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新旧対決
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双方のプレゼンが終わり、電報堂と吉岡メディアエージェンシーには帰ってもらい、昼の休憩時間の後に内部での会議となった。
来栖財閥側の意見は二分した。八郎率いる派閥は電報堂を譲る気はなく、その他の人間は聖輝のデザインに感化され、惹かれつつあった。
「正直、今までのロゴは歴史を感じさせるものの、時代にそぐわない感じがしていたので、私は新ロゴがいいと思います。あれなら、会社のバッジや社員証だけでなく、備品なんかにもつけてもらいたいですね。お洒落なので女子社員からも支持されそうですし、それを目当てに会社に入りたいと思う学生もいるかもしれないですよね」
横山が若者としての意見を述べる。
鮫島は腕組みをして、口を開いた。
「今まで広告代理店を変えることにどんな意味があるかと疑問に思っていましたが、今回のプレゼンテーションを通じて、吉岡メディアエージェンシーから新しい風をもらった気がします。
我が社の古い体制を見直す意味でも、いいてこ入れのきっかけになるかもしれませんなぁ」
古株である八郎一派をチラリと見つめ、そう言った。
まるで自分たちの今の体制に不満があるかのような鮫島の意見に、彼らは憤慨した。
「先々代の思いが詰まったロゴを、こんな軽いものに変えられるか!」
「そうだ、これには長い来栖財閥の歴史が刻まれているのだ!」
なかなか意見が纏まらない。凛子は、黙って彼らの意見を聞いているだけだ。
大和は、どうやって彼らを納得させながらひとつのデザイン案を決定出来るのか、考えあぐねていた。
白熱する議論の中、八郎が提案する。
「やはりここは、多数決で決めてはどうですかな」
自信に満ちた表情であるのは、自分を含めた人数が多数決で勝算ありと分かっているからだ。多数決なら、間違いなく旧ロゴデザインが採用になる。でも、それでは来栖財閥のこれからの未来をイメージするのに見合ったデザイン案を選んだとは言えない。
これじゃ、デザイン案を決める議論じゃなくて、副社長の沽券を維持する場になってんじゃねぇか......
大和の隣に座る美姫が遠慮がちに手を挙げ、「あ、の......」と声を上げた。
その声に、一斉に皆の視線が美姫に集中する。社長の娘である美姫が、どんな意見をするのか興味津々といった様子だ。
美姫はその視線に居た堪れなくなり、俯いた。心臓がドクドクし、いやな汗が背中をどっと伝うのを感じる。
逃げちゃだめ。
逃げちゃ、だめだ......
美姫は強張る顔を上げ、声を震わせながら言葉を絞り出した。
「商品を、実際に使用するのは消費者です。『新生、来栖財閥』に向け、企業努力をしていることを訴えるためにも、消費者に新ロゴを決めてもらうのはどうでしょうか。どちらのデザインにより魅力を感じるのか、投票してもらい、得票数が多かった方を採用します。
CMや雑誌で呼びかけることにより、来栖財閥の宣伝にもなるのではないでしょうか」
八郎が不満げな声を漏らした。
「そういった企画に飛びつくのは若年層が主になるのでは? 新しい物が好きな彼らは、本当の良さなど分からず、ただただ目新しいものに目を奪われます。それでは、本当に全ての消費者の意見が反映されてるとはいえんと思いますが」
美姫が反論できずに黙ると、今まで沈黙を守っていた凛子が代わりに口を開いた。
「では、市場調査を専門としているリサーチ会社に、どちらのロゴデザインがより魅力的かについてのリサーチを依頼しましょう。公平を期すために、我社の系列のリサーチ会社ではなく外部で、双方の広告代理店とも繋がりのない会社を選びます。
対象は6歳から10歳までとそれ以降は10歳ずつ年齢を区切って、各年齢層にバラツキが出ないよう、同じ人数に答えてもらいます。それなら、幅広い世代からの意見が公平に反映されますよね。
