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白い嘘

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「薫子、詩織のあれ、見せてやろう」

 悠にそう言われ、薫子はハッとして表情を戻した。

「うん」

 気を取り直して微笑み、詩織を悠から受け取ると畳の上に仰向けに寝かせた。

「なぁ、あれってなんだよ?」
「まぁ、見てて」

 悠に諭され、美姫と大和は黙って詩織を見つめた。詩織は片手を拳ごと口に咥え、足をバタバタ盛んに動かしながら、「あー」、「うー」と唸っていた。

「しーちゃん、ほらやってごらん」

 悠の呼びかけで、詩織が腰と足を捻った。うつ伏せになって躰を起こそうとするものの、寝返りした向きの手が上半身の下敷きになってしまい、上手く抜けない。

「ヴーっ!」、「ヴーっ!」と詩織がイライラしたように奇声を発しながら、なんとか抜け出そうと何度も試みる。

「しーちゃん、頑張れ!」
「しーちゃん、あと少し!」
「ほら、いけいけ!」
「しーちゃん、いい感じ!」

 美姫もいつの間にか二人につられて『しーちゃん』と呼び、みんなの心がひとつになって詩織を見守る。

 ようやく手を引き抜く事が出来た詩織はうつ伏せの状態から両手を畳について力強く押し、顔をグイと持ち上げた。なんとなくその表情は、得意げに見えた。

「やったー!すごーい、しーちゃん!」
「感動したけど、なんか詩織ドヤ顔だぞ。赤ん坊でもドヤ顔とかするんだな、ハハッ」

 美姫と大和が笑顔を見せた。悠と薫子は誇らしげに我が子を見つめる。みんなで詩織に抱きつき、その頑張りを讃えた。
 
 美姫は詩織を胸に抱き、頬を寄せた。

「あぁ可愛いー、やわらかーい! 連れて帰りたーい!!」

 大和も詩織の顔を覗き込み、ちょんと頬をつついた。

「っと、赤ん坊って見てるだけで和むな」

 薫子は笑顔で答えた。

「子育てで大変なことはいっぱいあるけど、しーちゃんの顔見たり、毎日成長してるのを感じるとすごく幸せを感じるよ。ね、悠?」
「あぁ、子供ってこんなに可愛いものなんだなって感じてる。愛する人との子供なら、なおさらってことも」

 悠が、薫子の手を握り締めた。手を握られた薫子は、恥じらいながらも嬉しそうに悠の手を握り返した。

 そこには揺るぎない愛があった。目には見えなくても、確かにそこにあると感じる。

「美姫たちは、赤ちゃんは?」

 薫子に突然そんな話を振られ、美姫は動揺した。

「わ、私たちは......」

 そんな行為すら、最近ないのに......

 すると大和が、美姫の頭をポンと撫でた。

「何言ってんだよ、俺たち大学生なんだから子供はまだまだ先の話だって。
 だよな、美姫?」

 まるでその言い方には、セックスはしてるけど、子供はまだ考えていないから避妊しているのだと思わせるようなニュアンスを含んでいた。

「う、うん......そう、だね」

 美姫は、口角を意識的に上げて笑みを見せた。
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