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修復できない関係

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 ホテルにチェックインすると、すぐにベッドに寝かされた。村田からもらった冷えピタを大和が美姫のおでこに貼っていると、美姫が潤んだ瞳で力なく声をあげた。

「ごめんね。会食の時間まで寝かせて......」
「何言ってんだ。今日はもうゆっくり休んどけ。
 これからまだ長いんだから、無理して風邪こじらせたら大変だろ」

 今日はSANSUN社長との、大事な会食なのに......

 そうは思うものの、今後のスケジュールに差し障りがあったらそれこそ大変だ。大和の言うことを素直に聞くしかなかった。

「ごめんね、大和......」

 美姫は謝ると、力尽きたように眠りに落ちた。

 大和は苦しげに呼吸しながら眠る美姫を見て、唇をきつく噛み締めた。

 謝んなきゃいけねぇのは、俺の方だ......
 結婚式の疲れが一気に出たのもあるが、美姫はきっと昨日のことが原因でまともに寝られなかったんだ。

 俺のそっけない態度に、美姫が傷ついていたのは分かってた。それなのに、プライドが邪魔して何も言えなかった。

 美姫が来栖秀一を忘れられないことは分かっていて、受け入れることを決めたはずだったのに。
 いざとなってあいつの影を感じた途端、嫉妬しちまうなんて......

 理解ある大人になろうと努力したが、まだまだ自分が未熟であることを思い知らされた。

 本当は、あの日だって......美姫が来栖秀一の演奏を聴いた日だって、俺はショックを受け、焦っていたんだ。

『ごめ......やま、と......どうしても、今日だけは......大和に、顔......合わせられない』

 美姫にそう言われて、すげぇパニックになってた。でも、そんなかっこ悪い自分を見せたくなくて、わざと大人ぶって許容したふりをした。

 あんなの、嘘だった。

 本当は、今すぐにでも美姫に帰ってきて欲しかった。あいつのことを思って泣いても叫んでもいいから、俺の元から離れないように抱き締めていたかった。

 もし美姫が、来栖秀一に心がまた傾いたらどうしよう、とか。
 もしかしたら、そう言って会いに行くつもりじゃないのか、とか。
 もう俺の元には帰ってこないんじゃないかって......

 そんな女々しいことばっか頭に浮かんで、不安なまま一夜を過ごしてた。『必ず、戻ってくるから......』って言った美姫の言葉を、信じきれずにいた。

 次の日に美姫が帰ってきた時は、心から嬉しかった。気持ちが吹っ切れた、迷いがなくなったと言ってくれた美姫は胸のつかえが取れたかのようにすっきりしていた。これでもう、来栖秀一の影に悩まされなくてすむんだとホッとした。

 事実、美姫との距離が近づいてきて、あいつからの愛情を感じるようになってた。そして、結婚式を通じて本物の夫婦になれた気がしてたのに。

 分かってる。
 美姫が変化したのは、彼女自身のせいじゃない。単なる、俺の嫉妬だ。

 来栖秀一に負けたくない、あいつを乗り越えたいという競争心から、俺は美姫に対してそっけない態度をとってしまい、彼女を傷つけてしまったんだ。
 美姫は、何も悪くねぇのに......

 大和は美姫の頬を撫で、黒い髪を指でサラッと梳いた。
 
 美姫との関係を、修復したい。
 俺たちはお互い向き合い、見つめ合っている。

 大丈夫だ、俺たちの関係はうまくいく。
 
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