異議はございませんか、副社長?」
「う......社長代理がそう、仰られるなら......」
八郎は仕方なく頷いた。
来栖財閥側の意見は二分した。八郎率いる派閥は電報堂を譲る気はなく、その他の人間は聖輝のデザインに感化され、惹かれつつあった。
「正直、今までのロゴは歴史を感じさせるものの、時代にそぐわない感じがしていたので、私は新ロゴがいいと思います。あれなら、会社のバッジや社員証だけでなく、備品なんかにもつけてもらいたいですね。お洒落なので女子社員からも支持されそうですし、それを目当てに会社に入りたいと思う学生もいるかもしれないですよね」
横山が若者としての意見を述べる。
鮫島は腕組みをして、口を開いた。
「今まで広告代理店を変えることにどんな意味があるかと疑問に思っていましたが、今回のプレゼンテーションを通じて、吉岡メディアエージェンシーから新しい風をもらった気がします。
我が社の古い体制を見直す意味でも、いいてこ入れのきっかけになるかもしれませんなぁ」
古株である八郎一派をチラリと見つめ、そう言った。
まるで自分たちの今の体制に不満があるかのような鮫島の意見に、彼らは憤慨した。
「先々代の思いが詰まったロゴを、こんな軽いものに変えられるか!」
「そうだ、これには長い来栖財閥の歴史が刻まれているのだ!」
なかなか意見が纏まらない。凛子は、黙って彼らの意見を聞いているだけだ。
大和は、どうやって彼らを納得させながらひとつのデザイン案を決定出来るのか、考えあぐねていた。
白熱する議論の中、八郎が提案する。
「やはりここは、多数決で決めてはどうですかな」
自信に満ちた表情であるのは、自分を含めた人数が多数決で勝算ありと分かっているからだ。多数決なら、間違いなく旧ロゴデザインが採用になる。でも、それでは来栖財閥のこれからの未来をイメージするのに見合ったデザイン案を選んだとは言えない。
これじゃ、デザイン案を決める議論じゃなくて、副社長の沽券を維持する場になってんじゃねぇか......
大和の隣に座る美姫が遠慮がちに手を挙げ、「あ、の......」と声を上げた。
その声に、一斉に皆の視線が美姫に集中する。社長の娘である美姫が、どんな意見をするのか興味津々といった様子だ。
美姫はその視線に居た堪れなくなり、俯いた。心臓がドクドクし、いやな汗が背中をどっと伝うのを感じる。
逃げちゃだめ。
逃げちゃ、だめだ......
美姫は強張る顔を上げ、声を震わせながら言葉を絞り出した。
「商品を、実際に使用するのは消費者です。『新生、来栖財閥』に向け、企業努力をしていることを訴えるためにも、消費者に新ロゴを決めてもらうのはどうでしょうか。どちらのデザインにより魅力を感じるのか、投票してもらい、得票数が多かった方を採用します。
CMや雑誌で呼びかけることにより、来栖財閥の宣伝にもなるのではないでしょうか」
八郎が不満げな声を漏らした。
「そういった企画に飛びつくのは若年層が主になるのでは? 新しい物が好きな彼らは、本当の良さなど分からず、ただただ目新しいものに目を奪われます。それでは、本当に全ての消費者の意見が反映されてるとはいえんと思いますが」
美姫が反論できずに黙ると、今まで沈黙を守っていた凛子が代わりに口を開いた。
「では、市場調査を専門としているリサーチ会社に、どちらのロゴデザインがより魅力的かについてのリサーチを依頼しましょう。公平を期すために、我社の系列のリサーチ会社ではなく外部で、双方の広告代理店とも繋がりのない会社を選びます。
対象は6歳から10歳までとそれ以降は10歳ずつ年齢を区切って、各年齢層にバラツキが出ないよう、同じ人数に答えてもらいます。それなら、幅広い世代からの意見が公平に反映されますよね。
異議はございませんか、副社長?」
「う......社長代理がそう、仰られるなら......」
八郎は仕方なく頷いた。
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