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遼を見送るため成田国際空港のロビー入口に入った途端、美姫は躰が竦んだ。
ここは......思い出が多すぎる。秀一さんとの、思い出が。
ウィーンに向けて旅立った時には、ずっと彼と一緒にいられることに高揚していた。けれど、日本に帰国した時には、共にウィーンに暮らす決断を出来ず、彼を日本に縛り付けることに後ろめたさを抱えることになった。
ようやく私は......その鎖を解き、秀一さんの未来のため、ウィーンへと羽ばたかせた。
彼の、意思とは裏腹に......
間違っていないと思っても、夢の中での秀一さんは私を責め続ける。
それは、独りよがりの私のエゴなのだと。私は、彼を救ってなどいないのだと......
少し先を歩きかけた大和が足を止め、美姫を振り返った。美姫は大和の様子には気付かず、膝を震わせ、唇を噛み締めていた。
美姫......
大和はつかつかと歩み寄ると、大きな躰でふんわりと包み込むように抱き締めた。
「やま、と......」
驚いて見上げた美姫の顔に、大和が鼻と鼻がつきそうな距離で見つめた。
「俺が、いる」
低く小さいけれど、まるで熱をもっているように溶かされそうな大和の声。
「うん」
大和の逞しい肩に顔を埋めた美姫の頭を、彼は優しく撫でた。
ふたりは手を繋ぎ、成田国際空港第1ターミナルを歩いていた。
「フライトの時間って何時だ?」
大和に尋ねられ、美姫はあいている手でバッグを引き寄せ、中からメモを取り出した。
「夕方4時25分発のユナイテッド航空だから、あと3時間あるよ」
エレベーターで4Fに上がり、ユナイテッド航空のチェックインカウンターのある南ウィングを目指す。
「あれって......」
美姫は、遠くに見える人影を指差した。
そこには遼の両親と妹が立っていた。だが、肝心の遼の姿は見えない。不安に思いながら、大和は逸子に声を掛けた。
「先日は、どうもありがとうございました」
そう言って、頭を下げる。実家に電話して、逸子から遼のフライトの日にちと時間を教えてもらったからだ。
逸子はふたりを認めると、嬉しそうな笑顔を見せた。
「こちらこそ、わざわざ電話くれてありがとう。あの子、家族にまで見送りはいらないだなんてかっこつけちゃって......本当は寂しがりやのくせに。
美姫さん、お久しぶり。すっかり綺麗になられたわね。
そうそう!ふたりは入籍したのよね、おめでとう!おふたりが来てくれて、遼も喜ぶわ」
「ありがとうございます。あの、遼さんは今どちらに?」
美姫は丁寧にお辞儀した後、きょろきょろと周りを見回しながら尋ねた。
後ろから宏和が顔を出した。
「今日は、わざわざ息子の見送りに来てくれてありがとう。遼は、土産屋を見に行ってくるって出ていったんだ、すまないね」
すると、その横から佳那が口を尖らせた。
「家族と過ごす時間が少なくなるってのに、あのバカ兄。どこほっつき歩いてんだか。
せっかく大和さんと美姫さんも来てくれてるのに......」
美姫は、怒って不平を口にしながらも寂しそうな表情を覗かせる佳那に、胸が痛んだ。
お兄さんが遠くに行ってしまうんだもん、寂しいよね......
ここは......思い出が多すぎる。秀一さんとの、思い出が。
ウィーンに向けて旅立った時には、ずっと彼と一緒にいられることに高揚していた。けれど、日本に帰国した時には、共にウィーンに暮らす決断を出来ず、彼を日本に縛り付けることに後ろめたさを抱えることになった。
ようやく私は......その鎖を解き、秀一さんの未来のため、ウィーンへと羽ばたかせた。
彼の、意思とは裏腹に......
間違っていないと思っても、夢の中での秀一さんは私を責め続ける。
それは、独りよがりの私のエゴなのだと。私は、彼を救ってなどいないのだと......
少し先を歩きかけた大和が足を止め、美姫を振り返った。美姫は大和の様子には気付かず、膝を震わせ、唇を噛み締めていた。
美姫......
大和はつかつかと歩み寄ると、大きな躰でふんわりと包み込むように抱き締めた。
「やま、と......」
驚いて見上げた美姫の顔に、大和が鼻と鼻がつきそうな距離で見つめた。
「俺が、いる」
低く小さいけれど、まるで熱をもっているように溶かされそうな大和の声。
「うん」
大和の逞しい肩に顔を埋めた美姫の頭を、彼は優しく撫でた。
ふたりは手を繋ぎ、成田国際空港第1ターミナルを歩いていた。
「フライトの時間って何時だ?」
大和に尋ねられ、美姫はあいている手でバッグを引き寄せ、中からメモを取り出した。
「夕方4時25分発のユナイテッド航空だから、あと3時間あるよ」
エレベーターで4Fに上がり、ユナイテッド航空のチェックインカウンターのある南ウィングを目指す。
「あれって......」
美姫は、遠くに見える人影を指差した。
そこには遼の両親と妹が立っていた。だが、肝心の遼の姿は見えない。不安に思いながら、大和は逸子に声を掛けた。
「先日は、どうもありがとうございました」
そう言って、頭を下げる。実家に電話して、逸子から遼のフライトの日にちと時間を教えてもらったからだ。
逸子はふたりを認めると、嬉しそうな笑顔を見せた。
「こちらこそ、わざわざ電話くれてありがとう。あの子、家族にまで見送りはいらないだなんてかっこつけちゃって......本当は寂しがりやのくせに。
美姫さん、お久しぶり。すっかり綺麗になられたわね。
そうそう!ふたりは入籍したのよね、おめでとう!おふたりが来てくれて、遼も喜ぶわ」
「ありがとうございます。あの、遼さんは今どちらに?」
美姫は丁寧にお辞儀した後、きょろきょろと周りを見回しながら尋ねた。
後ろから宏和が顔を出した。
「今日は、わざわざ息子の見送りに来てくれてありがとう。遼は、土産屋を見に行ってくるって出ていったんだ、すまないね」
すると、その横から佳那が口を尖らせた。
「家族と過ごす時間が少なくなるってのに、あのバカ兄。どこほっつき歩いてんだか。
せっかく大和さんと美姫さんも来てくれてるのに......」
美姫は、怒って不平を口にしながらも寂しそうな表情を覗かせる佳那に、胸が痛んだ。
お兄さんが遠くに行ってしまうんだもん、寂しいよね......
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