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変わらぬ思い

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 遼に連れてこられたのは、この大学内で一番高い塔だった。塔はアメリカの大統領の一人の名前に因んで、名付けられたとのことだった。

 入館料が2ドルかかるのだが、遼が大学関係者のIDを持っているため、無料で入場することができた。

「俺様のお陰でタダで入れたんだから、感謝しろよ」
「いや、2ドルで恩売られたくねぇよ。なんなら払うし」

 遼と大和のやりとりを聞いていると、つい笑ってしまう。

 高さ87メートルの最上階の展望デッキからは大学のキャンパスだけでなく、シリコンバレーも一望できた。

 遼は大きく伸びをした。

「はー、やっぱ気持ちいいなー!
 ......あ、今『バカと何とかは高いとこが好き』っていうしな、って思っただろ」
「別に、思ってねーよ。それに、『馬鹿と煙は高いところへ上る』だろ?」
「え? そうなのか?
 まぁ、それだ......」

 フフッと笑った後、美姫も眼下に広がる景色を眺めた。本当にこの敷地面積全体が大学なんて、信じられない広さだ。

「じゃ、取り敢えずキャンパスツアーはこれで終わりな。俺ん家招待してやるよ」

 案内されたのは、大学寮だった。

「俺が住んでるこの寮には300人ぐらい住んでんだけど、うちの大学寮の中では比較的小さい方なんだってさ」

 建物の入口の前には、たくさんのマウンテンバイクが停めてあった。構内が広いので、自転車は必須なのだ。

 食堂はバイキング形式となっていた。大和は興味深そうに覗いていたが、既に昼食を食べたので寄ることはしなかった。食事をせずに本を並べて勉強をしていたり、友達と集まって喋っている学生もいた。

 共同スペースであるラウンジではソファ、机、テレビなどの他にビリヤード台、卓球台、ビデオゲームなどが置いてある。3人がそこを通った時にはパソコンをテレビに繋いで、実験した動画を数人で見ているところだった。

「んで、ここが俺の部屋な」

 誇らしげに遼が扉を開ける。

「うわ、汚ねっ!」

 大和が思わず叫んだ。

 6m×5m程の長方形の部屋には、勉強机、小さな箪笥が下についた高さのあるベッドが両側の壁に鏡のように線対称に置かれていた。どちらの机の上にもパソコンや本、ペットボトルやお菓子等が散乱しており、ベッドの上や箪笥の周りには衣類が散乱している。その間の通路と呼ぶべきところにも、ゴミなのか何なのかよく分からないものが散らばっている。

 美姫はその汚さにも驚いたが、何よりもこの狭いスペースを2人で共有しているということに驚愕した。美姫もN大の時は寮にいたが、これよりも倍以上広く、一人部屋だった。

「まぁ、座れよ」

 そう言われても座れるスペースなどどこにも見つけられず、美姫は困惑した。遼はそんな美姫の様子を気にするでもなく、ベッドに置いてあった衣類をグチャッと片隅に寄せると、そこに座らせた。

 このシーツ......洗ってるのかな。

 そんな不安が頭を過る。

「まぁ狭いし、プライベートもねぇけど、ここが俺の城だ。
 俺が自分で決めてここに来るって言ったんだから、文句も言えねぇしな」

 どんな状況であっても決して弱音を吐かず、自分に責任を持って生きていることが遼の発言から窺えた。それに、そんな生活をポジティブに受け止め、楽しんでいることも。
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