、まだあの時には性行為があったし、そういった日には同じベッドで寝ていた。けれど、今はそういった行為もなく、完全に別室なのだ。
美姫からどうしてなのか聞けず、大和ももうそれが普通のことであるかのように振舞っていた。
だからと言って、大和が冷たくなったわけではなかった。会えば普通に会話はするし、冗談を言ったりもするし、優しく接してくれる。だからこそ、美姫は大和を嫌いにはなれないし、愛したいと思っていた。
そして、心から......自分のことを愛して欲しいと切実に願っていた。
大瀧はそれまでの引退宣言を翻して任期続行を決めて参院選に出馬し、当選を果たした。のうのうと政界に居座り続ける大瀧の姿に、大和は歯軋りした。
大地を救うことが出来なかったという無念の思いは、いつまでも大和の心を支配続け、苦しめ続けた。
羽鳥家とも絶縁した今、大和には来栖家の養父母、そして美姫だけが家族だった。大和は自分を救ってくれた来栖家に恩返ししたいと、今まで以上に仕事に打ち込むようになった。
だがそれは、美姫と過ごす時間が少なくなることを意味し、皮肉な事に美姫との距離がさらに深まる原因ともなっていった。
大和は同じベッドで寝ても、美姫に愛撫することすらなくなった。美姫が触れようとするとビクッと躰を震わせ、避けるような仕草を見せたりする。その度に、美姫の心はナイフで抉られるように痛んだ。
美姫はそれを必死に隠し、気づかないふりをし、笑顔で大和に接した。
大和の心の痛みを少しでも和らげてあげたい。
癒したい。
役に立ちたい。
いつかまた大和が心から笑い、また以前のような夫婦関係になれることを願っていた。
けれどその一方で、美姫の心は悲しみで曇り、冷たい雨に濡れていた。
考えたくなくても、どうしても考えてしまう。
私の、何がいけないの?
もう大和は私のことは好きじゃないの?
たとえお兄さんの死から立ち直れていないとしても、どうして私に、触れることさえしないの?
なぜそこまで避けようとするの?
そう思う度に、美姫は唇を噛み締めて涙を堪えた。
もう自分には魅力がない。
女として見られていない。
そんな風にどうしても感じてしまう。
美姫は、女性としての自信を失いかけていた。
ある晩、美姫は勇気を振り絞り、寝ている大和の背中を抱き締めた。大和の背中がビクッと震える。
「やまと......」
声が、震える。
お願い。
こっちを見て。
私を、見て。
---私を、愛して......
大和が美姫の方へと向き直ると、頭を撫でた。
「ごめんな、疲れてんだ......
今日は、自分の部屋で寝る」
大和が躰を起こし、立ち上がって部屋を出て行く。
もう......
もう、ダメ......
美姫は大和の出て行った部屋で、布団に顔を押し付けて泣いた。
それから、大和は自分の部屋で寝るようになり、美姫の寝室で眠ることはなくなった。以前も別々の寝室で寝ることはあったが、まだあの時には性行為があったし、そういった日には同じベッドで寝ていた。けれど、今はそういった行為もなく、完全に別室なのだ。
美姫からどうしてなのか聞けず、大和ももうそれが普通のことであるかのように振舞っていた。
だからと言って、大和が冷たくなったわけではなかった。会えば普通に会話はするし、冗談を言ったりもするし、優しく接してくれる。だからこそ、美姫は大和を嫌いにはなれないし、愛したいと思っていた。
そして、心から......自分のことを愛して欲しいと切実に願っていた。
0
お気に入りに追加
345
あなたにおすすめの小説


義妹のミルク
笹椰かな
恋愛
※男性向けの内容です。女性が読むと不快になる可能性がありますのでご注意ください。
母乳フェチの男が義妹のミルクを飲むだけの話。
普段から母乳が出て、さらには性的に興奮すると母乳を噴き出す女の子がヒロインです。
本番はありません。両片想い設定です。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる