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豹変

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 機内に入ると、大和が緊張が解けたような緩やかな笑みを見せた。村田は安心したように息を吐き、横山は嬉しそうに手を振っている。

 美姫は3人に向かって、丁寧に頭を下げた。

「皆さん、ご心配をお掛けして本当に申し訳ありませんでした」

 大和が、心配そうに声を掛ける。

「もう体調は大丈夫なのか?」
「うん。昨日お医者様に診てもらって、フライトも問題ないって言われたから」
「そっか、よかった......」

 横に座っていた横山が、大和の肘をつついた。

「よかったですね! 来栖取締役、美姫さんのことをずーっと心配されてましたもんね。
 電話したいけど、喉を使わせたら悪いから電話はダメだよなーとか。今の時間にLINEして起こしたら悪いかな?とか。
 ほんっと、奥さんのこと好きですよね」
「よ、横山さんっ!!」

 横山にからかわれ、大和は焦ったように声を上擦らせた。

 仕事で忙しい為に電話出来ず、あまりLINEもしなかったのだろうと思っていた美姫は、横山の言葉に目を丸くした。

 大和、私に気を遣ってくれてたんだ......

 仕事だから仕方ないとは思っていても、やはり寂しい気持ちがあったので、今こうして大和の本心を知る事が出来、美姫は嬉しくなった。

「では、寂しがりやの取締役のお守りはお任せします」

 横山が立ち上がり、美姫に席を譲る。

 罰が悪そうに自分を見つめる大和に、美姫は花が綻んだかのような笑顔を向けた。

「ただいま。迎えに来てくれて、ありがとう」

 大和は微笑んで頷いた。

「あぁ、お帰り」

 ドイツ最大の空港であり、世界でも極めて重要な航空交通のハブに数えられるフランクフルト空港に着いたのは、午後2時だった。シンガポールよりは距離が短いとはいえ、ソウルから11時間40分のフライトは美姫にとって長かった。

 フランクフルトは正式名称をフランクフルト・アム・マイン (Frankfurt am Main) と言う。因みに「am Main」とは、「マイン川沿いの」という意味で、マイン川に沿っている他の市にもついている。

 フランクフルトは国内ではベルリン、ハンブルク、ミュンヘン、ケルンに次いで5番目に大きく、ヨーロッパでもっとも人気の高いコスモポリタンな都市といわれる。 同時に、ドイツにおける最重要都市の1つと位置づけられており、国際金融、工業や産業の中心でもあり、「ヨーロッパの金融センター」とも呼ばれている。

 世界中にある来栖財閥の海外支社の中でも、このフランクフルト支社が最も古く、最も大きい。そういったことから、誠一郎と凛子は海外出張の際にはフランクフルトを訪れる事が多かった。以前に美姫と秀一がウィーンを旅行した時にも、二人はフランクフルトで商談があり、そこから合流したのだった。

 美姫の風邪が完治するか分かる前にフランクフルト行きを決めたのは、ここでの挨拶回りや会合が重要であったからに他ならない。
 
 フランクフルト国際空港では、仕事で来られなかった支社長に代わり、副支社長と運転手が迎えに来ていた。

 副支社長は背が高く恰幅のいい茶髪碧眼の男性で、陽気な笑顔を向けている。美姫は人懐こそうな彼の雰囲気に微笑み、挨拶した。

「Ich freue mich, Sie kennen zu lernen.(初めまして)」
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