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別れ
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大和は、こんな時に申し訳ないと思いつつも、どうしても優子に確かめたかった。
「白川さんは、だい兄が自殺したと思いますか」
ストレートな質問に肩を大きく震わせて動揺を見せたものの、それから考えこむと、優子は首を横に振った。
「いいえ。
どんな事があろうと、あの人は自らの命を絶つような真似をする人じゃありませんでした」
ようやく理解してくれる人に出会えたと、大和は希望の光を見出した気がした。
「だい兄が亡くなる前に、何か聞いたり見たりしたことはありませんか? 気づいたこととか。
どんなに些細なことでもいいんです、教えて下さい!」
恋人になら、何か重大なことを話しているかもしれないと大和は期待した。
「大和くんは......大地さんの死に、大瀧先生が関わっていると?」
優子の問いかけに、大和はテーブルに両手をついて身を乗り出した。
「何か知ってるんですか!?」
ガタンと大きく響いたテーブルの音と大和の大声に、周りにいた人々の迷惑そうな視線が突き刺さり、大和は気まずそうに頭を下げると席に座った。
優子は申し訳なさそうに首を振った。
「いえ、ごめんなさい。そういうことではなくて......
今日、大和くんと大瀧先生とのやり取りを聞いて、驚いていたところだったんです。そんな、恐ろしい可能性があるだなんて......
大地さんは仕事の話をすることは一切なかったから、私は何も知りませんでした。私が気づいたことといえば、彼が亡くなる前はとても忙しそうだったし、精神的にも疲れていそうな感じを受けていたということぐらい。
恋人としても、心理カウンセラーとしても、失格ですよね。彼の悩みや苦しみを、受け取めてあげることが出来なかった......」
優子の睫毛に落ちた影が、ふるりと揺れた。
「そう、ですか......」
大和は落胆の色を隠せなかった。見つけたと思った希望の光は、儚く消えてしまった。
優子は、落とした睫毛を上げた。
「大地さんが亡くなる前に遺した言葉がひとつだけ......
『もし自分に何かあれば、どうか詮索はせずに田舎に帰って欲しい』、と言われました」
大和の眉が上がる。
それって......白川さんが余計な詮索をすれば、狙われるかもしれないってことを心配してのこと、だよな?
恋人の安全を危惧した大地は、優子になんの証拠も託さなかった。もしかしたら、大和にまで優子という恋人の存在を今まで黙っていたのも、その為かもしれない。
底のしれない闇の恐怖を覗き込んだような気がして、大和はブルッと躰を震わせた。
優子は俯き、肩を震わせた。
「私......大地さんを失って、心の拠り所を失くした途端に、人の心理カウンセリングを受けられるような状態ではなくなってしまって。もう何もかも、ここでの生活をやめたくなってしまったんです。
大地さんに言われた通り、田舎の両親の元へ帰ります」
「え、それじゃ......」
美姫は不安そうに優子を見つめた。
「美姫さん、本当にごめんなさい。もう、貴女の心理カウンセリングは出来ません。
私の知り合いでいいカウンセラーを知っているので、その方を紹介します。
本当に、ごめんなさい......」
気丈に見えた優子だったが、ただその悲しみを見せてないだけだったのだ。心の奥底では悲しくて、悔しくて、辛くて仕方ないに違いない。
美姫にとって優子は心理カウンセラーであると同時に、心を許せる友人でもあった。正直、優子が自分の元を離れ、話を聞いてもらえなくなるのは支えを失うことになるし、とても辛い。
それ、でも......優子さんを引き止める事は出来ない。
きっと、優子さんは相当辛い思いをして、決断したことだと思うから。
美姫は、握られた優子の手をギュッと握り返した。
「とても......とても寂しくなるけど、優子さんが田舎で心穏やかに暮らせるよう、祈っています」
幸せに、だなんて軽々しく言えない。
10年以上も付き合っていた恋人を簡単に忘れられるはずなんてないから......
