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祈り

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 クリスマスが過ぎ、大学が冬休みに入り、会社も仕事納めを迎えるとようやく大和と美姫はふたりの時間を過ごすことが出来た。

 念願だったふたりきりの時間。年末の買い物をしたり、家でワインを飲みながらゆっくり映画を観たり、一緒に料理をしたりして過ごした。

 大和から聞く仕事の話に、その場に自分がいられなかったことへの寂しさを感じつつも、大和が父を支え、財閥を牽引してくれているのだと思うと嬉しかったし、ありがたかった。

 美姫もまた、大和に今自分が関わっている仕事の話をした。デザイン画を見せたり、これからの構想や夢について語ったり。そうしている時、美姫は自分たちが学生の頃となんら変わらないように思えた。

 大和とは何時間話しても飽きることがないし、疲れない。すごく気楽な関係だし、居心地がよかった。

 けれど、それがふたりが躰を重ねた途端に変わってしまう。

 自分の気持ちを素直に出せず、飲み込んでしまう。大和の自分勝手なセックスのやり方に、つい憤りを覚えてしまう。

 女性の躰は、心と強く密着している。

 たとえ躰に触れられていなくとも、視覚が閉ざされていても......愛されていると感じたり、そういった言葉を囁かれたり、ただ想像するだけで心が気持ちいいと感じ、それが躰を反応させ、快感へと導く。

 逆に、性感帯に触れられていても心が気持ちいいと感じなければ、快感を感じることは出来ない。

 花開いた花弁が、一枚、また一枚と散っていくかのようだった。

 正月休みが明けると、またいつもの多忙な日常へと呑み込まれていった。

 4月のプレゼンテーションに向け、美姫は大学と会社を往復する生活を送り、家に帰るのは寝るためだけになっていた。

 今まではたとえ美姫が後から帰ってきても大和は美姫のベッドで寝ていたのに、大和はいつの間にか自分のベッドで寝るようになった。そして、美姫が先に寝ている時も部屋に入ることはせず、自分の部屋で眠る。お互い帰ってくる時間も寝る時間もバラバラだし、その方が睡眠をとるためにはいいのだと分かっているが、寂しくもあった。

 けれど、ふたり一緒に夜を過ごせるような時には同じベッドで寝ているし、自分の考えすぎなのだと思うようにした。

 美姫は、どんどんふたりの距離が離れていくような気がして恐かった。

 大和と良好な夫婦関係を築きたいと思っているのに、顔を合わせる時間さえなく、せめて夜寝る時に躰を寄せ合って寝たいという願いさえ口に出来ない。

 昔はもっと明るくて素直で、口に出して言える性格だったはずなのに.....どうして、こんな風になってしまったんだろう。

 こんなことならファッションブランドのチーフを引き受けなければよかった、とさえ考えてしまう。

 美姫の心が落ち着かない原因は、他にもあった。

 秀一の消息が、未だ不明なのだ。

 世界ツアーの話はいつの間にか立ち消えとなり、当初は秀一に何かあったのではと心配していたマスコミやファン達もだんだんと話題にしなくなっていた。

 秀一さん、どこにいるの?
 どうか、無事でいて......

 美姫の心は、重く沈んだ。
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