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奪われた幸せ ー久美sideー
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標準語で聞かれ、心からホッとして大きく息を吐いた。
日本語が通じる人がいて、よかった。
正直、とても同じ日本語とは思えないぐらい、鹿児島弁は何を言ってるのか分からない。
「初めまして。私、藤堂礼音さんと同じN大で仲良くさせてもらっていた友人の藤井久美です。
直接実家にお伺いするのはご迷惑かとは思ったのですが、礼音さんのことが心配で堪らず訪ねてきました」
女の人の美しい眉が、僅かに顰められた。
「そう、なんですね......わざわざ遠いところからこんな田舎まで訪ねて下さり、ありがとうございます。
私、礼音の母です」
もしかしてとは思っていたけど、やっぱり彼女は礼音のお母さんだった。そこでようやく、さっきおばさんが言っていた「おっさん」とは、「奥さん」の意味なのだと理解した。
よく見れば、整った眉の形とか鼻の稜線とか結んだ唇とか礼音と似ている。いや、父親側からの遺伝子を全く感じない。礼音は間違いなく、お母さん似だ。
礼音のお母さんは、心苦しそうに言った。
「申し訳ないんですけど......礼音は今、とても人に会えるような状況じゃありませんの」
私は前のめりになりながら、お母さんに迫った。
「知ってます! 大丈夫です! 礼音さんに会わせて下さい!
どうか、お願いします!!」
「でも......」
押し売りのセールスマンのように、何度お母さんに断られても私は熱心に頼み込んだ。
お母さんは私の情熱的な態度に驚き、困惑していた。
礼音に会わずに帰るなんて、絶対に出来ない。会って、礼音を東京に連れ戻す為に私はここに来たんだから。
やがてお母さんは根負けしたように、短く息を吐いた。
「......分かり、ました。せっかく東京から来て頂いたんですし、案内致します。
どうぞ、こちらへ」
長い木の廊下を、えんえんと歩いて行く。
昔ながらの平屋造りのこの家は、とても広い。実際は3階建のお家とかと比べると同じ面積なのかもしれないけど、それが全て一階に収まっているのだから、より広く感じる。
玄関だけでなく、長い廊下に面した縁側に沿って大きな木枠が嵌め込まれた幾つものガラス窓が外へと繋がっている。その為、室内と外の隔たりがあまりなく、開放感がある。また、一般の家屋では考えられないほど天井が高いので、圧迫感を感じることがない。実際に広いんだけど、そんなこともこの家を更に広く感じさせる理由なのだろうと思った。
角を曲がると、そこでお母さんが立ち止まる。その扉はガラス窓ではなく、障子になっていた。
「礼音、お友達がわざわざ東京から会いに来てくれましたよ」
静かに声を掛けてから、私に目で合図をする。私はお母さんにお辞儀をし、襖に手を掛けた。
その時、玄関から呼びかける声が聞こえてきた。お母さんは「失礼します......」 と頭を下げ、背を向けて去っていった。
それを見送り、襖を静かに開けた。
「礼音......私。久美だよ。
礼音を迎えに来たよ」
日本語が通じる人がいて、よかった。
正直、とても同じ日本語とは思えないぐらい、鹿児島弁は何を言ってるのか分からない。
「初めまして。私、藤堂礼音さんと同じN大で仲良くさせてもらっていた友人の藤井久美です。
直接実家にお伺いするのはご迷惑かとは思ったのですが、礼音さんのことが心配で堪らず訪ねてきました」
女の人の美しい眉が、僅かに顰められた。
「そう、なんですね......わざわざ遠いところからこんな田舎まで訪ねて下さり、ありがとうございます。
私、礼音の母です」
もしかしてとは思っていたけど、やっぱり彼女は礼音のお母さんだった。そこでようやく、さっきおばさんが言っていた「おっさん」とは、「奥さん」の意味なのだと理解した。
よく見れば、整った眉の形とか鼻の稜線とか結んだ唇とか礼音と似ている。いや、父親側からの遺伝子を全く感じない。礼音は間違いなく、お母さん似だ。
礼音のお母さんは、心苦しそうに言った。
「申し訳ないんですけど......礼音は今、とても人に会えるような状況じゃありませんの」
私は前のめりになりながら、お母さんに迫った。
「知ってます! 大丈夫です! 礼音さんに会わせて下さい!
どうか、お願いします!!」
「でも......」
押し売りのセールスマンのように、何度お母さんに断られても私は熱心に頼み込んだ。
お母さんは私の情熱的な態度に驚き、困惑していた。
礼音に会わずに帰るなんて、絶対に出来ない。会って、礼音を東京に連れ戻す為に私はここに来たんだから。
やがてお母さんは根負けしたように、短く息を吐いた。
「......分かり、ました。せっかく東京から来て頂いたんですし、案内致します。
どうぞ、こちらへ」
長い木の廊下を、えんえんと歩いて行く。
昔ながらの平屋造りのこの家は、とても広い。実際は3階建のお家とかと比べると同じ面積なのかもしれないけど、それが全て一階に収まっているのだから、より広く感じる。
玄関だけでなく、長い廊下に面した縁側に沿って大きな木枠が嵌め込まれた幾つものガラス窓が外へと繋がっている。その為、室内と外の隔たりがあまりなく、開放感がある。また、一般の家屋では考えられないほど天井が高いので、圧迫感を感じることがない。実際に広いんだけど、そんなこともこの家を更に広く感じさせる理由なのだろうと思った。
角を曲がると、そこでお母さんが立ち止まる。その扉はガラス窓ではなく、障子になっていた。
「礼音、お友達がわざわざ東京から会いに来てくれましたよ」
静かに声を掛けてから、私に目で合図をする。私はお母さんにお辞儀をし、襖に手を掛けた。
その時、玄関から呼びかける声が聞こえてきた。お母さんは「失礼します......」 と頭を下げ、背を向けて去っていった。
それを見送り、襖を静かに開けた。
「礼音......私。久美だよ。
礼音を迎えに来たよ」
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