涙を溜めた瞳で見つめられた優子は、美姫に精一杯の笑顔を見せた。
「ありがとう」
「白川さんは、だい兄が自殺したと思いますか」
ストレートな質問に肩を大きく震わせて動揺を見せたものの、それから考えこむと、優子は首を横に振った。
「いいえ。
どんな事があろうと、あの人は自らの命を絶つような真似をする人じゃありませんでした」
ようやく理解してくれる人に出会えたと、大和は希望の光を見出した気がした。
「だい兄が亡くなる前に、何か聞いたり見たりしたことはありませんか? 気づいたこととか。
どんなに些細なことでもいいんです、教えて下さい!」
恋人になら、何か重大なことを話しているかもしれないと大和は期待した。
「大和くんは......大地さんの死に、大瀧先生が関わっていると?」
優子の問いかけに、大和はテーブルに両手をついて身を乗り出した。
「何か知ってるんですか!?」
ガタンと大きく響いたテーブルの音と大和の大声に、周りにいた人々の迷惑そうな視線が突き刺さり、大和は気まずそうに頭を下げると席に座った。
優子は申し訳なさそうに首を振った。
「いえ、ごめんなさい。そういうことではなくて......
今日、大和くんと大瀧先生とのやり取りを聞いて、驚いていたところだったんです。そんな、恐ろしい可能性があるだなんて......
大地さんは仕事の話をすることは一切なかったから、私は何も知りませんでした。私が気づいたことといえば、彼が亡くなる前はとても忙しそうだったし、精神的にも疲れていそうな感じを受けていたということぐらい。
恋人としても、心理カウンセラーとしても、失格ですよね。彼の悩みや苦しみを、受け取めてあげることが出来なかった......」
優子の睫毛に落ちた影が、ふるりと揺れた。
「そう、ですか......」
大和は落胆の色を隠せなかった。見つけたと思った希望の光は、儚く消えてしまった。
優子は、落とした睫毛を上げた。
「大地さんが亡くなる前に遺した言葉がひとつだけ......
『もし自分に何かあれば、どうか詮索はせずに田舎に帰って欲しい』、と言われました」
大和の眉が上がる。
それって......白川さんが余計な詮索をすれば、狙われるかもしれないってことを心配してのこと、だよな?
恋人の安全を危惧した大地は、優子になんの証拠も託さなかった。もしかしたら、大和にまで優子という恋人の存在を今まで黙っていたのも、その為かもしれない。
底のしれない闇の恐怖を覗き込んだような気がして、大和はブルッと躰を震わせた。
優子は俯き、肩を震わせた。
「私......大地さんを失って、心の拠り所を失くした途端に、人の心理カウンセリングを受けられるような状態ではなくなってしまって。もう何もかも、ここでの生活をやめたくなってしまったんです。
大地さんに言われた通り、田舎の両親の元へ帰ります」
「え、それじゃ......」
美姫は不安そうに優子を見つめた。
「美姫さん、本当にごめんなさい。もう、貴女の心理カウンセリングは出来ません。
私の知り合いでいいカウンセラーを知っているので、その方を紹介します。
本当に、ごめんなさい......」
気丈に見えた優子だったが、ただその悲しみを見せてないだけだったのだ。心の奥底では悲しくて、悔しくて、辛くて仕方ないに違いない。
美姫にとって優子は心理カウンセラーであると同時に、心を許せる友人でもあった。正直、優子が自分の元を離れ、話を聞いてもらえなくなるのは支えを失うことになるし、とても辛い。
それ、でも......優子さんを引き止める事は出来ない。
きっと、優子さんは相当辛い思いをして、決断したことだと思うから。
美姫は、握られた優子の手をギュッと握り返した。
「とても......とても寂しくなるけど、優子さんが田舎で心穏やかに暮らせるよう、祈っています」
幸せに、だなんて軽々しく言えない。
10年以上も付き合っていた恋人を簡単に忘れられるはずなんてないから......
涙を溜めた瞳で見つめられた優子は、美姫に精一杯の笑顔を見せた。
「ありがとう」
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