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結実
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「母さんの愛情を理解せず、全てを捨てようとして......本当に申し訳なかったと思ってる。
俺がそんな気持ちになれたのは、薫子のおかげなんだ」
静音が、薫子を複雑な表情で見つめた。
悠は薫子に手を伸ばし、彼女の手に自分のそれを重ねた。
「薫子は櫻井財閥の令嬢として生まれ、身の回りのことは全て周りがやってくれ、経済的には何不自由なく育てられてきた。一方、精神的には支配的な父親の元、自分の意見など言わせてもらえず、ただ敷かれたレールを歩いてきた。
そんな彼女が俺の為に父親と対立し、家まで出た。ばあやさんの元で自立する術を習い、人と話すことが苦手だったのに、今は生け花まで教えている。
そして俺に、『自分が悠を支えるから』、と。『一緒に生きて欲しい』、と言ってくれた。俺は、そんな彼女の姿に生きる希望をもらったんだ。
俺がどれだけ自暴自棄になっていたかは、母さんが一番よく分かっているだろう? 彼女が俺の元に来てくれていなければ......俺は今頃、死人のような生活を続けていた。母さんや父さんの声も、必死の祈りも......届いていなかった」
静音は唇を震わせながら、薫子に怒りの眼差しを向けた。
「それ、でも......私は、許せない。悠ちゃんの未来を奪った、あなたが許せない......」
薫子は俯き、肩を小さく揺らすと、静音の元に座り込んだ。
「申し訳、ありません......それ、でも......どんなに、おば様に嫌われていようとも......私には、悠さんが必要なんです。
そして、この子にも......」
薫子は、自らのお腹をさすった。静音は眉根を寄せて苦しげにお腹を見つめた後、顔を逸らした。
「......買い物、してくるわ」
立ち上がると、美姫と大和に顔を向けた。
「大和くん、美姫さん......先日は、言い過ぎてしまったわ。
あの時は、精神的にまいっていて......あなた達に八つ当たりしてごめんなさい」
それだけ言うと、扉を出て行った。
「何か、言われたのか?」
悠に尋ねられ、大和は慌てて答えた。
「いや、大したことじゃねぇよ」
自然と、皆一様に大きく息を吐き出した。
「すまない、せっかく来てくれたのにこんな話聞かせることになって」
悠が申し訳なさそうに言う。
「気にすんな。お前のお袋さん、悠のことすげぇ心配してたからさ、気持ち分かるし」
そう言いながら、悠がずっと母親の愛情を重く感じていた話を思い出し、大和は複雑な気持ちになった。
悠とは中等部からの付き合いだが、悠から家族の話を聞くことは殆どといってなかった。
母親は授業参観や行事ごとには必ず出席していたし、父親も一緒のことも珍しくなかった。大和とは違い、悠は若い頃から社交界デビューし、仕事の手伝いも積極的にしていたため、家族仲が悪いと感じたことはなかった。
家族の話などしなくても、家族仲はいいものだと勝手に思っていた。悠は愛されて幸せに育っているのだと。
愛されない、ってのは辛いことだと思ってたけど、愛されすぎて辛いってことも、あるんだな......
