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発表

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 新ロゴ発表は、メモリアルホールで行われることになった。かつて秀一がピアノリサイタルを定期公演し、彼がオーナーとなっているあのコンサートホールである。

 来栖財閥や関連企業、取引先の重役、並びに来賓、加えて報道陣の席まで確保しようとするとコンサートホール程の席が必要となり、急な日程で手配できるのはここしかなかったのだった。

 また、ここに来ることになるなんて......

 開場前のコンサートホールの客席に座り、美姫は舞台を見つめていた。

 もちろん、グランドピアノなど置かれていない。そこには、天井から大きなスクリーンが下がっているのみだった。

 だが、美姫の脳裏にはスポットライトが照らされる中、秀一がピアノを奏でる姿がはっきりと映し出されていた。

 美しく切ない旋律を弾く官能的な指先、切れ長の瞳が艶っぽく細められ、恍惚の表情を浮かべながら顎が僅かに上がる。うっすらと額から滲み出た汗がライトの光で煌めき、後ろで纏められた髪が扇情的に揺れる。

 やがて指が鍵盤から離れると、優美に椅子から立ち上がり、ピアノの前へと進み出る。観客からの大歓声に応え、軽くお辞儀をし、微笑む秀一。

 その視線は、美姫がどこにいるのかなどすぐに捉え、真っ直ぐに向けられる。

「ッ......!!!」

 いきなり後ろから肩に手を置かれ、美姫は飛び上がるほど驚いた。

「ご、ごめ......驚かせちまって」

 美姫は後ろを振り向いた。

「大和......もう、時間?」

 そう言いながら手元の腕時計を見ると、開場まであと15分だった。

「あぁ、行くぞ」

 大和の呼び掛けに立ち上がり、席を後にした。

 私が何のためにここにいるのか。
 それを、忘れてはいけない......

 美姫は、グッと顔を上げた。

 開場時間となり、コンサートホールには大勢の招待客がぞろぞろと入っていく。

 入口前には係の者が事前に配られたチケットをバーコードで読み取って確認した後、通している。席は、全て指定席となっている。

 報道陣といえどもチケットがないと会場内には入れず、各社3名までと規制されていた。だが、財閥の新ロゴ発表の場であり、人数制限があるにも関わらず、経済関連だけでなく芸能関連の報道陣も多く見られた。
 
 美姫と大和が婚約発表してから2ヶ月経とうというのに、未だその報道熱は冷めることを知らなかった。それは美姫と大和が来栖財閥のトップに立ち、注目されていることもあったが、なんといっても秀一の人気の根強さゆえにあった。

 失踪し、行方をくらましても未だ秀一はファンから忘れられることがないどころか、その熱は更にヒートアップしている。

 秀一が失踪してから、ファンの間で少しずつ秀一のCDやDVDなどの購買運動が広まっていった。彼らは、日本のファンに愛され、必要とされていることを感じた秀一が日本に戻ってきてくれるのではないかと期待し、ネットやツイッター、インスタグラムなどで購買を呼びかけた。

 CDやダウンロードのセールスはどんどん売上数を増し、クラシックジャンルにおいて驚異のセールスを記録し、ついにはオリコンランキングのトップ10にまで食い込むほどになっていた。それに触発された秀一の所属していたレコード会社が彼のコンプリートアルバムや未収録の曲を集めたCDを売り出した。それは、発売初日に各店舗で売上が続出し、まさに社会現象とまでなったのだった。
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