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喪失
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大地のマンションに着くと、そこには警察の車が3台停まっていた。
不安を抱えながら大地の部屋に着くと、扉が開いていた。警察官や検死官と思われる人たちが歩き回っている。
大和と美姫が視線を彷徨わせると、ソファに座っている大樹の頭が見えた。
「ひろ兄!」
大和が声をかけると、大樹は青ざめた顔で力なく振り返った。そのあまりにもやつれた様子に、続く言葉が見つからずにいると、後ろから警察官に呼び掛けられた。
「来栖大和さんと美姫さんですね」
「はい。
だい......あの、兄は......」
そう尋ねる大和の声が震えている。美姫は大和の手を握った。
「遺体は下ろし、今は寝室に安置しています」
「そう、ですか......」
大和は、グッと拳を握り締めた。決意したように警察官に尋ねる。
「会わせて......もらっても、いいですか」
もう死んでいるとは聞いていたが、まだ大和の中で納得していない気持ちがあった。
「えぇ、大丈夫ですよ。
幸い、発見が早かったため遺体は綺麗な状態ですし」
こういった現場に慣れ、たくさんの酷い死体を見てきた経験上から警察官が『幸い』という言葉を使ったことは分かっているが、どんな状態であれ、大地が死んでしまっているのであれば『幸い』だなんて思えない。
大和は込みあげてくる怒りと悲しみをぐっと胸に押し込め、寝室へと向かった。
警察官が寝室の扉を開けようとすると、その奥から悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「ッグだいちーーーーーーーっっ!!!
...だいち!だいち!ッグゥゥッだいちーーーーーーーーーーーっっ!!!
どう、し.......ウッウッだい、ち......だいちーーーーーっっ!!!」
噎び泣き、大地の名を呼び続ける女の声。
それは、京香のものだった。
京香は大地に縋り付き、泣いていた。髪を振り乱し、一心不乱に息子の名を呼ぶ京香に、それを見つめる美姫も胸が潰れそうだった。
一方大和は、初めて京香の母親らしい一面を見て驚くと同時に、死に直面してようやく母としての愛情を見せたことに憤りも覚えた。大蔵は京香の横に立ち、呆然とそれを見つめていた。
大地の顔には、布は被せられていなかった。
いくら大地を知っているとはいえ、そこに死人が横たわっているのだと思うと美姫は恐ろしい気持ちになった。今まで死体を見たことのない美姫には、大地を直視できる自信がなかった。
「こ、んな......ック。寝てんじゃねぇの、かよ......」
大和が絞り出すように呟いた後、嗚咽を漏らした。
首に赤黒い痣の痕はあったが、死んでいると思えないほど綺麗な死に顔だった。
美姫も、大地をおそるおそる見つめた。
寝室のベッドに寝かされていると、本当に眠っているようだ。
つい、この前会ったというのに。
優しく、微笑んでくれていたのに。
あの笑顔を見られなくなる日が来るなんて、思いもしなかった。
それが、今はもう物言わぬ死体となって横たわっているだなんて。
こんなに突然、この世からいなくなってしまうなんて。
嘘、みたいだった。
自分が夢を見ているのではないかと思うほどに、現実感が伴わなかった。
「だい兄......嘘、だろ......嘘って言ってくれよ!!
ウゥッただ......ただ、眠ってた......だけ、だって......ッグッグ」
大和が美姫に覆いかぶさるようにして、抱きついた。美姫は唇を噛み、大和の背中に腕を回した。
信じられない、こんな......
こんな、こと......
重くのしかかる大和の震える躰が、これが現実なのだと、夢ではないのだと美姫に思い知らせる。美姫の全身が次第に細かく震え、やがて肩を大きく震わせていき、瞳の奥が熱くなり涙が溢れ出した。
信じ、たくない......
大和の背中に回した腕に力を込め、嗚咽を漏らした。
不安を抱えながら大地の部屋に着くと、扉が開いていた。警察官や検死官と思われる人たちが歩き回っている。
大和と美姫が視線を彷徨わせると、ソファに座っている大樹の頭が見えた。
「ひろ兄!」
大和が声をかけると、大樹は青ざめた顔で力なく振り返った。そのあまりにもやつれた様子に、続く言葉が見つからずにいると、後ろから警察官に呼び掛けられた。
「来栖大和さんと美姫さんですね」
「はい。
だい......あの、兄は......」
そう尋ねる大和の声が震えている。美姫は大和の手を握った。
「遺体は下ろし、今は寝室に安置しています」
「そう、ですか......」
大和は、グッと拳を握り締めた。決意したように警察官に尋ねる。
「会わせて......もらっても、いいですか」
もう死んでいるとは聞いていたが、まだ大和の中で納得していない気持ちがあった。
「えぇ、大丈夫ですよ。
幸い、発見が早かったため遺体は綺麗な状態ですし」
こういった現場に慣れ、たくさんの酷い死体を見てきた経験上から警察官が『幸い』という言葉を使ったことは分かっているが、どんな状態であれ、大地が死んでしまっているのであれば『幸い』だなんて思えない。
大和は込みあげてくる怒りと悲しみをぐっと胸に押し込め、寝室へと向かった。
警察官が寝室の扉を開けようとすると、その奥から悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「ッグだいちーーーーーーーっっ!!!
...だいち!だいち!ッグゥゥッだいちーーーーーーーーーーーっっ!!!
どう、し.......ウッウッだい、ち......だいちーーーーーっっ!!!」
噎び泣き、大地の名を呼び続ける女の声。
それは、京香のものだった。
京香は大地に縋り付き、泣いていた。髪を振り乱し、一心不乱に息子の名を呼ぶ京香に、それを見つめる美姫も胸が潰れそうだった。
一方大和は、初めて京香の母親らしい一面を見て驚くと同時に、死に直面してようやく母としての愛情を見せたことに憤りも覚えた。大蔵は京香の横に立ち、呆然とそれを見つめていた。
大地の顔には、布は被せられていなかった。
いくら大地を知っているとはいえ、そこに死人が横たわっているのだと思うと美姫は恐ろしい気持ちになった。今まで死体を見たことのない美姫には、大地を直視できる自信がなかった。
「こ、んな......ック。寝てんじゃねぇの、かよ......」
大和が絞り出すように呟いた後、嗚咽を漏らした。
首に赤黒い痣の痕はあったが、死んでいると思えないほど綺麗な死に顔だった。
美姫も、大地をおそるおそる見つめた。
寝室のベッドに寝かされていると、本当に眠っているようだ。
つい、この前会ったというのに。
優しく、微笑んでくれていたのに。
あの笑顔を見られなくなる日が来るなんて、思いもしなかった。
それが、今はもう物言わぬ死体となって横たわっているだなんて。
こんなに突然、この世からいなくなってしまうなんて。
嘘、みたいだった。
自分が夢を見ているのではないかと思うほどに、現実感が伴わなかった。
「だい兄......嘘、だろ......嘘って言ってくれよ!!
ウゥッただ......ただ、眠ってた......だけ、だって......ッグッグ」
大和が美姫に覆いかぶさるようにして、抱きついた。美姫は唇を噛み、大和の背中に腕を回した。
信じられない、こんな......
こんな、こと......
重くのしかかる大和の震える躰が、これが現実なのだと、夢ではないのだと美姫に思い知らせる。美姫の全身が次第に細かく震え、やがて肩を大きく震わせていき、瞳の奥が熱くなり涙が溢れ出した。
信じ、たくない......
大和の背中に回した腕に力を込め、嗚咽を漏らした。
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