美姫は暗い雰囲気を破るかのように、明るい声を上げた。
「それにしても、まさか薫子が悠のお母様と堂々と張り合うなんて思ってもみなくて、ビックリしちゃった」
「あぁ、俺もだ」
大和も頷いた。薫子はふたりに言われ、恥ずかしくなって顔を真っ赤にして俯いた。
「実は、初めておば様にお会いして正面切って悠のことで責められた時は恐くて、逃げ出しちゃったの......予想はしていたけど、やっぱりショックだったし、落ち込んだ。
それを救ってくれたのは、悠と......お腹の子の存在だったの。諦めちゃいけないって。悠とずっと一緒にいるって決めたから、その為にはおば様と会うことを避けてはいられないんだって。
それに、おば様が悠を大切にし、愛していらっしゃるのは分かるから、いつか私たちの関係を受け入れてもらいたいの。この子のことも、認めて欲しい」
薫子は、お腹にそっと触れた。
俺がそんな気持ちになれたのは、薫子のおかげなんだ」
静音が、薫子を複雑な表情で見つめた。
悠は薫子に手を伸ばし、彼女の手に自分のそれを重ねた。
「薫子は櫻井財閥の令嬢として生まれ、身の回りのことは全て周りがやってくれ、経済的には何不自由なく育てられてきた。一方、精神的には支配的な父親の元、自分の意見など言わせてもらえず、ただ敷かれたレールを歩いてきた。
そんな彼女が俺の為に父親と対立し、家まで出た。ばあやさんの元で自立する術を習い、人と話すことが苦手だったのに、今は生け花まで教えている。
そして俺に、『自分が悠を支えるから』、と。『一緒に生きて欲しい』、と言ってくれた。俺は、そんな彼女の姿に生きる希望をもらったんだ。
俺がどれだけ自暴自棄になっていたかは、母さんが一番よく分かっているだろう? 彼女が俺の元に来てくれていなければ......俺は今頃、死人のような生活を続けていた。母さんや父さんの声も、必死の祈りも......届いていなかった」
静音は唇を震わせながら、薫子に怒りの眼差しを向けた。
「それ、でも......私は、許せない。悠ちゃんの未来を奪った、あなたが許せない......」
薫子は俯き、肩を小さく揺らすと、静音の元に座り込んだ。
「申し訳、ありません......それ、でも......どんなに、おば様に嫌われていようとも......私には、悠さんが必要なんです。
そして、この子にも......」
薫子は、自らのお腹をさすった。静音は眉根を寄せて苦しげにお腹を見つめた後、顔を逸らした。
「......買い物、してくるわ」
立ち上がると、美姫と大和に顔を向けた。
「大和くん、美姫さん......先日は、言い過ぎてしまったわ。
あの時は、精神的にまいっていて......あなた達に八つ当たりしてごめんなさい」
それだけ言うと、扉を出て行った。
「何か、言われたのか?」
悠に尋ねられ、大和は慌てて答えた。
「いや、大したことじゃねぇよ」
自然と、皆一様に大きく息を吐き出した。
「すまない、せっかく来てくれたのにこんな話聞かせることになって」
悠が申し訳なさそうに言う。
「気にすんな。お前のお袋さん、悠のことすげぇ心配してたからさ、気持ち分かるし」
そう言いながら、悠がずっと母親の愛情を重く感じていた話を思い出し、大和は複雑な気持ちになった。
悠とは中等部からの付き合いだが、悠から家族の話を聞くことは殆どといってなかった。
母親は授業参観や行事ごとには必ず出席していたし、父親も一緒のことも珍しくなかった。大和とは違い、悠は若い頃から社交界デビューし、仕事の手伝いも積極的にしていたため、家族仲が悪いと感じたことはなかった。
家族の話などしなくても、家族仲はいいものだと勝手に思っていた。悠は愛されて幸せに育っているのだと。
愛されない、ってのは辛いことだと思ってたけど、愛されすぎて辛いってことも、あるんだな......
美姫は暗い雰囲気を破るかのように、明るい声を上げた。
「それにしても、まさか薫子が悠のお母様と堂々と張り合うなんて思ってもみなくて、ビックリしちゃった」
「あぁ、俺もだ」
大和も頷いた。薫子はふたりに言われ、恥ずかしくなって顔を真っ赤にして俯いた。
「実は、初めておば様にお会いして正面切って悠のことで責められた時は恐くて、逃げ出しちゃったの......予想はしていたけど、やっぱりショックだったし、落ち込んだ。
それを救ってくれたのは、悠と......お腹の子の存在だったの。諦めちゃいけないって。悠とずっと一緒にいるって決めたから、その為にはおば様と会うことを避けてはいられないんだって。
それに、おば様が悠を大切にし、愛していらっしゃるのは分かるから、いつか私たちの関係を受け入れてもらいたいの。この子のことも、認めて欲しい」
薫子は、お腹にそっと触れた。
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