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忘れえぬ快楽の蜜

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 美姫がシーツに潜り込むと、大和は美姫を抱き寄せる。

「美姫......いいか?」

 いつも愛を交わす前に必ず大和は、そう美姫に確認する。まるで、拒否されることを恐れているかのように。

 そんな大和に、美姫もまた毎回同じように安心させるような笑みで頷く。

「うん......」

 大和が安心したように息を吐き、ふたりは唇を重ね合う。ゆっくりと舌を絡ませ合いながら口づけを交わした後、胸の先端を弄りながらやがてもう一方の蕾を下りてきた大和の舌が這う。

「ッハァ......」
「ンッ......」

 低く漏れる息遣いと、時折零れ落ちる短い呻き声、シーツの衣擦れの音が静かな部屋に小々波を起こす。

 大和は、行為の最中に話すことは滅多になくなった。元々そういった言葉を口に出すのが苦手だということは知っていたし、それが大和なのだから理解しなければ、という気持ちもあった。もちろん、辱めるような言葉など、大和の口から漏れることは一度としてない。
 
 そ、こ......触れて欲しいのに。

 大和の下ろされた指が手前で止まり、美姫は失望に胸を痛めた。

 大和が泥酔したあの日以来、大和は指で秘部を触れることはなかった。本当は、克服したからもう大丈夫だと言いたかったが、美姫はそれを口に出すことを恐れて言えずにいた。

 大和との行為は相変わらずだった。優しい愛撫から始まり、彼のタイミングで挿入され、そこからはラストスパートまで一気に駆け抜ける。

「ハッハッハッ......ぁ、も......いき、そうだ」

 激しく強く揺さぶられ、美姫の華奢な躰はまるで人形のように上下に動かされる。

「ッハッハッハ......」

 く、るし......

 大和との行為において、花芽を刺激されて絶頂に達すことはあっても、中で達することはなかった。外で達しても、殆ど一度きり。始まりと終りの繋ぎ目が分からないほどに次々に押し寄せる絶頂状態など、ありえなかった。

 仕事で疲れている時などは愛撫がおざなりになり、十分濡れていないのに入れられることもあった。そういう時は大和自身も自覚があるらしく「ごめん......」と言われてしまうと、美姫は笑顔で応えるしかなかった。そんな行為では、絶頂に達するどころか、気持ち良さを感じる前に終わってしまうこともある。

「ウッ......」

 大和は短く呻いた後、躰をブルブルっと震わせた。

 絶頂に達してからしばらくそのまま抱き合うことなどない。大和はすぐに躰を起こし、すっきりした顔で避妊具を外してティッシュで拭き取ると、ゴミ箱に捨てた。

「おやすみ」
「おやすみ、大和」

 美姫に口づけをすると、満足したように大和は眠りについた。美姫は虚しさを感じながらぐっすり眠る大和の寝顔を見つめ、小さく息を吐くのだった。

 セックスだけが全てじゃない。私と大和は、それ以外は上手くいってるわけだし、大和は私を大切にし、愛してくれている。

 私も大和を愛してる。

 だから、私は大和にこれ以上を求めちゃいけない。
 これが、私たち夫婦の形なんだ。

 そうして、セックスじゃない部分をどんどん高めて、精神的な繋がりがもっともっと深くなっていけば、愛されている幸せを感じることによって躰も満足するはず。

 美姫は、そう自分に言い聞かせ続けた。
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