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見えない真意
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大和の両親への花束と記念品贈呈はあっという間に終わっていたため、美姫側を待つことになった。
美姫が贈呈を終えると両家両親の間に立ち、6人一列で横並びの形となる。
続いては新郎の父親からの謝辞となるが、大和は現在来栖家の養子であり、誠一郎もまた父親であることから、大蔵と誠一郎、両人が謝辞を述べることになった。
まずは、大蔵である。大量の酒を飲んだせいで頬が赤く、目がとろんとしている。
大蔵はいつも以上にしゃがれた声で、張り上げた。
「えぇー、皆様。本日はご多様中の折り、またご遠方より、新郎新婦のためにご臨席をいただきまして、まことにありがとうございました。また、ご来賓の皆様方から心温まるお言葉を多数いただきまして、心よりお礼申し上げます。
私ごとではありますが、衆議院議院という仕事の関係上、息子が小さいころよりほとんど家におらず、父親らしい事もなかなかしてやれずにおりました。ですが、父親の背中を見て育つというのでしょうか。私が議院として働く姿を見て、息子もそんな私の姿に尊敬の念を抱き、立派に育ってくれました。そもそも、私が政治家を志しましたのは......」
ここから大蔵の選挙演説が始まり、会場にいる招待客が辟易したのは言うまでもない。
親父......いい加減にしろよ。
大和は苛々した気持ちを抑え、じっと俯き、耐えた。
大蔵からマイクを受け取った誠一郎が、会場に向かって頭を下げる。
「新婦美姫の父、そして新郎の養父となった来栖誠一郎と申します。本日は盆の初日というご多用な中にもかかわらず、このように多くの皆さまにご臨席を賜り、深くお礼を申し上げます。
また、媒酌の労をおとりいただいた大瀧ご夫妻にも厚く御礼申し上げます」
大瀧夫妻に向かってお辞儀する誠一郎と凛子に、夫妻も満足したように笑みを浮かべて軽くお辞儀を返した。それを見て、礼の言葉を述べるのを忘れていた大蔵が気まずそうな表情を一瞬浮かべた後、これは自身の言葉でもあるというように遅れて頭を下げた。
「美姫が幼い頃から仕事で国内外を妻と共に回って殆ど家におらず、楽しみにしていた行事を仕事の都合で突然キャンセルしたりと仕事中心の生活をしていた私は、彼女にとっていい父親とはいえませんでした。
娘の美姫がここまで育ち、このよき日を迎えられたのは、本日お集まり頂きましたご友人、ご来賓の皆様の支えがあったからこそです。
本、当に......ッグありがとう、ございます」
感極まった誠一郎の目尻から涙が流れ、マイクを支えていた凛子のもう片方の手がハンカチで拭い取る。美姫がハンカチで目尻を押さえ、会場からも啜り泣きが漏れた。
「初めて大和くんに会った時、私は彼に一目惚れしました」
その一言で会場の雰囲気がにわかに和む。大和が照れたように、笑みを浮かべた。
「彼の気さくで、誠実で、真面目な人柄に惚れ、大和くんが美姫と結婚し、婿養子になり、来栖財閥を継いでくれたら......と、密かに願うようになりました。
いえ、実は娘にプレッシャーをかけておりました」
会場が笑いに包まれ、美姫も手に口を当てて笑った。
「その夢がまさに今日、叶いました。
大和くん、本当にありがとう」
誠一郎が大和に手を差し伸べ、ふたりは固い握手を交わした。
皆、拍手で温かく祝福した。
「しかしながら、この二人はまだ若いもの同士でございます。新しい家庭を築いて行くうえで、幾多の困難に直面することもあると存じます。そのような時はどうか、皆様方のあたたかいご指導ご鞭撻を賜りますよう、何卒お願い申し上げます。
結びに、本日ご列席頂きました皆様方のご健康とご多幸を祈念し、御礼の言葉と代えさせて頂きます。本日は誠にありがとうございました」
先程よりも一層大きな拍手に迎えられ、両家の両親は深く頭を下げた。
美姫が贈呈を終えると両家両親の間に立ち、6人一列で横並びの形となる。
続いては新郎の父親からの謝辞となるが、大和は現在来栖家の養子であり、誠一郎もまた父親であることから、大蔵と誠一郎、両人が謝辞を述べることになった。
まずは、大蔵である。大量の酒を飲んだせいで頬が赤く、目がとろんとしている。
大蔵はいつも以上にしゃがれた声で、張り上げた。
「えぇー、皆様。本日はご多様中の折り、またご遠方より、新郎新婦のためにご臨席をいただきまして、まことにありがとうございました。また、ご来賓の皆様方から心温まるお言葉を多数いただきまして、心よりお礼申し上げます。
私ごとではありますが、衆議院議院という仕事の関係上、息子が小さいころよりほとんど家におらず、父親らしい事もなかなかしてやれずにおりました。ですが、父親の背中を見て育つというのでしょうか。私が議院として働く姿を見て、息子もそんな私の姿に尊敬の念を抱き、立派に育ってくれました。そもそも、私が政治家を志しましたのは......」
ここから大蔵の選挙演説が始まり、会場にいる招待客が辟易したのは言うまでもない。
親父......いい加減にしろよ。
大和は苛々した気持ちを抑え、じっと俯き、耐えた。
大蔵からマイクを受け取った誠一郎が、会場に向かって頭を下げる。
「新婦美姫の父、そして新郎の養父となった来栖誠一郎と申します。本日は盆の初日というご多用な中にもかかわらず、このように多くの皆さまにご臨席を賜り、深くお礼を申し上げます。
また、媒酌の労をおとりいただいた大瀧ご夫妻にも厚く御礼申し上げます」
大瀧夫妻に向かってお辞儀する誠一郎と凛子に、夫妻も満足したように笑みを浮かべて軽くお辞儀を返した。それを見て、礼の言葉を述べるのを忘れていた大蔵が気まずそうな表情を一瞬浮かべた後、これは自身の言葉でもあるというように遅れて頭を下げた。
「美姫が幼い頃から仕事で国内外を妻と共に回って殆ど家におらず、楽しみにしていた行事を仕事の都合で突然キャンセルしたりと仕事中心の生活をしていた私は、彼女にとっていい父親とはいえませんでした。
娘の美姫がここまで育ち、このよき日を迎えられたのは、本日お集まり頂きましたご友人、ご来賓の皆様の支えがあったからこそです。
本、当に......ッグありがとう、ございます」
感極まった誠一郎の目尻から涙が流れ、マイクを支えていた凛子のもう片方の手がハンカチで拭い取る。美姫がハンカチで目尻を押さえ、会場からも啜り泣きが漏れた。
「初めて大和くんに会った時、私は彼に一目惚れしました」
その一言で会場の雰囲気がにわかに和む。大和が照れたように、笑みを浮かべた。
「彼の気さくで、誠実で、真面目な人柄に惚れ、大和くんが美姫と結婚し、婿養子になり、来栖財閥を継いでくれたら......と、密かに願うようになりました。
いえ、実は娘にプレッシャーをかけておりました」
会場が笑いに包まれ、美姫も手に口を当てて笑った。
「その夢がまさに今日、叶いました。
大和くん、本当にありがとう」
誠一郎が大和に手を差し伸べ、ふたりは固い握手を交わした。
皆、拍手で温かく祝福した。
「しかしながら、この二人はまだ若いもの同士でございます。新しい家庭を築いて行くうえで、幾多の困難に直面することもあると存じます。そのような時はどうか、皆様方のあたたかいご指導ご鞭撻を賜りますよう、何卒お願い申し上げます。
結びに、本日ご列席頂きました皆様方のご健康とご多幸を祈念し、御礼の言葉と代えさせて頂きます。本日は誠にありがとうございました」
先程よりも一層大きな拍手に迎えられ、両家の両親は深く頭を下げた。
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