630 / 1,014
断ち切る鎖
1
しおりを挟む
ザルツブルク音楽祭が近づくにつれ、美姫はそわそわと落ち着かない気持ちになっていた。
マスコミの報道により、秀一がザルツブルク音楽祭の出演者として名前を連ねていると知った。だからといって、まだ安心は出来ない。
秀一さん、本当にザルツブルク音楽祭に出てくれるかな......
美姫は、気が気でないにも関わらず、秀一がいつ演奏するのかについては恐くて調べられずにいた。マネージャーである智子からは、オーストリアに発って以来なんの音沙汰もない。
秀一さんのこと、聞きたい。
でも......
美姫は彼女に連絡しようとしては止めることを、繰り返していた。
そんな中、ついにザルツブルク音楽祭が始まった。結婚式が迫り、その準備に追われる中、美姫の心は大きく波立っていた。
大和のことを心から愛してる。
もう、秀一さんのことは考えない。
そう思い、大和の前ではいつも通りに振る舞うものの、ひとりになるとどうしても秀一のことが気になってしまう。
結婚式を二週間後に控え、美姫は決意した。
このままでは、何も手につかない。やっぱり、智子さんに連絡しよう......
そう考えていた時を同じくして、智子からメールが届いた。
『これが世界に誇るピアニスト、来栖秀一です』
たった一言だけ書かれた言葉に、ビデオの画像が添付してあった。それが、文そのものの意味であることを願いつつ、もしかしたら嫌味として書いているのかもしれないという不安も過る。
秀一さん……ザルツブルク音楽祭にちゃんと出たんだよね?
世界に誇るピアニストと言われるくらい、素晴らしい演奏を披露したんだよね……
美姫は、添付されている画像ファイルを見つめた。
いったい、どんな演奏だったんだろう。
美姫の中で、見たい気持ちと見たくない気持ちが胸の中に渦巻く。
恐い......けど、私にはこれを見届ける義務があるんだ。
世界に誇るピアニストとしてザルツブルク音楽祭に出て欲しいと願って、秀一さんを送り出したのは私なんだから。
マスコミの報道により、秀一がザルツブルク音楽祭の出演者として名前を連ねていると知った。だからといって、まだ安心は出来ない。
秀一さん、本当にザルツブルク音楽祭に出てくれるかな......
美姫は、気が気でないにも関わらず、秀一がいつ演奏するのかについては恐くて調べられずにいた。マネージャーである智子からは、オーストリアに発って以来なんの音沙汰もない。
秀一さんのこと、聞きたい。
でも......
美姫は彼女に連絡しようとしては止めることを、繰り返していた。
そんな中、ついにザルツブルク音楽祭が始まった。結婚式が迫り、その準備に追われる中、美姫の心は大きく波立っていた。
大和のことを心から愛してる。
もう、秀一さんのことは考えない。
そう思い、大和の前ではいつも通りに振る舞うものの、ひとりになるとどうしても秀一のことが気になってしまう。
結婚式を二週間後に控え、美姫は決意した。
このままでは、何も手につかない。やっぱり、智子さんに連絡しよう......
そう考えていた時を同じくして、智子からメールが届いた。
『これが世界に誇るピアニスト、来栖秀一です』
たった一言だけ書かれた言葉に、ビデオの画像が添付してあった。それが、文そのものの意味であることを願いつつ、もしかしたら嫌味として書いているのかもしれないという不安も過る。
秀一さん……ザルツブルク音楽祭にちゃんと出たんだよね?
世界に誇るピアニストと言われるくらい、素晴らしい演奏を披露したんだよね……
美姫は、添付されている画像ファイルを見つめた。
いったい、どんな演奏だったんだろう。
美姫の中で、見たい気持ちと見たくない気持ちが胸の中に渦巻く。
恐い......けど、私にはこれを見届ける義務があるんだ。
世界に誇るピアニストとしてザルツブルク音楽祭に出て欲しいと願って、秀一さんを送り出したのは私なんだから。
0
お気に入りに追加
345
あなたにおすすめの小説


義妹のミルク
笹椰かな
恋愛
※男性向けの内容です。女性が読むと不快になる可能性がありますのでご注意ください。
母乳フェチの男が義妹のミルクを飲むだけの話。
普段から母乳が出て、さらには性的に興奮すると母乳を噴き出す女の子がヒロインです。
本番はありません。両片想い設定です。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる