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家族崩壊

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「何するんだ、大和!
 大事なだい兄からの遺書なんだぞ!!」
「こんなのだい兄が書いたわけねぇだろ!! だい兄が遺書書くならどうして自殺するに至ったのか、自分はどんな心境なのか、俺たちのことを心配してることとか色々書く事あんだろ!

 こ、んな......たった二行の印字されただけの文字、だい兄が俺たちに残すわけねぇよ!!!」

 真実を突かれ、大樹は黙りこくった。

 そんな中、大蔵がゆっくりと口を開く。

「大地は......自殺、だった。警察の司法解剖でも、不審な点は見られんかったのだ。
 葬儀で大瀧先生に対して突っかかったり、暴言を吐いたり、ましてや他殺の可能性を仄めかすような発言は、絶対に許さん」

 赤く充血した大和の目は血走り、その奥からは抑えきれない憤怒の炎が揺らめく。噴火直前の火山のように真っ赤なマグマが増大して抑えきれず、今にも爆発しそうだった。

 大和が立ち上がり、大蔵の胸倉を掴んだ。

「てっめぇ......!!!」

 美姫はあまりの禍々しさに大和を止めることすら忘れ、絶句したまま彼を見つめていた。

 大樹が立ち上がり、大蔵との間に割り入ると大和の手を引き剥がす。

「大和、落ち着け......」
「落ち着いていられっかよ! なんでひろ兄は平気でいられんだよ!
 だい兄は殺されたんだぞ!!」

 大蔵が乱れた襟元を直し、太く低い声で大和を制した。

「大地は自殺だと、何度言わせるんだ!」

 大和は唇を血が滲むほど噛みしめ、震わせた。

「親父は......大切な息子の命を奪われて、悔しくないのかよ! だい兄は、親父にとって自慢の息子じゃなかったのかよ!!
 ......ック、自分の後継者だって常々みんなに話してたじゃねぇか!!!」

 三男である自分は『いらない子』として放っておかれていたが、長男である大地は羽鳥家の後継者として大切にされ、期待されていると大和は幼い頃から感じていた。そして大地は、両親のそんな期待に常に応えてきた。

 その結果が、これかよ......

 大和は怒りで全身を震わせた。

 大蔵は苦しそうに目を閉じ、それから拳をグッと握り締めた。

「頼むから......何も、するな。大瀧先生の力はお前が思うよりも強大で、わし達にできることは何もない。
 もし事を荒立てれば......わしの政治家としての人生を絶たれてしまう......」

 また、かよ。
 親父も、ひろ兄も......自分の保身ばっかだ。

 大和は、テーブルにあった湯飲みをテーブルに投げつけた。飛沫と共に湯飲みの欠片が大蔵にかかった。

「あんた、それでも親かよ!!!
 息子よりも、自分の立場を守る事の方が大事なのかよ!!!」

 再び掴みかかろうとする大和を、大樹が止めた。

「大和、止めろ!」
「だい兄は、大瀧のじいさんを地検に告訴するつもりだったんだ!
 ひろ兄だって、だい兄が自殺なんかするはずねぇって知ってんだろーが!!」

 大蔵は眼球が飛び出さんばかりに目を見開き、それからハッとして大樹を見つめた。

「余計な事を、話しおって......」

 苦虫を噛み潰した表情で憎々しげに呟くと、大樹を睨みつけた。

 大樹は俯き、肩を震わせた。

「言った、はずだ。だい兄は、自殺だったって......
 親父の言う通り、俺たちに出来る事は何もないんだ。たとえ歯向かったところで、逆にこっちがやられるだけだ!
 ......悔しい、けど......警察に任せるしか、ないんだ......

 頼む、頼むから......どうか、怒りを飲み込んでくれ」

 大樹の必死の懇願に大和は怒りで身を震わせてから唾を吐き、出て行った。

 大和の背中を見つめていた美姫は、悪い夢から覚めたように息を呑んだ。立ち上がり、バツの悪そうなふたりに軽く頭を下げると大和を追いかけた。
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