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依存

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 慌ててTVを消そうとした美姫だったが、リポーターの声に、リモコンを押そうとしていた指が止まった。

『亡くなった羽鳥大地さんの遺書が、大瀧参議院議員の事務所に大瀧氏あてに遺されていました。そこには、大瀧氏の意思とは関係なく自分の判断によってゼネコンへ多額の献金を贈ったことを告白しており、その罪の意識に苛まれて今回の自殺に至ったとのことでした。
 警察では真相を解明すべく......』

 降って湧いた新事実に驚き、固まっていると、美姫の背中から大和の声が落ちてきた。

「っだよ、それ......」

 美姫がハッと現実に戻って振り返ると、大和は階段下のダイニングルームに立ち、全身をわなわなと震わせていた。

「んなわけ、ねぇだろーが!!!」

 ダイニングテーブルに飾ってあった花瓶を手に取り、床に思い切り投げつけた。硝子が砕け散る音が甲高く響き、その破片は広範囲に飛び散った。

 大和はそれでも怒りを収めきれず、ダイニングテーブルを拳で殴りつけた。

「だい兄が......賄賂なんてするわけねー! しかも、自分で勝手にとか......ありえねぇ。
 だい兄は罪をなすりつけられて、自殺に見せかけて殺されたんだ!
 ちくしょぉーーーっっっ!!!」

 ドスッ、ドスッ......と、低く鈍い音が響き続ける。

 何度も何度もダイニングテーブルを拳で殴りつける大和を、美姫は止めなければと思いつつも足を動かすことができなかった。全身が小刻みに震え、全身の血の気が引いていく。

 美姫が礼音に襲われ、彼を気絶させるほど殴りつけた時のことが蘇ってきた。大和の感情が暴走している。

 大和を、止めなきゃ。
 止め、なくちゃ......

 拳から血が滲み、テーブルが血で汚され、殴られた箇所は大きくへこんでいた。

「ウッ、ウッ......お、願......や、まと......ッグ」

 喉から搾り出した震える小さな擦れ声は、大和の耳に届かない。

 止めるんだ、私が。
 大和を、止めるんだ。

 この人の傍にいないと......

 美姫は震える足を一歩一歩動かし、大和の元へと歩み寄った。

 大和の、心が......

 泣いてる。
 叫んでる。
 苦しんでる......

 大和の痛みを、少しでも癒してあげたい。

 美姫は、大和の背中に抱きついた。

「ッグ、ッグ......や、まとが......壊れ、ちゃう......お、願......ウゥッ.......や、めて......ヒック」

 美姫の体温が伝わり、涙が背中を濡らし、大和は上げていた拳を力なく落とした。

「美、姫......」

 振り返った大和は、涙をボロボロと流した。


「ワァーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」


 美姫を強く抱き締める。

「大和。
 大和......」

 美姫もまた大和を強く抱き締め返し、ふたりは長い間抱き合っていた。
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