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思うがゆえの苦しみ
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「そうか、薫子が......」
大和は美姫からの話を聞き、額に手を置き、大きく息を吐き出した。
「悠の為に頑張って自立しようとしてるんだと思うけど、でも心配で......」
「薫子は、真面目だからな。それに、意外と頑固なんだよな......
仕事が見つかるまでは、悠に会わないつもりでいるんだろうな」
美姫は返事をする代わりに小さく頷いた。
「薫子の気持ちは分かるけど、妊娠してるわけだし、無理はできないわけでしょ。それに私が言うのもなんだけど、お嬢様育ちで世間知らずだし、仕事に就くことなんて出来るのかなって......」
このままいけば、薫子はいつまで経っても悠に会うことが出来ないかもしれない。
そう思った時、大和の心に浮かんだのは悠がどうしているかということだった。
「なぁ、美姫。今、悠がどんな状態にあるか......知ってるか」
美姫は息を呑んだ後、ゆっくりと頷いた。
「う、ん......私はあの事故の日からまだ悠に会ってないけど、薫子から聞いてる」
「俺、さ。悠が薫子に別れを告げたって聞いて、悠になんでなのか問い詰めるつもりだったんだ。
けど、それから暫くして遼から薫子と婚約したって聞かされて、ほんと訳わかんなくて。遼が悠にそのこと報告するなんて言うもんだから、悠に会いに行きづらくなっちまってさ。
悠に会ったその日、遼は俺と会ったんだけど、笑顔は見せててもなんか分かるんだよな、いつもと違うってことが。けど、遼は何も話してくれなくて、ただ誤魔化すだけだった。それで、何があったのか確かめるために悠に会いに行くことにしたんだ」
大和は睫毛を伏せ、拳を震わせた。
「そこで、悠から聞いたんだ。
事故に遭った時にフロントガラスの破片が目に入って、失明したことを」
薫子を連れて悠に会いに行ったあの日。悠が酷い状態だってことは一目見れば明らかで、思わず目を背けたくなった。
『悠......俺があの日、お前に車を貸したばっかりにこんなことになって......』
そう言った俺に、悠は目を閉じたまま答えた。
『大和のせいじゃ、ない』
それでも俺は、悠の姿を見て罪悪感を感じずにはいられなかった。だがそれでも、適切な処置を受けてリハビリすれば、元の生活に戻れると信じて疑わなかった。
それ、なのに......視力まで、失ってたなんて。
大和は頭を抱え、両肘を膝の上に置いた。
「薫子と別れた悠は、『もう自分には希望がない。全てがどうでもいい』って言った。話し方も覇気がなくて、弱々しくて。これからの未来を全て投げ捨てたような、諦めを感じた。中学の時からの付き合いだけど......あんな悠、見たことなかった。
俺は、それ以来......悠に会いに行っていない。いつも心の中で、悠に会いに行かないとって思うのに、いざとなると足を向けることが出来なかった。
美姫と婚約発表してから、毎日忙しくて見舞いに行く暇がないからだって自分に言い訳してた。そんなはずないって、分かってるのに。特に最近は、お義父さんの見舞いでしょっちゅう病棟に来てるんだから、同じ階に入院してる悠に会いに行けないはずねぇって分かってるのに。
俺は、悠に会うのを避けてたんだ。自分の罪を再認識させられるのが恐くて。会いに、行くことが出来ずにいるんだ......」
丸まった大和の背中は大きいはずなのに、とても小さく見えた。
美姫は、そっとその背中を撫でた。
「わた、しも......私も、同じだよ。
悠の意識が戻ったって分かってるのに、悠に会いに行くことを避けてた。私が追い詰めてしまったことで薫子が家から出られなくなり、悠が事故に遭ってしまったのだと罪悪感を感じていたから」
薫子が、駆け落ちを前に不安な気持ちになるだろうことは分かっていたはずなのに、私は彼女に酷い言葉を投げかけてしまった。どうしてそんなことをしてしまったんだろうって、考える度に後悔する。私があんなことを言わなければ、ふたりは今頃イギリスで幸せに暮らしていたかもしれなかったのに、って。
だから、お父様のお見舞いに行く時、悠の病室の方に目を向けられなかった。
恐くて。現実から目を逸らそうとしていた。
大和が顔を上げた。
いつまでも逃げ続けるわけにはいかない。ちゃんと、悠と向きあわねぇと。
「なぁ、美姫。明日、悠に会いに行くか」
美姫はハッとした後、俯いた。
「うん、そうだね......私も悠に、会いたい。
会って、ちゃんと謝りたい」
大和は美姫からの話を聞き、額に手を置き、大きく息を吐き出した。
「悠の為に頑張って自立しようとしてるんだと思うけど、でも心配で......」
「薫子は、真面目だからな。それに、意外と頑固なんだよな......
仕事が見つかるまでは、悠に会わないつもりでいるんだろうな」
美姫は返事をする代わりに小さく頷いた。
「薫子の気持ちは分かるけど、妊娠してるわけだし、無理はできないわけでしょ。それに私が言うのもなんだけど、お嬢様育ちで世間知らずだし、仕事に就くことなんて出来るのかなって......」
このままいけば、薫子はいつまで経っても悠に会うことが出来ないかもしれない。
そう思った時、大和の心に浮かんだのは悠がどうしているかということだった。
「なぁ、美姫。今、悠がどんな状態にあるか......知ってるか」
美姫は息を呑んだ後、ゆっくりと頷いた。
「う、ん......私はあの事故の日からまだ悠に会ってないけど、薫子から聞いてる」
「俺、さ。悠が薫子に別れを告げたって聞いて、悠になんでなのか問い詰めるつもりだったんだ。
けど、それから暫くして遼から薫子と婚約したって聞かされて、ほんと訳わかんなくて。遼が悠にそのこと報告するなんて言うもんだから、悠に会いに行きづらくなっちまってさ。
悠に会ったその日、遼は俺と会ったんだけど、笑顔は見せててもなんか分かるんだよな、いつもと違うってことが。けど、遼は何も話してくれなくて、ただ誤魔化すだけだった。それで、何があったのか確かめるために悠に会いに行くことにしたんだ」
大和は睫毛を伏せ、拳を震わせた。
「そこで、悠から聞いたんだ。
事故に遭った時にフロントガラスの破片が目に入って、失明したことを」
薫子を連れて悠に会いに行ったあの日。悠が酷い状態だってことは一目見れば明らかで、思わず目を背けたくなった。
『悠......俺があの日、お前に車を貸したばっかりにこんなことになって......』
そう言った俺に、悠は目を閉じたまま答えた。
『大和のせいじゃ、ない』
それでも俺は、悠の姿を見て罪悪感を感じずにはいられなかった。だがそれでも、適切な処置を受けてリハビリすれば、元の生活に戻れると信じて疑わなかった。
それ、なのに......視力まで、失ってたなんて。
大和は頭を抱え、両肘を膝の上に置いた。
「薫子と別れた悠は、『もう自分には希望がない。全てがどうでもいい』って言った。話し方も覇気がなくて、弱々しくて。これからの未来を全て投げ捨てたような、諦めを感じた。中学の時からの付き合いだけど......あんな悠、見たことなかった。
俺は、それ以来......悠に会いに行っていない。いつも心の中で、悠に会いに行かないとって思うのに、いざとなると足を向けることが出来なかった。
美姫と婚約発表してから、毎日忙しくて見舞いに行く暇がないからだって自分に言い訳してた。そんなはずないって、分かってるのに。特に最近は、お義父さんの見舞いでしょっちゅう病棟に来てるんだから、同じ階に入院してる悠に会いに行けないはずねぇって分かってるのに。
俺は、悠に会うのを避けてたんだ。自分の罪を再認識させられるのが恐くて。会いに、行くことが出来ずにいるんだ......」
丸まった大和の背中は大きいはずなのに、とても小さく見えた。
美姫は、そっとその背中を撫でた。
「わた、しも......私も、同じだよ。
悠の意識が戻ったって分かってるのに、悠に会いに行くことを避けてた。私が追い詰めてしまったことで薫子が家から出られなくなり、悠が事故に遭ってしまったのだと罪悪感を感じていたから」
薫子が、駆け落ちを前に不安な気持ちになるだろうことは分かっていたはずなのに、私は彼女に酷い言葉を投げかけてしまった。どうしてそんなことをしてしまったんだろうって、考える度に後悔する。私があんなことを言わなければ、ふたりは今頃イギリスで幸せに暮らしていたかもしれなかったのに、って。
だから、お父様のお見舞いに行く時、悠の病室の方に目を向けられなかった。
恐くて。現実から目を逸らそうとしていた。
大和が顔を上げた。
いつまでも逃げ続けるわけにはいかない。ちゃんと、悠と向きあわねぇと。
「なぁ、美姫。明日、悠に会いに行くか」
美姫はハッとした後、俯いた。
「うん、そうだね......私も悠に、会いたい。
会って、ちゃんと謝りたい」
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