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新旧対決

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 電報堂が提案した来栖財閥の新ロゴは、今のロゴに変化を加えたデザインとなっていた。

 毎回打ち合わせに来ていた澤野がプレゼンを進める。ひょろ長い顔に自信なさそうな顔をしており、いつも土気色で顔色が悪い。

「来栖財閥は歴史ある企業であり、このロゴマークは長年消費者の皆様に親しまれてきました。もう私たちの中には、このロゴの一部でも見れば来栖財閥のものだと分かるほどに、刷り込まれています。それをいきなり全く別のデザインに変えてしまっては、戸惑い、受け入れられない可能性が高いと思われます。
 私たちは、親しみのある旧ロゴを維持させながらも、そこに新しい風を感じさせるように、背景の色を若々しいミント・ブルーに変え、ロゴの中の社名「来栖」を漢字からローマ字表記にしました。
『今までの伝統を守りつつ、新たに前進していく来栖財閥』、これが私たちのテーマです」

 パソコンを操作し、スクリーンに新ロゴを映しながら説明する。

 副社長やその一派は、満足そうにそれを眺めている。大和の『これまでの来栖財閥のイメージを一新したい』という考えは反映されておらず、明らかに彼らの意見を優先したロゴとなっていた。

 続いて、吉岡メディアエージェンシーの番だ。社長の聖輝自らプレゼンを務める。

 聖輝はまず、企業の紹介と自らの経歴を簡単に紹介した。続いて、以前大和と美姫に語った、なぜ電報堂ではなく、吉岡メディアエージェンシーを選ぶべきかを熱弁する。

 電報堂が風間財閥とも契約していること。
 海外、特に殆どの先進国における広告代理店は『一業種一社制』としており、日本のように同じ業種でありながらも何社も受け追うのは、社会的モラルに反しているとも受け取られかねないこと。
 電報堂は広告費の20%をマージンとしているが、当社では実際にかかった費用を請求するので、明朗会計であること。

 濱本は面白くないというように眉を顰めた。

 それが終わると、いよいよプレゼンへと入った。

「来栖財閥のロゴマークは来栖家の家紋を元にデザインされたものでした。そして、このロゴはあまり前面に出されることは今までありませんでした。
 私は、今回新ロゴのデザインを考えるに当たって、新生来栖財閥をイメージさせ、どの世代も受け入れられるシンプルなデザインでありながら、商品にそのロゴを入れることによってお洒落に見え、購買意欲を掻き立てられることを考慮しました」

 聖輝の指がパソコンへ伸び、クリックする。スクリーンいっぱいにロゴマークのデザインが映し出された。

 それを見た途端、思わず全員が目を見張った。

 それは、旧ロゴとはまったく違ったデザインだった。

 来栖財閥の頭文字であるKをデザインしたシンプルなロゴ。だがそれは、まるでこれからの羽ばたきを感じさせるような印象を与えた。

「私は、このロゴを商品デザインの一部として取り入れ、ブランド性を高めたいと考えています。
 たとえば、このように......」

 そう言いながら、聖輝は既存の来栖財閥の製品にロゴマークが入った映像をスクリーンに映し出した。

 冷蔵庫や電子レンジ、空気清浄機などの家電にロゴマークが加えられている。従来目立たないように申し訳程度についていたロゴとは異なり、商品デザインとして大きくその存在を放っていた。それは違和感なく溶け込み、都会のモダンな印象さえも与え、購買意欲を掻き立てられるものだった。

 聖輝は他にも来栖財閥から出されているさまざまな商品をロゴマークがついた形で例として次々に取り上げていった。飛行機、船、自動車などの大きなものから家電、生活用品、文房具、銀行で配るポケットティッシュに至るまで、商品は多岐に渡った。

「また、スマートフォンアプリのデザインですが、既存のものは複雑で目を引きにくいというのが現状です。
 この新ロゴはシンプルでありながらも目を引くアイコンとなっているという点にも、注目して頂きたいです」

 画面が切り替わる。

 拡大した2台のスマートフォンの画面があり、それぞれに様々なアプリアイコンが並んでいる。そして左の画面には旧ロゴ、右には新ロゴの来栖財閥のアプリアイコンが含まれている。新ロゴの方はシンプルなデザインであるにも関わらず、その美しいフォルムと色彩に一瞬で目を引かれた。

 ほぉ......と思わず会場から感嘆の声が漏れ、電報堂側はギリッと歯噛みした。
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