上 下
601 / 1,014
余波

しおりを挟む
 みんな、やっぱり分かってたんだ......私が、クリスマスパーティーの夜に襲われたってことは。
 あの後、私が寮を出て大学にも来なくなったことや、あの人が退学......しかも放校処分になったことを考えたら、怪しむのは当然だよね。しかも婚約会見で私がはっきりと友人に襲われたって言ったことで、更に明白になったんだろう。
 だから今日、ここにあの人がいないことを知りながらも、誰もそのことについて触れなかったし、話題を避けるように気遣ってくれてたんだよね。

 せっかく皆が来てくれて楽しい雰囲気になってたのに、このままじゃ気まずくなっちゃう。

 美姫は笑みを見せながら、両手を振った。

「みんな、そんな気を遣わなくて大丈夫だから。もちろん、まだ......乗り越えてはいないけど、過剰に反応することはなくなったから」

 それは、心理カウンセリングのお陰でもあった。少しずつではあるものの、過去のトラウマから目を背けるのではなく、それを受け入れなくてはと思えるようになってきていた。

 美姫は、勝に頭を下げた。

「勝......あの時は、本当にごめんね。私......勝に対して、あんな酷い態度とっちゃって」
「い、いや!謝んなくていーから! 俺も、あん時美姫があんなことになってるなんて知らなくて、無神経だったっつーか」

 麻子が、勝の頭を軽く叩はたく。

「そうよ、あんたはいつでも無神経なんだから!」

 麻子が、申し訳なさそうに俯いた。

「あの時、美姫を守ってあげられなくて......ごめん。あいつが退学になったって知った時に、ふたりの間に何かあったんだって思ったのに、それを確かめるのが恐かった。
 私、ずっと後悔してたの。あいつが、美姫に気があるの分かってたのに。どうしてあの時、二人きりにさせちゃったんだろうって......ごめん......ごめんね、美姫......」

 勝と匠も項垂れた。それは、ふたりも麻子と同様の思いをずっと抱えていたことを示していた。

 美姫の下を向いた睫毛の影が濃くなり、小さく髪が揺れた。

「ちが......違う、の。皆の、せいじゃ......ない。私、の ......せック」

 あの時......何かおかしいと思っていたはずなのに、気をつけなかったから。
 家に上がらなければ。すぐに帰っていれば......あんなことには、ならなかったのに。

 手足の先から全身にまで、冷たい震えが広がっていく。

 大和が、美姫の肩を抱いた。

「自分を、責めんな。この中の誰も、悪くない......誰も」

 匠が静かに言葉を漏らす。

「あいつ......最近、田舎に帰ったらしい。親が、連れ戻しにきたって......
 ダチの知り合いが同じアパートに住んでたらしくて、そこから噂で聞いただけだけど」
「ま、あんだけ拡散すればな......」

 勝の言葉に、美姫は眉を寄せた。

「拡散、って?」

 頭を抱えた勝の頬を、麻子が思いっきりつねった。

 美姫は、今度は麻子に顔を向け、再度尋ねた。

「拡散って、どういうことなの麻子?」

 隠すことが出来ないと感じた麻子は覚悟を決め、ゴクリと唾を飲み下すと美姫を見つめた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

義妹のミルク

笹椰かな
恋愛
※男性向けの内容です。女性が読むと不快になる可能性がありますのでご注意ください。 母乳フェチの男が義妹のミルクを飲むだけの話。 普段から母乳が出て、さらには性的に興奮すると母乳を噴き出す女の子がヒロインです。 本番はありません。両片想い設定です。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...