648 / 1,014
奪われた幸せ ー久美sideー
9
しおりを挟む
標準語で聞かれ、心からホッとして大きく息を吐いた。
日本語が通じる人がいて、よかった。
正直、とても同じ日本語とは思えないぐらい、鹿児島弁は何を言ってるのか分からない。
「初めまして。私、藤堂礼音さんと同じN大で仲良くさせてもらっていた友人の藤井久美です。
直接実家にお伺いするのはご迷惑かとは思ったのですが、礼音さんのことが心配で堪らず訪ねてきました」
女の人の美しい眉が、僅かに顰められた。
「そう、なんですね......わざわざ遠いところからこんな田舎まで訪ねて下さり、ありがとうございます。
私、礼音の母です」
もしかしてとは思っていたけど、やっぱり彼女は礼音のお母さんだった。そこでようやく、さっきおばさんが言っていた「おっさん」とは、「奥さん」の意味なのだと理解した。
よく見れば、整った眉の形とか鼻の稜線とか結んだ唇とか礼音と似ている。いや、父親側からの遺伝子を全く感じない。礼音は間違いなく、お母さん似だ。
礼音のお母さんは、心苦しそうに言った。
「申し訳ないんですけど......礼音は今、とても人に会えるような状況じゃありませんの」
私は前のめりになりながら、お母さんに迫った。
「知ってます! 大丈夫です! 礼音さんに会わせて下さい!
どうか、お願いします!!」
「でも......」
押し売りのセールスマンのように、何度お母さんに断られても私は熱心に頼み込んだ。
お母さんは私の情熱的な態度に驚き、困惑していた。
礼音に会わずに帰るなんて、絶対に出来ない。会って、礼音を東京に連れ戻す為に私はここに来たんだから。
やがてお母さんは根負けしたように、短く息を吐いた。
「......分かり、ました。せっかく東京から来て頂いたんですし、案内致します。
どうぞ、こちらへ」
長い木の廊下を、えんえんと歩いて行く。
昔ながらの平屋造りのこの家は、とても広い。実際は3階建のお家とかと比べると同じ面積なのかもしれないけど、それが全て一階に収まっているのだから、より広く感じる。
玄関だけでなく、長い廊下に面した縁側に沿って大きな木枠が嵌め込まれた幾つものガラス窓が外へと繋がっている。その為、室内と外の隔たりがあまりなく、開放感がある。また、一般の家屋では考えられないほど天井が高いので、圧迫感を感じることがない。実際に広いんだけど、そんなこともこの家を更に広く感じさせる理由なのだろうと思った。
角を曲がると、そこでお母さんが立ち止まる。その扉はガラス窓ではなく、障子になっていた。
「礼音、お友達がわざわざ東京から会いに来てくれましたよ」
静かに声を掛けてから、私に目で合図をする。私はお母さんにお辞儀をし、襖に手を掛けた。
その時、玄関から呼びかける声が聞こえてきた。お母さんは「失礼します......」 と頭を下げ、背を向けて去っていった。
それを見送り、襖を静かに開けた。
「礼音......私。久美だよ。
礼音を迎えに来たよ」
日本語が通じる人がいて、よかった。
正直、とても同じ日本語とは思えないぐらい、鹿児島弁は何を言ってるのか分からない。
「初めまして。私、藤堂礼音さんと同じN大で仲良くさせてもらっていた友人の藤井久美です。
直接実家にお伺いするのはご迷惑かとは思ったのですが、礼音さんのことが心配で堪らず訪ねてきました」
女の人の美しい眉が、僅かに顰められた。
「そう、なんですね......わざわざ遠いところからこんな田舎まで訪ねて下さり、ありがとうございます。
私、礼音の母です」
もしかしてとは思っていたけど、やっぱり彼女は礼音のお母さんだった。そこでようやく、さっきおばさんが言っていた「おっさん」とは、「奥さん」の意味なのだと理解した。
よく見れば、整った眉の形とか鼻の稜線とか結んだ唇とか礼音と似ている。いや、父親側からの遺伝子を全く感じない。礼音は間違いなく、お母さん似だ。
礼音のお母さんは、心苦しそうに言った。
「申し訳ないんですけど......礼音は今、とても人に会えるような状況じゃありませんの」
私は前のめりになりながら、お母さんに迫った。
「知ってます! 大丈夫です! 礼音さんに会わせて下さい!
どうか、お願いします!!」
「でも......」
押し売りのセールスマンのように、何度お母さんに断られても私は熱心に頼み込んだ。
お母さんは私の情熱的な態度に驚き、困惑していた。
礼音に会わずに帰るなんて、絶対に出来ない。会って、礼音を東京に連れ戻す為に私はここに来たんだから。
やがてお母さんは根負けしたように、短く息を吐いた。
「......分かり、ました。せっかく東京から来て頂いたんですし、案内致します。
どうぞ、こちらへ」
長い木の廊下を、えんえんと歩いて行く。
昔ながらの平屋造りのこの家は、とても広い。実際は3階建のお家とかと比べると同じ面積なのかもしれないけど、それが全て一階に収まっているのだから、より広く感じる。
玄関だけでなく、長い廊下に面した縁側に沿って大きな木枠が嵌め込まれた幾つものガラス窓が外へと繋がっている。その為、室内と外の隔たりがあまりなく、開放感がある。また、一般の家屋では考えられないほど天井が高いので、圧迫感を感じることがない。実際に広いんだけど、そんなこともこの家を更に広く感じさせる理由なのだろうと思った。
角を曲がると、そこでお母さんが立ち止まる。その扉はガラス窓ではなく、障子になっていた。
「礼音、お友達がわざわざ東京から会いに来てくれましたよ」
静かに声を掛けてから、私に目で合図をする。私はお母さんにお辞儀をし、襖に手を掛けた。
その時、玄関から呼びかける声が聞こえてきた。お母さんは「失礼します......」 と頭を下げ、背を向けて去っていった。
それを見送り、襖を静かに開けた。
「礼音......私。久美だよ。
礼音を迎えに来たよ」
0
お気に入りに追加
345
あなたにおすすめの小説


義妹のミルク
笹椰かな
恋愛
※男性向けの内容です。女性が読むと不快になる可能性がありますのでご注意ください。
母乳フェチの男が義妹のミルクを飲むだけの話。
普段から母乳が出て、さらには性的に興奮すると母乳を噴き出す女の子がヒロインです。
本番はありません。両片想い設定です。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる