607 / 1,014
発表
4
しおりを挟む
大和はこれまでの消費者が持っている来栖財閥のブランドイメージや、会社の体制などについて述べた後、これから来栖財閥がどう変わっていこうとしているのかについて語った。
大和は学生の時に生徒会長を務めていたことがあり、美姫は何度か彼の演説を聞いている。よく通る安定感のある、清潔感に満ちた大和の声には、人々を惹きつける何かがある。時々身振りを交えながら真っ直ぐに正面を向き、胸を張るその姿を見ていると、本人にそのつもりはなくとも、やはり彼は政治家の息子なのだなと美姫は感じた。
「それでは、新ロゴデザインを発表します」
大和が手元のリモコンを押すと、スクリーンに聖輝のデザインした新ロゴが映し出された。
美姫は舞台袖から歩き出し、廊下を突っ切ると奈落へと向かう。
「準備は、大丈夫ですか?」
美姫の声掛けに、スタッフたちがゴーサインを出した。
指定された位置に立つと心臓がバクバクと飛び出しそうに上下し、膝がガクガクと震える。それでも足に力を込め、生唾を飲み下した。
私が、何の為にここにいるのか......
---そう、来栖財閥の再建のため。
美姫は、瞼をギュッと閉じた。
「10秒前、9、8、7......」
カウントが始まり、逃げ出したい気持ちと葛藤しながら美姫は小さく震えた。汗が大量に噴き出してくる。
「......2、1、いきます!」
合図と共に舞台が上がっていく。
一瞬、秀一はピアノと共にここから上がる瞬間、何を考えていたのだろうと思った。
スポットライトがあらゆるところから照らされる中、美姫は来栖財閥新ロゴが入った乗用車と共に、舞台の真ん中に立っていた。美姫が舞台に上がると同時に、袖から凛子が商品を並べたワゴンを引いてきた。
セッティングが整ったところで、大和が口を開く。
「私どもは、『新生 来栖財閥』の新ロゴのデザインを考えるに当たって、どの世代にも受け入れられるシンプルなものでありながらも、都会的で洗練されており、それを一目見た消費者の購買意欲が思わず掻き立てられるようなデザイン性を追求しました」
報道陣が色めき立ち、目を開けていられないほど多くのフラッシュがあちこちから焚かれる。
ワゴンは2台並べられ、左が旧デザイン、右が新デザインとなっていた。並べて置いてあると、いかに左が時代遅れのデザインであるかが浮き彫りになって見えるようだった。
「また、消費者に向けてのデザインだけではなく、会社自体にも新しい風を吹き込もうと考えております」
大和が美姫を見つめる。美姫は恥ずかしさを押し殺すと足を進め、舞台の正面に立った。
「これが、新しい来栖財閥の社員の制服になります」
昨日ぎりぎりに縫製が仕上がった制服は、美姫の案も取り入れたデザインとなっていた。
新ロゴに使われているKと同じアルパイン・ブルーのジャケットは、明るめの色ではあるものの派手さはなく、むしろ優雅で洗練された印象を与えている。ジャケットの胸ポケットには新ロゴのKが刺繍されていた。スカートはジャケットよりも1トーン濃くし、更にグレーを加えた色となり、落ち着きを与えている。ブラウスの襟がスカートと同色になっており、統一感を持たせていた。
首からは名刺大の革のカード入れに入ったIDが掛けられている。表にICチップがはめられた社員証、裏にロゴが記載されている。
「夏服はジャケットを脱いだブラウスとスカートになり、ここにスカーフが加わります」
美姫は徐にジャケットを脱いだ。ブラウスにも、ジャケットと同じ位置にロゴが刺繍してある。ジャケットからスカーフを取り出し、首に巻いた。
その一挙手一投足を追うかのように、次々にフラッシュが焚かれていった。
商品の紹介が終わると美姫は乗用車の横に立ち、奈落が下げられた。
この後は、スマートフォンのアプリアイコンについての説明だよね......
そう考えながら、美姫は控室で私服に着替えた。制服のモデルになって欲しいと頼まれた時はどうなることかと思ったが、無事に終えることが出来て安堵の息が漏れる。
これから『新生 来栖財閥』の顔にならなければいけないんだから、もっと覚悟して取り組まないと。
ここは、いつも秀一が使っていた控室ではない。それでも、美姫はやはりこの空気そのものに秀一の残り香があるような気がしていた。
控室の扉を開け、元来た道とは反対側をふと見ると、廊下の突き当たり右手にある非常扉が見えた。
鏡の部屋へ続く扉......
思い出に呑み込まれないよう、振り切るようにして会場へ戻る足取りを速めた。
大和は学生の時に生徒会長を務めていたことがあり、美姫は何度か彼の演説を聞いている。よく通る安定感のある、清潔感に満ちた大和の声には、人々を惹きつける何かがある。時々身振りを交えながら真っ直ぐに正面を向き、胸を張るその姿を見ていると、本人にそのつもりはなくとも、やはり彼は政治家の息子なのだなと美姫は感じた。
「それでは、新ロゴデザインを発表します」
大和が手元のリモコンを押すと、スクリーンに聖輝のデザインした新ロゴが映し出された。
美姫は舞台袖から歩き出し、廊下を突っ切ると奈落へと向かう。
「準備は、大丈夫ですか?」
美姫の声掛けに、スタッフたちがゴーサインを出した。
指定された位置に立つと心臓がバクバクと飛び出しそうに上下し、膝がガクガクと震える。それでも足に力を込め、生唾を飲み下した。
私が、何の為にここにいるのか......
---そう、来栖財閥の再建のため。
美姫は、瞼をギュッと閉じた。
「10秒前、9、8、7......」
カウントが始まり、逃げ出したい気持ちと葛藤しながら美姫は小さく震えた。汗が大量に噴き出してくる。
「......2、1、いきます!」
合図と共に舞台が上がっていく。
一瞬、秀一はピアノと共にここから上がる瞬間、何を考えていたのだろうと思った。
スポットライトがあらゆるところから照らされる中、美姫は来栖財閥新ロゴが入った乗用車と共に、舞台の真ん中に立っていた。美姫が舞台に上がると同時に、袖から凛子が商品を並べたワゴンを引いてきた。
セッティングが整ったところで、大和が口を開く。
「私どもは、『新生 来栖財閥』の新ロゴのデザインを考えるに当たって、どの世代にも受け入れられるシンプルなものでありながらも、都会的で洗練されており、それを一目見た消費者の購買意欲が思わず掻き立てられるようなデザイン性を追求しました」
報道陣が色めき立ち、目を開けていられないほど多くのフラッシュがあちこちから焚かれる。
ワゴンは2台並べられ、左が旧デザイン、右が新デザインとなっていた。並べて置いてあると、いかに左が時代遅れのデザインであるかが浮き彫りになって見えるようだった。
「また、消費者に向けてのデザインだけではなく、会社自体にも新しい風を吹き込もうと考えております」
大和が美姫を見つめる。美姫は恥ずかしさを押し殺すと足を進め、舞台の正面に立った。
「これが、新しい来栖財閥の社員の制服になります」
昨日ぎりぎりに縫製が仕上がった制服は、美姫の案も取り入れたデザインとなっていた。
新ロゴに使われているKと同じアルパイン・ブルーのジャケットは、明るめの色ではあるものの派手さはなく、むしろ優雅で洗練された印象を与えている。ジャケットの胸ポケットには新ロゴのKが刺繍されていた。スカートはジャケットよりも1トーン濃くし、更にグレーを加えた色となり、落ち着きを与えている。ブラウスの襟がスカートと同色になっており、統一感を持たせていた。
首からは名刺大の革のカード入れに入ったIDが掛けられている。表にICチップがはめられた社員証、裏にロゴが記載されている。
「夏服はジャケットを脱いだブラウスとスカートになり、ここにスカーフが加わります」
美姫は徐にジャケットを脱いだ。ブラウスにも、ジャケットと同じ位置にロゴが刺繍してある。ジャケットからスカーフを取り出し、首に巻いた。
その一挙手一投足を追うかのように、次々にフラッシュが焚かれていった。
商品の紹介が終わると美姫は乗用車の横に立ち、奈落が下げられた。
この後は、スマートフォンのアプリアイコンについての説明だよね......
そう考えながら、美姫は控室で私服に着替えた。制服のモデルになって欲しいと頼まれた時はどうなることかと思ったが、無事に終えることが出来て安堵の息が漏れる。
これから『新生 来栖財閥』の顔にならなければいけないんだから、もっと覚悟して取り組まないと。
ここは、いつも秀一が使っていた控室ではない。それでも、美姫はやはりこの空気そのものに秀一の残り香があるような気がしていた。
控室の扉を開け、元来た道とは反対側をふと見ると、廊下の突き当たり右手にある非常扉が見えた。
鏡の部屋へ続く扉......
思い出に呑み込まれないよう、振り切るようにして会場へ戻る足取りを速めた。
0
お気に入りに追加
343
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる