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新たな誓い

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 化粧水で肌を潤し、蒸しタオルで腕や肩を拭いた後、顔、首、肩、腕に水化粧を塗っていく。水化粧はひんやりとした液体のファンデーションといった感じで、気持ちよく肌に馴染む。時間を掛け、下地作りをしていく。

 それからアイシャドウを載せ、切れ長の目になるようアイラインを引き、マスカラを軽くつけた後、まっすぐで太めの眉がぼかし気味に描かれる。朱色の紅を引けば、和装に合わせたメイクの完成だ。

 今までに着物を着る機会は何度となくあったものの、それとも異なる独特の化粧の仕方に戸惑い、鏡に映る自分に違和感を覚えていると、化粧師の女性が笑った。

「普段のお化粧とは違うのでおかしく感じるかもしれませんが、これに白無垢を着るとぐっと映えるんですよ」

 そう言われ、まだ肌襦袢しか着ていない美姫はそういうものかと納得した。

「では、これから着付けをしますのでこちらへどうぞ」

 椅子から立ち上がり、着物の掛かっている畳の部屋へ移動する。

 この日美姫が着る白無垢は、デザイナーと打ち合わせて布から選んだものだった。白無垢と言っても、正絹しょうけんで織られている為、化繊のものとは違い真っ白ではなく少しクリームがかっている。だが、その柔らかく滑らかな肌触り、品のある光沢感としなやかさ、そして化繊に比べて着崩れしにくいという点で優れている。

 佐賀錦という織物の手法を用い、白地の箔糸に白絹糸で、美姫の好きな牡丹と大和の好きな鳳凰を織り上げた白無垢となっている。
 佐賀錦は肥前国鹿島藩(現在の佐賀県鹿島市周辺)の御殿女中に受け継がれた織物で、本来は金や銀、漆などを貼った特製の和紙を細かく裁断したものを経糸とし、絹糸を緯糸として織り上げる。金箔や漆を使用しているため、絹糸だけで織り上げる物に比べ、高度な技術を必要とするといわれている。今回は白無垢なので、白地の箔糸を用いたのだった。

 織地がしっかりしているため、着姿に量感が出、緞子地とは違った華やかさのある光沢感があり、豪華な雰囲気を出していた。 

 白無垢の着付けは普通の着物とは違い手順が複雑な為、3人がかりで着付けてくれた。

 続いては綿帽子だが、綿帽子と一口に言っても、縁取りが赤かったり、真っ赤だったり、ベールのように透けていたり、刺繍が入っていたりと様々な種類がある。美姫は、白無垢に合わせた佐賀錦の牡丹の刺繍が入った正絹の綿帽子を被った。綿帽子には、ウェディングベールと同じように挙式が済むまで新郎以外に顔を見せない為という意味がある。

 本来ならこの後、写真撮影となるのだが、野外で写真撮影などすればそこで待ち構えている報道陣が押し寄せることになる為、事前に撮影スタジオにて前撮りを済ませておいた。

 メイク室を出ると、そこで黒五つ紋付き羽織袴を纏った大和が待っていた。家紋は、来栖家のものが入っている。

 大和の羽織袴は成人式の時に見ていたものの、あれからまだ1年も経たないというのに、その時よりも精悍な印象が漂う。

 大和は美姫の綿帽子に白無垢姿を見て言葉を失ったように、見入っていた。

「美姫さんの花嫁姿、とても綺麗でしょう?」

 そう介添え人に言われ、気を取り戻してから慌てたように頷いた。

「あぁ! き、れいだ......凄く」
「無理しなくていいよ。おかしいから、何言っていいか分からなかったんでしょ?」

 慌てる大和に悪戯心が沸いて冗談めかして言うと、大和は更に慌てた。

「いや、ちがっ!
 マジで......綺麗で、感動......した、から」

 赤くなる大和に、美姫は思わず笑顔になった。

「ありがとう。大和も、凄く似合ってるよ」

 ふたりは微笑んで見つめ合った。
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